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21話 炎上

「ふふっ、これが僕の実力さ! 小説家であろう日間総合ランキング一位!!」

「流石っすね、大輝さん!」

「まあ大機さんなら当然だな」

「ようやく大輝さんの力に気づく人が増えたってことか」


 ランキング外の作品が一日で一位に舞い戻る。

 不可解なことが起きた朝、教室では大輝とその取り巻き三人が生き生きとしていた。


「やっぱりか……」

 俺、佐藤翔太にはこの事態は想定済みだった。

 想定済み……ではあるが、流石に起きるはずがないだろうと思っていた事態。

 富美田大輝……やつは自分のしでかしたことの大きさに気づいて…………無いんだろうな……。


「でもどうしてこんなに一気に上がったんすかね?」

「更新した最新話が面白かったからに決まっているじゃないか。面白い作品はランキングを上がる、それが基本だよ」

「俺も読みましたけどけどすごい興奮しました!」

「あれは神展開だったな」


「はぁ、全く…………ん?」

 呑気に騒いでいる大輝たちを見ていると視線を感じた。


「………………」

 視線の主は愛葉香澄。『どういうことなの?』と無言でこちらに訴えかけている。直接声をかけないのは他のクラスメイトもいるこの教室で、あろう作家であることを話してバレたくないからだろう。

 俺はメモに『昼休みに例の場所で』と書き、愛葉さんの机を通りかかった際に置いた。


 程なくして教師がやってきて朝のHR、授業と進む。

 その間も俺は状況を整理しておいた。




 そして昼休み。


「それでどういうことなの、佐藤君!?」

「ま、まあ、愛葉氏。少しは落ち着くでござる」


 一階の空き教室で俺、愛葉さん、折を見て召集をかけた田中の三人が集まっていた。真っ先に口火を切る愛葉さんに宥める田中。


「ランキング見た瞬間ビビったよ。一位に大輝君の名前があったからね。急いで検索かけたけど、SNSでバズったり大手まとめサイトが取り上げた形跡は無い。あとは相互評価くらいだけど、同じ作品に二度評価できないルールがあるから、連盟に一度相互評価してもらっている大輝君の作品がその力で打ち上がることは出来ない。……どう考えても不可解だよ、これ」

「やつの言うとおり最新話が面白かったんだろ。面白い作品がランキングに載るのは当然だからな」

「だとしても二百位、百位、五十位とかもっと刻むはずだって。ランキング外から一位まで上がるのはおかしいよ」

「それを成し遂げるぐらい超絶した面白さだったんじゃないか?」

「佐藤君のその落ち着きよう……理由分かってるんだね」

 じとーっとした目つきで見られる。焦る愛葉さんが面白くて見当違いなことを言ったのがバレたようだ。


「そうだな、遊びはここまでにしておくか。切迫した事態なわけだし。つうことで俺は大機がランキング一位まで上がったカラクリは分かっている。……というか簡単な話なんだよ」

「簡単な話……?」

 ピンと来ない愛葉さんに正解を告げる。


「大機は新たに相互評価クラスタを作ってそのメンバーたちに自分の作品を評価するように指示したっていうことだ」


「新たな……一位と三位を連続で取った二つの相互評価クラスタとはさらに別のクラスタってこと!?」

 驚愕する愛葉さん。


「手段の是非はともかく、それなら一位を取れた理由も分かるだろ」

「同じ作品に二度は評価できない……でも新たにクラスタを作れば自分の作品にまだ評価していない人が集まり、その人たちに評価依頼すれば理論上は可能……」

「理解が早くて助かる」

「そうか……大輝君は最近ランキングから落ちたことに不満を感じていた。いつもなら新作転生するところだけど、書籍化した委員長に追いつくため新作を準備していたんじゃ間に合わない。だから今の作品を人気にするために一度は成功した相互評価を使った。人間、過去の成功体験にしがみつくものだから……」

