6話 総合日間一位の考察
世界に対する考察が一つ進んだところで、調べるために開いていた現代ファンタジーが並ぶ日間総合ランキングページに目を落とす。
投稿した『俺TUEEE』作品も末席の293位にランクインしていた。(表示されるのは300位までのようだ)
前世ではランキングに載るなんて夢のまた夢であったため、タイトルが載っているのを見るだけで感動する。
293位という順位だが、連載作品の初日投稿でと考えると凄まじい。ランキングに載った結果人の目に触れる機会が多くなりさらにポイントが増えるという雪だるま現象が『あろう』では起きやすい。このまま評価が増えれば、おそらく1位を取るのも夢ではないはずだ。
「1位といえばあいつの作品が今日の日間総合の1位取ってるんだっけ……?」
学校で聞いたクラスメイト、富美田大輝の自慢話を思い出す。
嫌味なやつではあるが、日間で1位を取れるのはやはりすごい。簡単に出来ることではない。
ランキング1位を取る作品だから面白いのだろうと思ったが、友人の田中はつまらないと言っていた。このちぐはぐさは……ちょうどいい、実際見てみれば分かる話か。
「1位はこの作品か。……うわっ、ペンネーム本名かよ」
作品名の下にはやつの本名『富美田大輝』が記されていた。これでは小説書いてること現実の知り合いに丸わかりだ……って、あいつ自分から自慢するようなやつだったな。なら問題ないのか。ネットリテラシー的には良くないが。
タイトルをタップして作品ページを開く。あらすじをざっと読んだ感じだとジャンルはこの世界での流行の最先端『現代ファンタジー』のようだ。
現時点で7話まで投稿されているようで、俺は一番上の1話目をタップする。
そしてランキング1位の作品を読み進めて…………。
「うん、無理」
どうにか一番下まで読み切るが、俺は続きの二話目ではなく戻るを選択した。これ以上読んでいたら脳がとろけそうだった。
主人公もヒロインも行動が唐突だった。それもテンポを出すための表現ではなく、描写が足りないと言った感じだ。内心の描写も少ない。
状況が都合良すぎて、作者の作意を感じてしまう。もちろん作意のない作品など無いのだが、露骨すぎてどうしても意識せずにはいられない。
小説の技法もおろそかで読みにくいところが多々ある。個人的に3点リーダーが3つ点を打っているのは文字数稼ぎに感じて苦手だ。
こうも引っかかる部分が多いと作品のテーマや展開について意識を巡らす余力も削られる。
まとめると『何だこの作品?』だ。
「……っと、いかんいかん。偉そうに言えた立場か。明日は我が身だ、俺はこうならないように戒めとしないとな」
俺だって素人には違いないのだ。人のこと言えるのか、ブーメランには気を付けよう。後でもう一回投稿した分を見直さないと。
「しかしこれがランキング1位なのか……俺の感性も衰えたのかな……」
小説家にとって感性は重要である。面白いと思う点がずれているのに、読者に面白いと言わせる作品を作れるわけがない。
正直落ち込みながらもどんな感想が寄せられているのだろうか、と感想ページを開いてみると。
「あっ、やっぱり俺と同じような感想を持ってるやつもいるのか」
どうやら俺の感性もまだ捨てたものではないようで復活する。
ランキング1位というわけで寄せられている感想も多いのだが、そのほとんどが批判か絶賛の二極端になっていた。
『何でこのゴミがランキング1位なわけ?』『一話でブラバ余裕でした。続きとかどうでもいいです』『もう少し読者目線に立って作品を書いてみましょう』
批判はこんな感じで。
『ワナビの嫉妬乙。ランキング1位ですね、おめでとうございます!』『一気に最後まで読みました。続きが楽しみです!』『毒者は気にせず書いて下さい!!』
絶賛はこんな感じだ。
どちらにも罵倒レベルに言葉が汚い人間がいる。
「感想のワナビって作家志望者の蔑称的なスラングだったよな。まんま昨日までの俺か」
自分の書いた小説に人気が出ないで、下手だと思っている作品に人気が出ていたら嫉妬する気持ちも分かる。俺も『俺TUEEE』作品がウケていなかったら、怒りが先に沸いていただろう。金持ちケンカせずならぬ、人気作家(予定)ケンカせずだ。
「数えてみると批判の方が多いな……どうして1位を取れたのか……」
解釈や好みが分かれる話ならばまだ分かる。つまらないと思う人間が一定数いるが、面白いと思う人間がそれ以上にいるというような作品は存在する。
だがこの作品は批判コメントを見る限り、俺のように中身を判断する前段階で引っかかる人の方が多いようだ。
なのにここまでポイントや絶賛コメントが集まっているのはおかしい。
何かヒントは無いか、と俺は大輝のユーザーページを開く。すると今までに書いた作品が13となっていて驚いた。
当たるまで色んな作品書いて頑張ったのか、見上げた根性だ。と、感心したが詳しく見ていく内に真逆の感想を抱く。
「どれも10話から20話で放り出しているな……完結の表記もないしこれは……」
世に出した作品に人気が出なかったらどうするか?
あまり推奨できる手段ではないが、その作品を放置して次の作品を執筆するという方法がある。
初動でコケた作品が、評価されることは少ない。
無料で読めるため切っても損失が出ず、膨大な作品から次に読む物を探せる『小説家であろう』ではその特徴が顕著に出る。
だから初動で駄目だったら次の作品に移るというのは合理的な方法だ。
実際日間のランキングに乗るような作品の作者ユーザーページを見ると、放置された作品がずらりと並んでいるなんてことはよくある。まんまこの大輝のようなやつだ。
「ただ個人的には好きじゃないんだよな、この手段」
俺は作者であると同時に読者でもある。
『あろう』で個人的に気に入って感想を書いたり評価を入れてた作品が、人気が出なかったからか放置され完結しないということを何度も経験している。
それを見る度に切なくなった。
だから俺はあの感情を自分の作品を読んでくれた読者にさせたくなかった。
「まあその手段を取っている人間を批判するつもりはないんだけどな。作者として手段を選ばず人気になりたいと思うのも理解できるし」
それに初動でコケて立て直す作品が少ないだけで、無いわけではない。
長く連載している作品がある日評価されるということもあるからだ。
また何作も放置している時点でその作者の作品は読まないという層も一定数いる。この手段が嫌いだという読者はやっぱりいるのだ。
そういうところで大輝は不興を買って、今回日間1位を取った作品に批判の感想が殺到したのかもしれないな。つまらないだけならブラウザバックすればいい。批判するのにもエネルギーは使う。その原動力は怒りだ。
批判が多い理由が紐解けたが、ポイントや絶賛を集めている理由は謎のままだ。
なので引き続き大輝のユーザーページを見ると。
「あっ……もしかしてこの異世界は『俺TUEEE』が存在しないだけじゃなくて……『あれ』がまだ問題になってないのか……?」
書いた感想や評価した作品から何となく理解したところで。
「ただいまー……って、翔太!? あんたまだ制服なの!? 風呂入ってないの!? 食べた皿も出しっぱなしで……!」
「げっ、もう帰ってきた」
「げっ、って何よ!? ちゃんとしなさいって毎日言ってるわよね!?」
仕事から帰ってくるや否や、雷を落としてくる母。飯食べてアニメを見た後ソファーに寝転がったままスマホを操作していたのはマズかったか。
俺はそそくさと逃げるようにリビングを後にした。