13-17-5-13
新たな階層に降りて、地図を埋めつつ、戦いを続ける。
エネミーの強さもそれなりに手ごわくなってきた、だが、まだ余裕をもって対処ができる。
ここまでかなりの数の戦闘をこなしたため、連携も全体的にまとまってきた。
これからさらに先まで…とも思ったのだが、ここまで降りてくるのにそうとう時間をつかってしまった。
ある程度の探索を終えたら、地上に帰る準備をしないといけないだろう。
これでリュディガーとはお別れになってしまうのだろうか、と思うと少し寂しいものがあるが、しょうがないことでもある。
彼に感じる違和感はあっても、どういうことなのか結局解き明かすことはできなかった。
彼が悪い人ではない、ということだけはわかったが、それだけだ。
ミコトには悪いが、そういうしかないだろう。
今から期待に応えられなかった、ということを口にだすことが、若干気が重い。
そこまで気負ってやっていたことではないのだが、知らず知らずのうちに気持ちが入っていたのだろう。
申し訳ない気持ちが、強く胸にのしかかる。
「アーロン、こっちも回収終わったよ。」
「ん、じゃあそろそろゲートを探さないとな。」
倒したエネミーの素材を袋に詰めたソーヤがそのように話しかけてきて、ようやくハッと我に返った。
まだ、ダンジョンの中、それにそれなりに強敵がいる階層。
気を抜いてはいけない。
そう、心を改めて再び察知と鷹目のスキルを展開する。
……と、いっても同時に発動するのはまだできないようで視点を切り替えるようにスキルを交互の発動させているだけだが。
「あと探索できてないエリアは…?」
「あっちだな。」
アーロンの問いにはアストがすぐに答えた。
脳内でマッピングしているらしく、瞬時にどこが行ってない場所か、どことどこの道がつながっているのかがわかるそうだ。
アーロンも鷹目のスキルを持ってすればある程度はわかるのだが、まだマッピングにまできにかけている余裕がないので、こういう風に役割を分担してくれる存在というのは非常に助かる。
「…広いスペースがあるみたいだな、ゴースト系のエネミーも居ない…察知にも、かかってない。」
スキルが使用できるギリギリの範囲まで見て、伝える。
現状エネミーの姿は見えない。
とはいっても油断できないのがダンジョン。
目を離した瞬間に出現し、襲ってくる…なんてこともありえるからだ。
「んー、経験則からゲートは多分…この位置じゃないかな?」
ミコトは学者らしく紙に乱雑なメモをしてアストの脳内地図やアーロンの察知・鷹目で得た情報を元に物理的な地図をつくる。
これを見ることでフィーとソーヤも大体の今の自分の位置を理解できるようになる。
そして、たくさんのダンジョンに潜っただけはある経験とその知能で共通事項を見つけ出し、ゲートのある可能性の高いところを割り出す。
「よし、じゃあそっちに行こう。」
鷹目を少し長いこと…そして範囲ギリギリまで視野を広げて見ていたせいで少し痛む頭を、こめかみを揉むことで誤魔化しつつ、移動を開始する。
ここに潜ってからずっと察知と鷹目を高頻度で使い続けているし、防御系のスキルも戦闘の度に張りなおしている。
自分のスキルが冒険者として有用であり、使い勝手がいいのは助かるのだが、少し使いすぎてしまうと、少し身体に不調が出てしまう。
これも慣れてくれば次第に無くなっていくのだろうか、と思わずため息を漏らしそうになる。
とはいっても少し休憩すれば収まる程度のことではあるので、あまり気にしてはいないのだが…。
……それから少し歩いて、さっき鷹目で見た広い場所までたどり着く。
「…ん、ここか。」
「OKマッピングばっちりだ、次はー。」
もう一度、スキルを展開するか、と少し目の前のことから気がそれた。
目の端に何かが移った気がした。
だが、それに気が付くころにはスキルを発動していて、察知には何も引っかからなかったから、と少し安堵してしまった。
「…何か、聞こえる。」
「え?」
次に反応を示したのはソーヤだった。
人一倍気配に敏感だからか、それとも予感がしたのか…ともかくソーヤは周囲に視線を走らせる。
「音?何の音だ。」
アストもソーヤのそういう敏感なところは知っているからか、すぐに銃を構えて周囲を警戒する。
だが、視界には何もいないように見えた。
「待ってくれ、察知にはひっかから、な…。」
視界を鷹目に切り替える。
切り替えた瞬間移ったのは、暗闇。
違う、これは…。
「上だ!!!」
視界を展開した場所、丁度そこに…エネミーがいるということだ。
実態のあるエネミー、ゴースト系ではないものがそこに、天井に張り付いていたのだ。
アーロンの号令と同時に即座に全員回避行動、防御態勢を整え天井に眼をやる。
アーロンもまた大剣を構え、衝撃に備えた。
幸運にも狙われたのは防御態勢の間に合ってないアーロンやフィーではなく、しっかりと焦ることなく対処をしてるリュディガーだった。
「ぐっ!!」
だがそんな彼でも思わず苦し気な声を漏らすほどの衝撃があった。
このエネミーは一体…、と正体を探ろうとしっかり姿を見て、アーロンとソーヤ、そしてミコトが驚く。
「「「ウガルル!」」」
数年前トレヴィオのダンジョンにて命からがら逃げだしたトラウマ級の相手。
そいつは、風を纏いながらリュディガーに爪を立てていた。
「ウガルル?!なんだこいつは!」
アストとフィーは初対面のためか、驚きの表情を隠せずに一度エネミーとの距離を取り出す。
「風属性の上位~中位級のエネミーだ!しかもこいつそれなりにでかいぞ!」
ミコトはそういいながら刀を抜き、構える。
「ソーヤとフィーは一度距離を取ってウガルルの弱点を突いてくれ!アスト一度リュディガーからこいつをはがす、錯乱のために何発か射ち込んでくれ、ミコトは俺がウガルルに攻撃した際タイミング良くリュディガーを救助!」
「うん、フィー、こっち。」
「はい!」
「任せろ!」
「任せな!」
それぞれが指示にのっとり、行動を開始する。
前までの自分ではない…それに今は頼れる仲間がいる。
アストが弾丸を打ち込む、風属性のエネミーと聞いたからか、だいたいの風属性が嫌う火の属性を付与されている魔弾だった。
それがウガルルの身体に数発あたり、それが気に食わなかったウガルルはリュディガーから視線を反らして、アストのほうを見る。
いまだ。
「おらぁあああ!」
力をこめた渾身の横殴りを浴びせる。
予想してなかった攻撃だったのかウガルルはそれをまともに受けて、その巨体が飛ばされる。
「リュディ!」
「へ、いきです。」
ミコトがリュディガーに駆け寄り体制を立て直す手助けをする。
あの時は逃げてしまったが、今なら。
「絶対に、倒すぞ。」
決意を込めてつぶやく。