13-17-5-15
この調子で押し続けれれば、勝てる、そう思った瞬間だった。
ウガルルの様子が変わったのは。
アストへの攻撃を当てそこなったことで怒りが爆発したのか、腹立たしかったのか、さらに大きくうなり声をあげる。
そして、上へと跳躍した。
すぐに視線を上にやる、がウガルルの方が速く動いてた。
視界でウガルルをとらえるよりも前に、ウガルルはどこかへと移動していた。
一体どこへ、と思ったアーロンはすぐに察知を使う。
だが、反応しない。
またか、と内心舌打ちをして次に鷹目に切り替える。
視界は黒くならず、いつもの上からの視点を映し出した。
そこには、アストの背後へと回り込み攻撃の準備をしているウガルルが見えた。
「アスト!後ろだ!」
見えた瞬間反射的にそう叫んでいた。
ソーヤの援護射撃は間に合わない、ソーヤも視界でウガルルを補足できなかったため、ダンジョンのあちこちへと視線を送っていたせいで矢を構え切れていない。
フィーの詠唱も今からでは間に合わない。
ミコトはアストと距離がありすぎて、風のスキルを使ってその場に向かったとしても被害者が二人に増えるだけ。
自分も、重い武器を持ちながら庇いに行ける距離にいない。
「っく…!」
アストは後ろを確認することなく全力でウガルルの攻撃範囲から脱出をしようと走り出す。
だが、アストが攻撃から逃れようとするよりも前に、ウガルルが後ろ足にためていた力を解き放ち、飛び掛かる。
アストの身体にウガルルの影がかかる。
「…!」
せめて被害は最小限に、致命傷だけは避けないと。
その思いがアーロンに防御のスキルを使わせた。
アストに可能な限りの重ね掛けをする。
この程度のことでどうにかできるとは到底思わなかったが、やらないよりは、きっとましだろう。
アストもアストで何かしらの覚悟を決めたような顔をして、ウガルルに向き直って、顔や心臓のあたりを庇うようなポーズをとる。
頭と心臓が無事なら、どうにかなる可能性は十分にある。
もしかしたらダメージの後遺症で腕がダメになるかもしれないが…それでも命を失うよりはよっぽどいい。
その判断だろう。
もしくは、純粋な人間の防衛反応か。
もうウガルルからの攻撃を受けるしかない、と覚悟を決めた瞬間。
「転!」
リュディガーの声が響き渡った。
そして目を疑う光景がそこに起きた。
先ほどまでアストが居た場所にリュディガーがいて、盾を構えている。
リュディガーの居た場所には、驚いた表情で防御姿勢を取っているアストがいた。
二人の位置が、入れ替わっていた。
驚きの声が口から洩れるよりも前に、ウガルルの攻撃はリュディガーの盾にぶつかる。
ウガルルは忌々し気に、うなって再び後退する。
「ご無事ですか!」
「あ、あぁ!ありがとうリュディガー。」
「いえ、この程度…。」
リュディガーはアストの無事を確認すると、再びウガルルと向き直る。
どうやらこのままタンクとしてウガルルの攻撃を一手に引き受けるつもりだ。
「くそ、コイツ察知でたまに見つけられない!」
アーロンは何とかリュディガーの近くにまでやってきて、大剣を構える。
いくらリュディガーが優秀なタンクだとしても、このウガルル相手に一人で防御をし続けるのは無茶だ。
せめてアーロンとリュディガー、この二人で負担を分け合わないと、どちらかがつぶれてしまう可能性がある。
「察知で、ウガルルは…風の…そうか!」
ミコトは何かを思いついたのか、そう声を上げた。
「何か特別なことがあったんですか?」
不安げなフィーの声がそう尋ねる。
「ウガルルに限った話じゃないけどな、エネミーってのもスキルに近い性質を持った技をつかってくる。」
聞いたことのある話ではあった、ただそういうのは基本的に深い位置にいるエネミーの話で、自分たちが今まで相手にしていたような浅い層…表層近いあたりにいるエネミーでは見られなかった。
「まさかコイツがそういうの使ってるってのか!」
「そうだよ!」
アーロンの問いに、ミコトは少し食い気味に返事をしてくる。
それほどに切羽詰まっている状況なのだ。
「多分風の分類の隠密だ!」
「隠密ぅ!?」
言葉の類からアーロンは自分との相性の悪さをひしひしと感じれられた。
ただでさえ相手は割とはやく動くヒット&アウェイな戦法で攻撃があてづらいうえに風で防御…しかも攻撃手段にもなりえることをしてくる。
加えて自分は動きは遅いタイプで一撃一撃に重きをおく、防御を固めながら一撃必殺を狙うタイプ。
抱えて加えて今まで察知という生体反応を見ることでどこに何がいるのかを把握して作戦指示をしていた司令塔。
相手に攻撃は与えられない可能性が高く、防御を固めるとこっちが一方的にやられる、あげくに突発的な動きをされると隠密のせいで居場所の特定が難しく、今までのやり方だとみつけることが困難で指示が出せない。
よくもまぁここまで相性の悪いものがバンバンと重なったものだ、と悪態をつきそうになる。
「アーロンは今から鷹目で相手を見ていたほうがいいな!」
「それが出来たら苦労しないって!」
実際そうなのだ、薄々察知では通用しないと思っていた。
だけど察知を使い続けていたのは、疲労のせいだった。
幼い頃から適性があって訓練を続けていた察知は今ではほぼ無意識的に、瞬時に使うことができる。
だが、鷹目のほうはまだ使う際に集中力が必要となるし、何より…視界の見え方が察知とは異なっていて、いまだに慣れないのだ。
長時間見続けていると、今目の前にある光景と鷹目の光景がダブって見えて脳が混乱して酔ってしまう。
それにまだ使い慣れてないので疲労蓄積も早い。
だから、使いたくても長時間使うわけにはいかなかった。
「…!だめ、また風を纏われた。」
めげずに弱点を狙いすましたソーヤの矢がはじかれる。
「悪い、まだ無効化は無理だ。」
「あぁ…火がぁ!」
アストもまだ、リロードタイムが足りないようでウガルルを注視しながらも銃を構えたまま動けないでいる。
フィーはどさくさに紛れて炎の術を使っていたが、はかなく散らされてしまった。
「とにかくもう一度アストの無効化を狙って、そこで畳みかける!」
リロードタイムが終わるまで何とか踏ん張る、その覚悟をもち、アーロンとリュディガーはウガルルに立ち向かっていく。
ミコトもうまいことタンクの間を縫って攻撃を続け、切りつける。
だが、その攻撃が届く気配はなかった。