316.最近どうなんだ
一方その頃
「死ねや小判鮫ェェエ!!!!」
「やっぱあの書き込み君だよねぇ!? 最近知らない人からも小判鮫小判鮫呼ばれるんだけど!?」
腕が六本になったヒンヌー教祖くんが物凄い形相で迫って来る。推定歳下のくせに圧がとんでもない。先輩に対する敬意なんて考えるだけ無駄だろう。
「《阿修羅爆裂拳》ッ!!」
「《最初はパー》ッ!!」
凄まじい速度で繰り出される連続攻撃に対して、待ったを掛ける様に手のひらを前に突き出す。
すると相手の攻撃は強制キャンセルされ、同時にスリーカウントが開始される。
「なんだそれは!?」
「《あっち向いてホイ》!」
「ごふっ――!」
最初はパーとは相手が拳で攻撃して来た場合にのみ発動できるキャンセル技であり、後出しで繰り出しても必ず相手よりも先に発動した事になる強力な『邪ンケン』スキルだ。
そして『邪ンケン』スキルを発動した場合にのみ使用できるスキルの一つである、あっち向いてホイをする事によって強制的に相手の目線をあらぬ方向へと向けさせ、同時に首へとダメージを与える。
スリーカウント以内に相手がルールを把握し、意識的に指差された方向以外へと顔を向ければダメージはない。
ちなみに首へダメージを与える都合上、普通に即死判定がある。今回は即死しなかったけど。
「教祖様!?」
「おのれ小判鮫ェ! 教祖様の大事な首を痛めつけおって!」
「高校生が中学生を虐めるんじゃない! 学校に言い付けちゃる!」
「ママを誑かす毛玉の悪魔め! 成敗してくれる!」
「なんなんだコイツら」
あんまりにもあんまりな言われように呆れて反論する気力すらない……でもまぁ、これまでの攻防で布石は置けているし、そろそろ仕返しの時間だ。
バイブレーションで地を揺らし、下敷き滑り台で静電気を浴びせ、炎上による火攻めで追い立てた――となればもう後はコイツを召喚するだけだ。
「――《害獣召喚》!」
久しぶりのクソ親父の召喚。召喚するまでにクリアしなければならない条件が面倒臭いが、それだけに強力な広範囲攻撃を行える切り札の一つ。
強烈な光と共に現れた小憎たらしい見た目のオヤジがその口を開く。
「――ちっぱい夢いっぱい、おっぱい揉め一回」
一瞬にしてその場が凍り付く。まさか下ネタで韻を踏むとはこの僕も予想外だった。普通に詰まんないし、滑ってるし、寒いなんてもんじゃない。
周囲の木々は凍てつき、空は曇天に、凍り固まった地面から摩擦が消え失せ、一斉に僕へと向かって飛び出していたヒンヌー教徒たちがひっくり返る。
「『あいったァ〜〜〜〜ッッ!!??』」
勢いよく後頭部を打ち付けた彼らが身動ぎする度にツルツルと滑り、あらぬ方へとバラバラに動き出す。
「馬鹿が! あれは既知のスキルだろうがッ!」
首の痛みから復帰したヒンヌー教祖が凄まじいスピードで迫る。いつの間にか彼の足にはスケート靴が装着されていた。
「ならこれはどうかな!? 《トリプルアクセル》!」
「なにィ!?」
これは氷の上を進む相手限定で、強制的にその場で回転させるという、かなり凶悪なスキルだ。
「この場に氷が張られた時点で僕の勝ちは決まっていたのさ! もういっちょ《トリプルアクセル》! 《トリプルアクセル》! さらに《四回転サルコウ》も入れちゃう!」
「うおおぉ、目が回るぅ!! だがっ! 俺はっ! この状況にも対応して見せるッ!!」
回転しまくっていたヒンヌー教祖が突然爆ぜる――周囲に黒い塊をばら撒き、氷が砕かれていく。
「今のは……そうか、変わり身と位置の入れ替えか」
「ご名答!」
背後から聞こえた声に振り返るよりも早く《思春期の娘と父》を発動し、無理やり物理的な距離を空ける。
