224.ベルゼンストック市その4
今年も半分が終了しましたよ……(白目痙攣)
「うげっ、『ベルゼンストック市』ってここか……よりにもよってアンタ達とまたこの街に来るだなんて」
目的の街に着いた瞬間に隣から発せられた第一声に振り返ればブロッサムさんが何やら苦い顔をしていました。
彼女にとってあまり良い思い出のない場所なのでしょうか……私には詳しく分かりませんが、まぁそのうち忘れるでしょう。
「大丈夫? 膝枕する?」
「うっさいわ!」
……マリアさんと仲良くじゃれ合っているようなので大丈夫でしょう。
と、そんな事をしている内に私達の下へと真っ直ぐに向かって来る人物が居ますね。
「……戦乙女様、ロン老師はこちらです」
「え、誰よコイツ」
「案内なんじゃない? 私もよく分からないけど」
戦乙女? ……あぁ、そういえばそんな呼ばれ方をしていましたね、完全に忘れていました。
訝しむ二人に問題がない事を告げ、そのまま彼の背中を追い掛けます。
「なに? アイツ戦乙女とか呼ばれてんの?」
「本当に何をしたのレーナさん……」
……はて、何をしましたっけ?
この街では色んな遊び方をし、またこれからさらに新しい遊びをする事しか分かりませんね。
私は常に自分が楽しくなる事しか考えていません……なんて、言えたら良いのですけれどね。
せめてゲームをプレイている時くらいは良いでしょう。
「……こちらです」
「ご苦労様です」
案内されたのは一軒の古臭い小屋ですね……もしやここで一戦交えようとか考えてます?
だとしたら少しガッカリですね、芸が全くありせん。
「おぉ、よく来た。……他にも居るようじゃな?」
案内の男性が去ったのを確認してから無造作に小屋に入ると、狭い室内で熱心に祈りを捧げていたロン老師がゆっくりと振り返ります。
まず私に目を留め、それから背後のブロッサムさんとマリアさんへと視線を移し……と、マリアさんにとても注目している様ですね。
「……お前さん、『蒼穹の太陽神』の巫女かえ」
「うぇ?」
まさか自分に話を振られるとは思わなかったのか、マリアさんが素っ頓狂な声を上げてますね。
「彼の御仁にも負けないくらいの秩序の申し子が何故このような混沌の化身……それも二人と行動しとる?」
「えっと……友達だから、ですかね?」
「なるほどのぉ……友が下手な事をせんように付き添っておるのか」
「……まぁ、だいたいそんな感じです」
へぇ、マリアさんってばそんな事を考えていたんですね……思えば私が害したNPCが即死でないのなら必ず癒していましたね。
あれもその一環という事でしょうかね……面倒な事をするものだとは思いますが、それがマリアさんの『遊び方』であるならば別に良いでしょう。
もしも私とマリアさんの『遊び方』がぶつかった時はまた一緒に遊びましょう。
今度はエレンさんも戦えない振りはしないでしょうし。
「さて、本題に入るが──ワシはお主ら混沌の勢力に対して反旗を翻す事にした」
「いいんですか? 多くの血が流れますよ?」
てっきり無駄に信徒を殺させない為に指導者として私達に降る事を選んだのだと思いましたがね。
いったいどんな心変わりがあったと言うのでしょうか。
「怪訝な顔をしとるのう」
「えぇ、出来たら理由を教えて貰いたいものですね」
貴方の動機が分かれば弱点も判るでしょう。
「そうじゃな……まず、早期にお主達に降った事によって我らには余裕ができた」
「……」
……なるほど、早くに降った事によって『バーレンス連合王国』という庇護下でぬくぬくと牙を研ぎ澄ます事が出来たと。
動乱を単独で対処するどころか、勝手に私達がほぼ片付けましたからね、その分のリソースを他に割くことが出来、さらには『バーレンス連合王国』の外洋貿易の玄関口として機能する事で、革命直後で治めるべき領主の居ない『無主地』として、外国と交渉しなくて済んだと。
関税なんかを追加で掛ければ資金も稼げますし、私が大陸北部へと進出している間に非戦闘員を逃がす事も出来たでしょう。
「さらには有り難い事に、部下達が一緒に戦う事を申し出てくれてな……老いぼれ一人にだけカッコイイ真似はさせないとな」
「……なるほど、それが心変わりの理由ですか」
これらの余裕に加えて信頼する部下であり、同じ神を信仰する信徒達から協力を打診されたのならここまで大きく行動を変えても仕方ないでしょう。
当初はこの老人一人で捨て身の特攻を仕掛けてくると思っていましたが、それよりも面白くなりそうなので構いません。
「とは言っても有志の者たちのみじゃし、事情を知らん一般市民も居る」
「はぁ……?」
今さらそれが何だと言うのでしょうか?
