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それから何度も攻撃を試みる。
戦法を多少変えてソーヤが攪乱をしたり、フィーを陽動に使ったりもしたが、効果はなかった。
あれ以降ウガルルに攻撃をくらわすことは出来ないでいた。
「くそ…!」
次第に疲労と焦りが募っていった。
それはアーロンだけでなく、前線でタンクとしての活躍を維持し続けるリュディガー、攪乱やウガルルの様子を見て瞬時に何をするかを伝えるミコト、状況に応じてその時の最善の一手を選び続けるアスト、混乱する戦闘でも精霊への協力要請を絶え間なく伝え続けるフィー、一瞬の隙を見逃さないように気を張り詰め続けるおソーヤ。
全員が全員、全力で対処をしていた。
だからこそ、いつもは何ともないだけの戦闘時間でも一層疲れているように感じた。
アーロンは再び、ウガルルと対峙するために大剣の柄を握りしめる。
何度も何度も強い衝撃を受けて、そろそろ握力が限界に達しそうだったがそんなことを言っている場合ではない。
グッ、とまだ握り込んで大剣が振れることを確かめて、ウガルルに向かって行く。
流石に何度か打ち込めば、攻撃じたいを無理やり届かせる方法は何となく理解してくる。
その証拠にウガルルもこうして打ち込んだ瞬間は一瞬怯んだように動きを止めるのだ。
だが、それだけだ。
他には特にダメージになったかのような印象になっていないし、もちろんウガルルの身体に傷も着いていない。
そして下手をしてウガルルの風に触れてしまうと運が良ければ吹き飛ばされるだけ、悪いとたちまち鎧が傷だらけになる。
また、だめか!と内心をこぼさずに歯がぎりぎりと音が立ちそうなほど噛みしめる。
渾身の切りつけが意味をなさずに、時間だけが過ぎていく。
そうこうしている間にウガルルは再び、高く跳躍する。
この個体のウガルルは、良く跳躍を利用する気がした。
元々ウガルルという個体がそういうものなのかはわからないが、とにかくこのウガルルは良く跳んで、自分の視界から消えるようにすることが多かった。
「うっ…!」
現状を把握するためにすぐに鷹目のスキルを使用する。
一瞬、頭の中で視界がブレて、天からの視点を移しこむ。
いったい、どこに…。
そう広い視界から跳んだウガルルを探そうとしていると。
「アーロン!!危ない!!」
ソーヤの絶叫にも似た声が響き渡った。
瞬時に自分の頭上を見る。
ウガルルが、こちらを見て牙をむき出しにしていた。
避けることは間に合わない。
今できるのは…。
ウガルルのよだれだろうか、透明な液体がポタリと自分の近くに落ちた。
鷹目のスキルを切り、元の自分の視界に戻る。
そのブレに一瞬身体がよろけてそれでも何とか足に力を入れて立つ。
上を見ればこちらに向かって来ようとしてるウガルルの姿。
近くにリュディガーもアスト、ミコトもいない。
誰かに変わって守ってもらうことや、回避の補助をしてもらうこともできない。
自分で、自分の身を守り切るしかない。
大剣を構えて、来るべき衝撃に備えた。
その瞬間は思ったよりは遅くて、驚いたが、それよりも予想以上の力強さで驚きの声も上がらなかった。
ウガルルは頭から捕食でもしようとしたのか、真上から大口を開けてアーロンに噛みついてきた。
それが何となくわかっていたため、アーロンは大剣を上に構えて待ち構えていた。
見事に、ウガルルは大剣を咥えていて、現状ギリギリ、と音を立てて噛みしめている。
口の中が切れることを気にしていないのか、それともエネミーの体というのはこの程度ではきずがつかないようなものなのか…大剣をいくら引っ張っても離す様子がない。
「こ、の…!」
大事な武器である大剣を手放すわけにはいかない、と手に力が入る。
若干引っ張り合いのような形になってしまって、硬直する。
あと少しの間この状態で耐えればリュディガーかミコトのどっちかが手助けに来てくれていて間に合う。
もしくはアストのリロードタイムが終わって、一転反撃に持ち込める。
そう考えたのがいけなかったのか。
この長い戦闘の間にアーロンの手汗が潤滑剤となってしまった。
そして、それに気づいた一瞬で、掴みなおして引っ張り合いをする、握力が、アーロンの手に残っていなかった。
「っ!」
ずるんと、ウガルルに持っていかれてしまった大剣はまるで犬のおもちゃのように投げ飛ばされる。
ガシャーンと、それなりに大きな音を立ててダンジョンの床に転がり落ちる。
続いて、小さく水の音が。
取りにいかないといけない。
そう大剣の所在を確認しようとして、気づく。
今、ウガルルは自分の前にいる。
そして、自分はいま丸腰である。
対抗する手段がない。
大剣を取りに行くどころか、ここからいったん引くことだって難しい。
それでもどうにかするしか…。
そう覚悟を決めようとしたときに、横から何かが勢いよく飛んできた。
ウガルルはその攻撃を予測してなかったようで小さく悲鳴を上げて受ける。
そのおかげで、ウガルルは後ろに下がって…アーロンからも必然的に距離を取る形になった。
ひとまずの危機は去った、と判断しアーロンは何が飛んできたのかを見る。
それは見覚えのある…リュディガーの使っていた盾だった。
ちらりと投げられた方向をみると、リュディガーは肩で息を切らして投球後のようなポーズをしていた。
位置は、それなりに離れている。
持ってみるとその盾はさすがタンクができるような装備の盾、という感じの重さ。
それをあそこから投げて、しかもウガルルを怯ませた。
思った以上にリュディガーという人物は力があるようだった。
「すまん、リュディガー!助かった!」
「え、えぇ…間にあって…よか、った。」
盾を持ち、ウガルルからの追撃が来ても大丈夫なように構える。
無我夢中だったのだろう、リュディガーは少し珍しく余裕がなさそうな表情をしていた。
だが、確かに焦るだろうな、という状況化だった。
あと一瞬遅かったらアーロンはウガルルからの攻撃を受けていたに違いないし、現在のアストやミコトの位置からでは救助は間に合わない。
リュディガーも、こんな思い装備をしているのだから、どんだけ頑張って走ったとしても間に合わなかったはずだ。
だからこそ、比較的一瞬手元になくてもいいと判断した盾を投げた。
……のだと思う。
「悪い、すぐに…!」
盾をすぐに返して、大剣の回収を…と思ったのだが、ウガルルが持ち直すのが思ったよりも早く、アーロンはその突進を受ける羽目になる。
「ぐぅ!」
足に力を入れ、踏ん張る。
掴みやすいように加工されている盾は、大剣よりもいくらか持ちやすくて、握力が低くなっているアーロンでもなんとかなりそうだった。