「チッ、外したか」
「その、なんだ、最近どうなんだ……」
「……別に、普通だけど」
ぎこちない会話をしている親子と、氷が砕かれた事で徐々に復帰して来ているヒンヌー教徒たちを視界の端に捉えながら次の手順を頭の中で反芻する。
何が彼をそこまで駆り立てるのか、舞と仲の良い僕を打ち倒すべく、ヒンヌー教祖は僕の事を研究し、対策を練って来ている。
彼に見せた事がなくとも、一度でも人前で使った事のあるスキルは対応されると考えて良いだろう。
「どうだ? そろそろお得意のネタも尽きて来たか?」
「そういえば、仲良かったユミちゃんはどうしてるんだ? 今も遊んでるのか?」
「パパに関係ないじゃん」
加えて今回は人数の不利もある。ヒンヌー教徒たちは、一人一人はそこまで強くもないが、しかし無視できるほど弱くもない。
トッププレイヤーの一人であるヒンヌー教祖が連れて来た者たちだ。何かしら一芸は持っていると考える。
「もう気付いているとは思うが、お前の対策は十分に練ってきている。観念してママと別れるんだな」
「いや別に付き合ってる訳じゃないし……」
「ふざけんな! お前がママと付き合える訳ないだろ!」
「なんなんだよ……」
「ちゃんと勉強してるのか? 勉強しないと将来――」
「もううっさい! あっち行って!」
本当に煩いからあっち行って欲しい。奇しくも自らが召喚した娘と意見が一致する。本当に舞は昔から変な人に好かれるなぁ。
「仕方ない、これだけは出したくなかったけど……」
「! まだ隠し芸が!」
「隠し芸とか言うなし」
あれやると僕のメンタルがゴリゴリ削られるし、何よりもコイツに見せるのが凄く嫌なんだよなぁ……ぐぬぬ、やはりやりたくない。
「何かするぞ! 殺られる前に殺れ!」
「『サッー! イエッサー!』」
悩んでいる暇はないと、スキルを発動しようと構えた僕の目の前で、一人のヒンヌー教徒の頭が破裂する。
「……は?」
「え?」
突然の事に驚くも、即座にその場から飛び退いて周囲に視線を走らせる。
「ユウさん、コチラは終わりましたよ」
その声に視線を正面に戻せば、いつの間に現れたのか、ヒンヌー教徒の切り離された頭部を両手に掴んでいるレーナさんが居た。
「『げぇっ!? ジェノサイダー!!??』」
まるでオバケが出たみたいな――まぁ、オバケよりもタチ悪いんだけど――反応をするヒンヌー教徒たちが次々とキルされていく。
やっぱりあの人は対人戦が半端なく、もう冗談じゃないくらい強いな。
「ユウー!」
「マリア!」
背後の声に振り返れば、コチラへと走って来る舞とハンネスさんが居た。
ふぅ、助かった……これで僕が身を削る必要は無くなった訳だ。
「お、おのれ小判鮫ェ……!!」
「小判鮫?」
「女の影に隠れやがって! 覚えてろよォ〜!」
「小判鮫とは?」
小判鮫発言に首を傾げるレーナさんに背を向け、ヒンヌー教祖は全力ダッシュでこの場から退却していった。逃げ足が早い。
結局何がしたかったんだアイツは……まぁ、終始笑顔だったから普通にゲームを楽しんでただけかも知れないけど。
「はぁー、疲れたぁ……」
「お疲れ様」
その場で大の字に倒れる。上から舞が覗き込んで来るけど、まぁいいや。
とりあえずレーナさん達と情報共有しつつ、後でヒンヌー教祖をとっ捕まえて尋問しなきゃなぁ……まぁ、疲れたから後でいいや。
「お父さんな、ケーキを買って来たんだが、一緒に食べないか?」
「そうやってすぐ物で釣ろうとするところが嫌だって言ってんの!」
あ、消し忘れてた。
その、なんだ、最近どうなんだ?







