8話 作戦会議
昼休み。
俺と田中は作戦会議を行っていた。
手始めにここ最近起きたことを俺は包み隠さず田中に打ち明ける。
「世界の変革……『俺TUEEE』なるジャンルの作品が一つ残らず消えた……?」
「ああ、そういうことだ。理解は出来ないかもしれないが――」
「なるほど。翔太氏の作品が面白い理由が分かったでござる。別の世界で流行っていた文化……それなら受けて当然でござる」
「理解が早いな」
「中二病を舐めないで欲しい。しかし世界の変革とはまた中二度が高い……拙者も巻き込まれたかったでござる」
思ってみれば俺の状況は中二病にとって垂涎物なんだな。
「ていうか、俺の作品が面白い理由が分かったって……読んだことあったのか?」
「もちろん。昨日薦めようとした作品も翔太氏の『トラックに轢かれて死んだと思ったら、神にチートなスキルを与えられて、異世界に転生した』だったでござるよ。大輝氏に邪魔されて結局出来なかったが」
「そういや何か薦めようとしてたな。知らなかったとはいえ、自分の作品を薦められてたら背中がむず痒くなってただろうな」
「本当でござる」
田中がたまたま俺の作品を読んでいたとは。まあ俺も人気作家だからな、そういうこともあるか(自惚れ)
「さて、これで状況は話し終えたな。ようやく本題に入れる」
「大輝氏を潰す……でござったか。本当にそのようなこと出来るでござるか?」
「ああ。というのも世界の変革前、大輝は今と変わらず『小説家であろう』に投稿していたみたいなんだが、そこでは中堅作家もいいところだったんだ。なのに変革後、やつは総合日間一位を取っている」
「『俺TUEEE』が無くなった影響でござるか?」
「いや、それは直接的には関係ない。というよりこの世界の変革で起こったことの本質はそうじゃなかったんだ」
「…………?」
「『あろう』文化の全体的な後退。これが世界変革で起きた本質だ。それによって消えたのは『俺TUEEE』という良き文化もあれば……『相互評価クラスタ』という悪しき文化もある」
「相互評価クラスタ……?」
「やっぱり田中は知らないか」
変革後の記憶しか無い田中は首を傾げる。その反応は想定内だ。
「相互評価クラスタは『あろう』に投稿する作家たちが集まった大きなグループが起こした問題でな」
「あろう作家で集まったグループ……楽しそうでござるな。創作論を語りあったりでお互いに高めあうことが出来るでござろうな」
「それなら特に問題視されなかったさ。だがやつらは『小説家であろう』のシステムの欠陥を突いた暴挙にでた。それが評価依頼だ」
「……その単語だけで悪い予感がするでござる」
「良い読みだ。誰か一人が投稿した作品にポイントを入れるようメンバーに依頼する。大きなグループだったからな、みんなが評価を入れればランキングを駆け上がれる。その結果どうなるかは分かるな?」
「あろうはランキングが上がると目に付きやすい仕様でござる。雪だるま式にポイントが膨れ上がって……」
「ああ。そのメンバーは書籍化を連発した。しかしそれは公平な競争を妨げている。結果運営にも問題視され、規約変更により評価を依頼することは禁止されたが……」
「この世界ではそのようなことは起きてござらん。そしてこの話の主題は大輝氏の行動……」
「そういうことだ。大輝は十中八九この相互評価クラスタの力で日間一位まで駆け上がったと見ている」
やつのユーザーページを見ると、やたら相互フォロワーに評価や感想を受けていたし付けていた。ネット掲示板のログを漁ると、やつもその相互フォロワー相手も不自然にポイントが上昇して疑問に思っている書き込みが見つかっている。以上からしてクロである可能性は高い。
「ならその事実を運営に報告すれば解決でござるな」
「いや、状況証拠しかないこの状況じゃ運営は動かないだろう。また直接的な証拠を見つけても、世間的にまだ問題視されていない行為に重い腰を上げるかも微妙だ」
「な、ならどうやって……」
「俺に一つ考えがある。聞いてくれ」
「そのセリフ中二度が高いでござるな」
少しテンションを上げた田中に、俺はある作戦を伝える。
「――ということを田中には頼みたい。仕上げは俺の方で行う」
「骨が折れそうでござるが……任せられましたぞ」
「そうか、助かる」
胸をなで下ろした俺に、田中は疑問をぶつける。
「しかし、どうして翔太氏は大輝氏を潰そうと思ったでござるか?」
「ん?」
「今投稿中の『俺TUEEE』作品も順調で、それに力を入れたい時期のはずでござる。なのにこのようなこと……まさか拙者のために?」
「べ、別にあんたのためなんかじゃないんだからね!!」
「おえっ。男のツンデレはきついでござる」
「俺も自分で言ってて吐きそうになった」
慣れないことはするものではない。
「なら……」
「田中の主張を否定された怒り……かな。あいつは『小説家であろう』から底辺作家がいなくなればいいと言った。誰だって最初は底辺作家で、上を目指してもなれない未熟な自分から、人気作家に嫉妬をしてしまったはずなのに……忘れてるんだ、あいつは。
初心者だって投稿して良いということに俺がどれだけ救われたか。
底辺作家含めて多くの作品が集まるからその中から人気作品も出てくる……そんな『小説家であろう』のいいところを、あいつは不正を使ったから分かってないんだ」
「それを気づかせるために……?」
「というのが建前で、ああいう偉そうにしているやつの吠え面を見てみたい。ざまぁしたいってのが本音だな」
「ざまぁ……『ざまあ見ろ』の略でござるか?」
「あ、これも衰退した『あろう』文化の一つなのか」
言葉自体はあるようだが……ざまぁ展開とか元の世界で言い出したのも最近だったしな。
「さて、作戦会議は終わったが……田中、そういや大輝と話していたときの反応からして、おまえも『あろう』で作品投稿してるんだろ」
「ぎくっ……!」
「自分で『ぎくっ』とか普通言うか? ほら俺も自分の作品を晒したんだから、おまえのも見せろ」
「いや、翔太氏が勝手に見せただけで、拙者が見せる必要は……」
「問答無用!」
「あ、拙者のスマホ!? 奪うなんて酷いでござる!!」
「さてパターン認証は……確かこんな動きだったな。よし、開いた。さてブラウザーからお気に入り……やっぱりユーザーページがあった。そして作品は……」
「返してほしいでござる!!」
「…………、…………、…………。ああ、返す」
「何でござるか、その反応は!?」
「うん、おまえは大輝に底辺作家と呼ばれても仕方ないな」
「手のひら返し!?」
「おまえの作品、初っぱなから固有名詞連発でついて行けねーんだよ。こんなの即ブラバだぞ。中二病の妄想全開で読者のことを考えてねえ」
「そ、それは……思い当たるフシはあるでござるが」
「ちょうどいい……一つ秘策を授けよう」
「秘策……?」
そうして昼休み時間は過ぎていった。