13-17-5-19
アーロンの大剣を持ち上げることに意外と難航しているのか、フィーはやや難しそうな顔をしている。
だが、それでもあと少しで引っ張り上げれるらしく、妖精に頼んでいる…動いてないはずのフィーの手のひらにじわり、と手汗が広がっているのが見て取れた。
あとどれだだろうか…と思いながらもウガルルと相対し続ける。
……そして、それから少し。
ついに、その時がきた。
「!アーロン!」
興奮したような大きなフィーの声が響く。
「できたか?!」
「うん!」
パっとそちらを見れば、少し疲労した様子のフィーと、水面から顔をのぞかせている自分の大剣。
手を伸ばし、大剣に持ち替えよう、としたが。
先ほどのフィーの大声のせいだろうか、ウガルルのターゲットがどうやらこっちに移ってきてしまったので、ひとまずそれをいなしてからにすることにした。
最後の最後まで、しっかりと守り切らないと。
「フィーもうちょっとキープ!できるか!?」
「大丈夫!」
何度かウガルルの攻撃からフィーを守り続けていたから、焦ることなく対処をする。
幸いリュディガーの盾もとても使いやすいものだったため、難なくと行動ができる。
ガンガン、とウガルルの攻撃を防ぎ、跳ねのけ、効かないことをアピールする。
その間に、他のソーヤやリュディガー、ミコトやアストが別方向から攻撃を仕掛けて、そちらに気を向かせるようにする。
だいぶウガルルの扱いがわかってきてので、この連携もだんだんスムーズになってきた。
あとは倒すだけなのだが、どうしてもそこだけは決定打が打てずにいた。
何か、状況を一変するような強力な一撃があれば…と考えつつ、リュディガーに視線を走らせる。
多分、この中で一番強い攻撃をすることができるのはアストかリュディガー。
だがアストは無効化の弾のチャージを待っているし、それを撃ち込んだ後は少しの間別の行動にも影響がでるため、ややクールタイムが必要。
攻撃に転じることはできない。
アーロンは現在盾を持っている、ということもあるが、元々そこまでがっつりとダメージを稼いでいくタイプではなかったので、攻撃力としてはどこまでではない。
フィーは属性一致やいろいろな状況が味方になりやすいのでどうすればこの場で最適解なダメージを出すことができるか、というのが得意…とはいいつつ今は大剣を持ち上げ続けて水面に維持させるのに精いっぱいになっているところがある。
ミコトは軽いフットワークで敵を翻弄しながら切り刻んでいくタイプ、どちらかと言えば一撃一撃は軽いものだ。
エネミーが固い装甲を持っていたりするとダメージを与えることがあまりできなくなるため、囮役になっていたりする。
……一人ダンジョンへ潜ったりするときは逃げに徹して何とかしていたようだ。
ソーヤは弱点特攻もできるし、的確に相手の弱いところを見つけ、そこを正確に射貫くことのできる技量もある、が今のウガルルとの相性が良くなく、その真価を発揮することはできていない。
どのような攻撃をしても、どれだけスピードの乗っていて鋭い矢を放っても、ウガルルの風の鎧を前に弾かれてしまう。
だが、その矢の鋭さや、衝撃の強さ、というものは相手に伝わるのか、そのような強めの攻撃をもらったあと、ウガルルは決まって不機嫌そうにソーヤのことをねらいだす。
狙われる、とわかっていれば回避もしやすいため、ソーヤは攻撃をしてはウガルルの注意を引き、回避をする、という行動をとっている。
その動きはどことなくミコトのような身軽さとアストのよなアクロバットさを持っていて、ソーヤもこの旅でだんだんと周囲に影響を受けてきているんだと、実感することができた。
……色々と考えてしまったが、やっぱりウガルルに攻撃を状況を変えることができるような一撃を浴びせれるのはリュディガーしかいない、と思ってしまう。
ソーヤでも出来そうだが、ソーヤの武器は弓矢だ。
照準を狙うのにも、矢を放つまでにも時間がかかる。
アストと示し合わせて同時にやることもできるかもしれないが、いまその連携が取れるほどに余裕はない。
それに、ウガルルはもともと風の鎧がなくても装甲がそれなりに固い。
矢がうまく弱点に刺さったとしても、状況を変えるには少し物足りない。
何本もうちこむ必要がある。
だが、そうやって何本も矢を撃ち込む間に、またウガルルはきっと風の鎧を纏いだす。
そうならないためにも、近接武器で一撃、装甲すらも関係なく貫いてしまうような、つよい一撃がいい。
「チャージ、出来たぞ!」
アストの声が響いた。
ようやく待ちに待った、アストの無効化の銃弾が装填できたらしい。
アーロンの指示を待っているようで、アストはすぐに撃ちだす、ということもせず少し距離をとったところで静かにウガルルに照準を合わせている。
これを外すわけにはいかないからか…外してしまうとまた長いチャージ時間を耐えなくてはならない、と認識しているからか、アストの表情はいつもより硬いようにもみえる。
「リュディガー!」
まさか、呼ばれるとは思わなかったのか、リュディガーは少し驚きながらも、ウガルルから距離を取って、こちらの指示を聞けるように耳を傾けてくれた。
「アストの無効化の弾が撃ったら、同時に攻撃を仕掛けてくれ!一番でかいものを!」
「?!で、ですが私は。」
タンクだったせいか、周囲にいるのが後衛ばかりだから、どうしても自分にターゲットを集めたうえで守り切る、という思考があるらしく、自分がダメージソースになる、ということを全く考えてなかったようで。
一瞬そのように自分じゃない方が…彼は口にしかけた。
だが、その言葉にかぶせるように言い放つ。
「守るのは俺がやる。」
盾を持ったまま、フィーを守るためではなく、ダメージソースとなるリュディガーをウガルルから守るために、アーロンは前にでる。
「……わ、わかり…ました。」
まさか、自分がそうやって攻撃主に回ることを考えてなかったのか、リュディガーはすこしの逡巡のあと、そのように返事をした。
それに頷いて答えて、アーロンはウガルルの前に躍り出た。
後ろで、リュディガーが一度戦線から離れて、アストの方向へと向かっているのが聞こえてきた。
この判断が吉と出るか、凶と出るか…。
それは終わってみないとわからない。




