192.第二回公式イベント・collapsing kingdomその29
おらぁ!更新だぁ!
「シっ!」
開幕の爆撃からハンネスさんがおそらく魔術で地面を盛り上げて防いでくれましたので、即座に横から飛び出してマリアさんとブロッサムさんの二人に向けて苦無を投擲します。
……どうやら地面を盛り上げるのではなく、手前の地面を引き上げるようにして壁が作られていたようで二人は大きく跳躍しています。回避という選択は取れないでしょう。
「ふん!」
「せいっ!」
ですが案の定と言いますか、普通に弾かれてしまいますが何も問題はありません……二人に弾かれてデタラメな方向へと飛んでいった苦無から伸びる糸を口と手で手繰り寄せ、引っ張ります。
一瞬だけ二人は怪訝な顔をしますが……直後に気付いたようで急いで自分達が弾き飛ばした苦無を撃ち落とすべく動き出します。……まぁ遅いんですが。
「ハンネスさん!」
「オラァ! 《アース・ピラー》!」
ハンネスさんの『大地魔術』によって周囲に大量の土と岩の柱──立体的な遮蔽物が出来上がります……それによって私が手繰り寄せた苦無に取り付けられた糸が柱に絡まり、周囲に糸の結界が出来上がります。
二人が飛ばしてくれた方角が良かったですね……いや、飛ばされた方角に合わせて柱を誕生させたハンネスさんが良い仕事をしましたね。
「チッ! 立体的に動いて来るわよ!」
「糸なんて全部燃やしてあげますよ!」
柱の側面を蹴る事で跳躍を繰り返して張り巡らされた糸の一本を掴んでぶら下がり、振り子の要領で勢いを付けて逆上がりの様に半回転して上に飛び乗ります。……そのまま糸をバネのように利用して飛び回る私に向けてマリアさんが糸を、ブロッサムさんが私本体を狙います。
……ですが良いんですか? 上ばかり見てて……敵は私だけではありませんよ?
「俺をシカトするたァ、クソ女みたいな事をしてんじゃねぇぞぉ!! 《地震圧縮激》!!」
「うわっ!」
「この醜男!」
ハンネスさんが黒い重力場のような圧力のある鈍い光を発生させながら斧を地面へと叩き付けると同時に激しい地揺れが生じ、所々で地割れを起こしながらマリアさんとブロッサムさんの二人の体勢を大きく崩します。それによって私や糸を狙った魔術による攻撃は大きく逸れ、空の彼方へと消えていきます。
「《粉塵爆砕》!」
「『隠密』」
追加でハンネスさんが自身の近く地面を叩き割り、それを爆砕しながら二人の方へと攻撃も兼ねて吹き飛ばしていく事で周囲に土煙が立ち込めます。……それによって二人の視界から外れましたので『隠密』スキルを使用して身を隠します。
「ブロッサム!」
「分かってるわ! 《ブリザード》!」
……さすがにマリアさんが炎で吹き飛ばしたりしませんか……粉塵爆発でも起こってハンネスさん諸共吹き飛んだりすると、それはそれで面白かったのですが……まぁそれはまたの機会という事で今は諦めましょう。
とりあえずハンネスさんに取り付けた糸を軽く二回ほど引っ張って合図を送ります……身体の感覚がフワフワしていても、直接肌を引っ張られれば分かるでしょう。
「……チッ、《地殻楼》!」
とても……えぇ、とても不機嫌そうになったハンネスさんが魔術スキルによって二人の周囲の地面を、剥いた蜜柑の皮を巻き戻すかの様に球状の檻を創り出します……それによってブロッサムさんの放った冷たい風は全て彼女達に返って来ます。
……これでは技を放った本人であるブロッサムさんはともかく、マリアさんのダメージは免れないでしょうし、マリアさんの高火力を出そうものなら蒸し焼きになるでしょう。……普通なら。
「──せいやぁ!!」
地面の檻を突き破り、真っ直ぐにハンネスさんへと伸びる蒼白い炎……おそらくブロッサムさんが二人の周囲の気温を下げつつ、マリアさんが火力を一点に集中する事で熱気が籠る前に貫いたのでしょう。
そして破壊ではなく、貫通を選んだという事は彼女達が何処から出てくるのかが分かるという事で──
「──《流星一条》」