私と敵対する事を拒んでいる方や、事情を知らない方達が居たところで大した違いはないと思いますが。
「そこでじゃ、戦う場所を変えたいと思うが……良いか?」
「……構いませんが、その場所がこの小屋なんていうのはナシでお願いしますね」
「そんな訳なかろう」
「なら良いです」
どうやらこの小屋が遊び場という詰まらない事態は避けられそうですね。
「場所はこの地図に記してある」
「用意が良いですね」
渡された地図を広げて見てみますが……これ、指定の場所が海のド真ん中なんですけど、船の上で戦うんですかね。
「まぁ、来れたらの話じゃがな」
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クエストNo.番外
ワールドクエスト:老司祭の反逆
依頼者:ロン老師
依頼内容:条件を揃え、秩序を守護する戦士の一人としてなんの憂いもなく戦える様になったロン老師とその仲間達を撃破せよ。
報酬:5レベル分のスキル含む経験値・1500万G・???
注意:ワールドクエストはゲーム内のシナリオや今後に深く関わるクエストです。その成否に関わらず受け直す事も何度も受ける事も出来ません。
受注しますか? Yes / No
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「……」
ふむ、これは船の上で戦うという事では無さそうですね……とりあえずいつもの様に『Yes』を押して承諾します。
「ではワシらは先に行って待っとるぞ」
さてさて、どうやってロン老師の元まで辿り着きましょうか。
「ちょっと、これ海のド真ん中じゃない」
詰まらなさそうに話を聞いていたブロッサムさんが、ロン老師が去ったと見るやいなや私の手元から地図を奪い去ってからそんな事を呟きます。
まぁ、困惑する気持ちは分かります……おそらくですが、海中にあるダンジョンなどの奥に待ち構えているのでしょうか。
「ねぇ、アンタの彼氏なら何か分かるんじゃないの?」
「……彼氏?」
「おや、マリアさん恋人が居たんですか」
それは初耳ですね……私には恋愛なんかはよく理解できませんが、一般的にはめでたい事や他者へと自慢できる事だったと記憶しています。
確か、恋人が居る人と居ない人では『人間力』……というものに雲泥の差があるのだとか。
……あまりよく分かりませんが。
「ほら、ユウって名前の」
「なっ?! あ、アイツは私の恋人じゃないし! 違うし!」
「あっそ、恋人じゃないんならそれで良いわよ、何をそんなに慌ててんのよ」
「うわすっごい、簡単に殺意が芽生える」
どうやらブロッサムさんの勘違いの様ですね。
しかし確かにユウさんなら行き方とか色々知ってそうではありますね。
「まぁ生娘なロリっ子に彼氏が居るはずもないわね」
「ほーん? ……じゃあ聞くけどブロッサムは経験があるっていうの?」
とりあえずユウさんにメールを送りましょうか……詳しい事を知っていれば良いのですが。
「えっ……わ、私はそんなに安くないのよ、分かる?」
「つまりはお前もガキか」
「何だとロリガキ」
おや、返信が早いですね。
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差出人:ユウ
件名:金属製の装備は厳禁です。
本文:
浜辺や海中エリアは強力な潮風によって金属製の装備の耐久値の減りが早くなります。
特に海中ともなると、緩やかですがスリップダメージの様に目に見える速度で減っていきますし、装備の重量によって身動きに制限が掛かり、各種ステータスにデバフが付きます。
なので布製の装備で身を固め、攻撃も武器ではなく魔術やスキルでした方がよいです。
あと補足として、水着タイプの装備を着用すると逆に行動速度などにバフが掛かる様ですね。
そして地図に記されたダンジョンは知らないのでおそらく未発見だと思います。
なので布製、出来れば水着タイプの装備で素潜りしながら地道に探すのが良いかと思いますよ。
PS.マリアには海中で炎は使用厳禁だとお伝え下さい。
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ほほう、なるほど……かなり詳細に書いてくれてますね。
「未経験のロリガキが聖母とか……おままごとかな? 飴ちゃん要る?」
「は? (威圧) はぁ? (疑問) ……ほほぉ(理解)」
にしても目に見える速度で減っていくのですか……場合によってはそのまま戦闘中に山田さん達が死んでしまう事も有り得そうです。
「私の膝で泣いてた子が悪女ムーヴとか……ごっこ遊びかな? 飴ちゃん要る?」
「は? (威嚇) はぁ? (懐疑) ……ほほぉ(把握)」
海中では糸もおそらく使いづらいでしょうし……なるほど、とても面白い催しをしてくれるじゃありませんか。
「現役女子高生の氷像かき氷とかどう? 面白そうじゃない?」
「現役女子中学生の直火焼きとかも良いと思うんだよね」
何度かユウさんとメールのやり取りをした結果、私達がやるべき事は決まりましたね。
「マリアさん、ブロッサムさん──水着を探しますよ」
「「──ほぇ?」」
おや、私がユウさんに相談したり考え事をしている間に二人だけで遊んでいた様ですね。
お互いにお互いの頬を引っ張り合うという、とても斬新なポーズで固まっている二人を首を傾げながら眺めますが……特別な意味でもあるのでしょうか?
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