22話 掲示板
『小説家であろうを語ろう 462板目』
『え、今日の勢いすごくね』
『今北産業』
『いきなりランキング一位
やはり不正
決定的証拠流出』
『おおう……それは祭りになるわな』
『画像は前のスレに張られて……あ、今のスレにも張り直されてるな』
『ログ漁ってくるわ』
『初めまして、あろうユーザーのラブリーフミストといいます。今日は告発のためにここに来ました。私は今話題になっているのとは別の相互評価クラスタに所属しています』
(証拠画像)(証拠画像)(証拠画像)
『何か変なのが沸いてきたな』
『ん、でもこの画像ガチ臭くね?』
『不正にランキング上がってそうなやつのリストと、この連盟ってやつのメンバーが重なってるな』
『新たな燃料投下キター!』
『小説家であろう連盟にはメンバーおよそ300人ほどが所属していて、そのメンバー内で日替わりに相互評価をしてランキング上位を不正に独占続けていました』
『結構デカい組織だな』
『やっぱり相互評価あったじゃねえか。無いとか言ってたやつ土下座しろ』
『つうか今日一位取った富美田とかいうやつ、こっちの連盟にもいるじゃねえか』
『これが相互評価していたという証拠です』
(証拠画像)(証拠画像)(証拠画像)
『うわ…………』
『思ってた以上に真っ黒だな』
『この作品にポイントを入れてください……って、こんな連絡でランキング一位決まってたのかよ。やるせねえな』
『それは同意でござるが……ラブリーフミスト氏。よく勇気を出して話してくれたでござるな』
『そうだな、この情報は結構デカいぞ』
『あんたは仲間だ。何か他にも情報を回せ』
『いやいやいや。それより先にやることがあるだろ。こいつだって相互評価クラスタの一員だ。報いが無いとおかしーじゃねえか』
『私は……騙されて相互評価クラスタに入ったんです。それに作品を準備中だったので、相互評価を受けたことはありません』
『騙されて? そんな都合良いことあるかよ。評価受けてなかったのだってたまたまだっただけじゃねえのか? おまえだって旨い汁吸う気だったってのに、よく正義面出来るな』
『何かバトってんな』
『争え……もっと争え……』
『最初に声を上げて不正を糾弾したラブリーフミスト氏の功績は評価されるべきでござる』
『最初じゃねえ。どうせ共和国の炎上があったからだろ。自分まで燃え広がることが予想できたから、早めに告発して正義面しようとしたんだ。こいつはただ自分がかわいいだけの偽善者だ』
『強い』
『まあ情報はありがたいが、そういう意図は見え透けているな』
『見方を変えてみろ。今まで仲間だった相互評価クラスタのメンバーを売って自分だけ助かろうとしてるんだぞ、こいつは』
『うげーおそろしい』
『何かねーのかー だんまりはつまんねえぞー』
『皆さんの言うとおりです。私は人気作家になりたくて相互評価の恩恵を受けようとしていました。結果的に準備が間に合わなかっただけです。また自分だけ助かりたいがために、一時的に仲間だったクラスタのメンバーをこうして売っています』
『おー認めたかー』
『ですが、決してそれだけの気持ちで動いているわけではありません。相互評価にランキングを占拠されているがために、真面目に頑張っても日の目を見れない作家がいることにある日気づいたんです。そのような人たちが馬鹿な目を見ないように声を上げたんです。私は報いを受けても構いません、いえ受けるべきです。ですが一つだけわがままを言えるとしたら……どうかランキングを浄化するために、この流れを止めないで欲しいということです』
『綺麗事乙! 報いを望んでるならこいつが垢BANされるまで通報祭りだ!』
『よし、もっと連盟の情報をくれ』
『とりあえずラブリーフミストさん以外のメンバーを通報していけばいいのか?』
『いや、検証作業が先だろ。間違ってBANされるやつがでたら可哀想だ』
『どこかに不可解なランキング上がりをまとめたリストがあったはずだよな』
『5スレくらい前に全部まとめていた変人の画像を再うぷしますた』
『皆さん……私ももっと情報が無いか探しますね!』
『え? いやいや、何この流れ? ここは袋叩きの流れだろ? 何で綺麗事に流されてんだよ』