爆薬や毒、強酸等を詰め込んた特製の鉄球を『投擲』の三次スキルである『投星』、その強力な攻撃スキルを使用して投げます。……『隠密』スキルの良いところは攻撃が相手に当たったりするまで気付かれない事ですね……投擲した物はある程度私から離れると視認できるようになりますが、《流星一条》の速さではほんの少しだけでも視認が遅れるだけで回避は致命的となります。
「ちょっ、待って!」
「まっず! 防御か回避を──」
「──《アース・シェイク》!」
「こんっの醜男!」
そして回避行動を起こそうとした二人に対してハンネスさんが妨害スキルを行使する事で邪魔をする……ろくに体勢を整えられないまま二人が居た場所へと《流星一条》が突き刺さる……強烈な破裂音と少し遅れてからの爆発音が私の身体を強かに打つ。
簡易的なキノコ雲が立ち上ると共に、下方では毒と酸の混ざった危険色をした霧が立ち込めます。
「……ま、間に合ったぁ」
「……あの大男、絶対に殺す」
しかしさすがと言うべきか……二人共にあの攻撃を防げるだけの防御スキルを持っていたようですね……もしくは二人のスキルを重ね掛けたか……そしてマリアさんの回復スキルによって状態異常は解除、ないし軽減されているようです。流石です──まぁ関係ないんですがね。
「早くこの場から離れ──」
「──《致命の一撃》」
予め自分に解毒薬を服用してその場に降り立ち、再度発動した『隠密』スキルが効果を発揮し、その効力を高めた《致命の一撃》によってマリアさんの喉をうなじから短刀で貫きます。
……引き攣り笑いをした彼女と目が合いましたので微笑んでおき、そのまま急いでこちらに振り向こうとするブロッサムさんの額に短剣の投擲によるヘッドショットで殺します。
「ガッ──!!」
「す、素敵──ぐふっ」
「……」
頭から後ろに倒れる様にして消えていくブロッサムさんと、なにやら気持ち悪い笑みをしながら消えていくマリアさんが対称的、ですね? ……まぁとりあえず、これで『要人枠』だった二人を殺せたのですから、それなりにポイントが入ったはずです。
……本当は生け捕りが良かったんですけど、マリアさんはともかくブロッサムさんは自決しそうですからね、死にポイントにするよりかは有用でしょう。……なによりも楽しかったですし。
「終わりましたよ、ハンネスさん──何してるんです?」
「……」
歩いてハンネスさんの元へと戻ると、なにやら大の字になって地面に倒れ伏してますね? ……今回はハンネスさんがダメージを喰らうような場面は無かったと思うのですが……それに身体の感覚が少しフワフワするくらいは大丈夫だと言ったのはハンネスさん本人ですし、どうしたと言うのでしょう?
「……なぁ」
「なんですか?」
ハンネスさんが話しながら空中に指を滑らせます……おそらくは自身のステータスを弄っているんでしょう。目線の動きだけでも操作できなくはないですが、私に『操作してるよ』という事を言外に伝えているのでしょう。
そのまま操作し終えたハンネスさんが自分のステータスが見える様にしてから私に寄越します。
「お前から貰った薬さ──遅効性の毒が入ってんじゃねぇか」
《──第二回公式イベント終了ォー!!》
その言葉を最後にハンネスさんまでリスポーンしていき、同時に運営主任の声によるイベント終了のお知らせが辺りに響き渡ります。
「……あれ?」
……そういえば本来は敵に対して使う用途の物でしたから、ついでとばかりに毒も入れたんでしたっけ? ……いけませんね、とりあえず毒を入れるのは私の悪い癖です。
──ピコンッ
イベント終了に伴う強制転移の直前……再び使えるようになったフレンドメールからメッセージが届きます。
『やっぱお前のこと嫌いだわ』
「……ふふ」
やはりハンネスさんはエンターテイナーの様ですね、いつも面白い気がします。
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ハンネス君、今回もとても頑張ったのに……そしてとりあえず入れとくかで毒を混入させるレーナさんよ……。