『残念でござったな。ラブリーフミスト氏の真摯な気持ちの勝ちでござる』
『勝ちってなんだよ。いつも他人の粗探しばかりしてるおまえらしくねえじゃねえぞ。ほら思い出せって』
『そうやって俺たちすら馬鹿にするようなやつの協力するかっての』
『大体こいつを生かして情報引き出した方がもっと面白いことになりそうじゃねえか』
『叩くのは他のやつでも出来るしな。この大輝とか委員長とか、特に面白い反応が見られそうだ』
『つうわけでこいつはスルーしてどんどん話進めようぜ。最終目標は運営に規約追加させるとこまで行きてえな』
『ちぇ……つまんねえの』
「ふぅ何とかなったでござるな」
愛葉さん擁護の流れになったところで田中が一息吐く。
「良かったですな、愛葉氏」
「うん……でも痛いところ突かれたな。相互評価クラスタの仲間を売ってまで助かりたいのか、って言われてハッとなった。私、自分がしようとしていることをあのときまで分かってなかった……」
「だから自分の非を認めて自己犠牲しようとしたでござるか?」
「私が悪事に荷担していた事実は消えないから。せめて真面目に頑張っている人のためにって思って書いて」
「それが結果的に上手く行ったから良しでござるな。全く、愛葉氏を悪く言いまくったあの人は何なんでござろうな。性格悪すぎでござる」
田中の愚痴に俺はようやく口を開く。
「性格悪くて悪かったな」
「……え?」
「やっぱり……あの私を糾弾した一連の投稿は佐藤君の仕業だったんだね」
「愛葉さんは気づいていたか。田中、おまえはまだまだだな」
「……ど、どういうことでござるか!?」
俺たち三人は互いに自分のスマートフォンを見ていたから、誰が何の投稿をしていたのか見ていない。とはいえ愛葉さんは丸わかりだし、田中はいつもの語尾でバレバレ。で、俺が悪役を演じていたのに田中は気づいていなかったようだ。
「つうかおまえがお粗末すぎるんだよ。始める前に言っただろ、露骨に擁護するなって」
「拙者露骨でござったか?」
「丸分かりだ。あのままやってたら愛葉さんが自演してかばう発言してるんだと疑われてもおかしくないレベルだったぞ。だから俺が悪役を演じたんだ」
「何故その必要が……?」
「まずはみんなの不満を代弁することでガス抜きをすること。あとは俺にヘイトを向けることで、愛葉さんに対するヘイトを減らすことだな。正直賭けだったが、愛葉さんも自分を偽らずによく自己犠牲を提案できたな。あのおかげで逆張りで愛葉さんを助ける流れになった」
嘘にまみれたネット掲示板にいるやつらは嘘に敏感だ。
逆に何が本音なのかも分かるということで、愛葉さんの気持ちに動かされた結果だろう。
「でもそれだって佐藤君の作戦だったんでしょ。相互評価クラスタのメンバーを売ること……佐藤君は気づいていたのに、あえてあの土壇場で指摘することで私の本音を引き出した」
「まあそんなところだな」
「……な、何か拙者が勝ち誇っていたのがアホみたいでござらんか」
「実際アホだろ」
「そ、そんな……」
田中が崩れ落ちる。
まあ田中みたいなお調子者がいるおかげで全体の雰囲気がまとまった感もあるので無駄ではないのだが、まあ俺は性格悪いみたいだし言う必要はねえな。
「これで愛葉さんは嵐の中心、安全地帯、台風の目に入ることが出来た。あとはこの嵐が相互評価クラスタを崩壊させるまで見届けるだけの簡単なお仕事だ」
「………………」
「………………」
一件落着とまとめたのだが、落ち込んでいる田中はともかく、愛葉さんからも反応がない。
「どうした?」
「今さらだけどみんなどうなるんだろう……と思って。あんまり酷いことにならなければいいんだけど……」
「騙された相手にまで優しくする必要なんて無いだろ。因果応報だ」
「でも……」
「まあそれに……人ってのはそんな簡単に不幸のどん底まで落ちることは少ないもんだ。どこかしらに救いがあるもんだぞ」
「おまえが言うなって言われるかもしれないけど……そうだったら、私もいいと思うな」
かつて一時的とはいえ仲間だった人たちに思いを馳せる愛葉さん。
確かにやつらがどんな結末を辿るのかは気になるな……。
明日、最終話投稿予定です。最後まで付き合ってもらえれば幸いです。