 一度気づけばあとは分析が進んでいく。俺でもこの想定を思いつくのには少しかかったというのに、愛葉さんには一瞬のようだ。


「でも可能だからって本当にこの手段を使ったかは……」

「いや、それについては裏付けが取れている。なあ、田中」

「ようやく拙者の出番でござるか。待ちくたびれたでござる」

 ずっと二人の会話を聞くだけだった田中がスマートフォンを操作して二人に見せる。


「『小説家であろう共和国』……リーダーは富美田大輝……これって」

「ああ。田中が新たに作られた相互評価クラスタに侵入することに成功したんだ」

「愛葉氏を仲間に出来て必要ないと思われた愚痴投稿を続けた結果ですな。その一つに大輝氏がかかって、相互評価クラスタに誘われたということでござる」


 田中にやって欲しいことというのがこれだった。そのおかげで大輝の行動をいち早く察知することが出来た。


「そっか。委員長はスパイ行為を気にして新規メンバーを入れないようにしていたけど、すぐに評価が欲しい大輝君は気にする余裕があるわけないもんね。だから田中君も侵入することが出来た」

「もちろん大輝氏が自分の作品に評価を入れるように指示した動かぬ証拠は残しているでござる。この画像をネット掲示板に投下すればきっと大炎上が起きるはずでござる!」

「それは一つ読みが足りてないぞ、田中」


 スクリーンショットを見せて喜んでいる田中に冷や水をかける。


「どういうことでござるか……?」

「その投下する予定の小説家であろうを話題にするネット掲示板を見れば分かる。既に何が起きているのか」

「掲示板を…………………………ちょっと待って欲しいでござる。どうして拙者が撮ったのと同じ画像がもう張られているでござるか」


 そう、田中が誇らしげに見せた大輝が相互評価を依頼した動かぬ証拠が掲示板には既に張られていた。

 きっと大炎上が起きる、ではない。大炎上はもう起きている。

 今朝から掲示板をチェックしていたが、元々大輝が不可解にも一位になったことが話題になっていたようだ。そこにこの燃料投下で一気に燃え上がった。ひっきりなしに新着レスが付いている。


「田中君に画像をもらった佐藤君が既に動いておいたってことなの?」

「いや、そもそも俺は田中から画像をもらっていない。これは田中以外にもスパイ狙いで大輝の相互評価クラスタに入ったやつの仕業だ。最近相互評価クラスタの存在が噂されていたから、俺たちと同じように狙っていたやつがいてもおかしくない」

「先を越されたでござるか……でもこれで相互評価クラスタは終わりますな。ここまで燃えれば中々鎮火出来ないでござる。きっと全てを燃やし尽くして、その結果運営が動いて相互評価クラスタを禁止。拙者たちが手を下すことなく終わるでござる」

「ああ、そうなるだろう。全ての相互評価クラスタを……連盟に所属する愛葉さんすらも燃やし尽くしてな」

「……っ!」

「……」


 田中が虚を突かれた表情になる。対して愛葉さんは悟っていたようだ。

 だから厄介なことになったと朝から思っていたのだ。


「そ、それはあんまりでござる! 愛葉氏は騙されてクラスタに入ったでござるよ! ……な、なら今からクラスタを抜ければ……」

「だとしてもどこかでバレて断罪されるだろ。ネットってのは案外色々と痕跡が残る場所だからな」

「ど、どうするでござるか……?」

「だからそこは前から言ってるとおりだ。こちらが断罪する立場に回るしかない」

「今から内部告発をする……ってことだよね? いつでも内部告発できるように準備を急がせたのはそのためなんでしょ?」

「そういうことだ」


 狼狽える田中と違って、愛葉さんは覚悟を決めていたようだ。


「準備は出来ているけど……佐藤君は私の勝算がどれくらいあると読んでるの?」

「五分五分だな。現在ネットに出回っているのは大輝が作った新規クラスタ『共和国』にまつわる情報だけだ。『連盟』の情報は出ていないが……こんな流れだ、時間の問題だろう。だから先手を打って告発すれば愛葉さんがヒーローとして祭り上げられる可能性は十分に考えられる。

 だが、ずっとランキングを不当に占拠されていたことに対する不満が爆発して、想定より少々燃えすぎている。愛葉さんすら飲み込む業火になるかもしれない」

「それでもやらないよりはマシなんでしょ?」

「俺はそうだと確信している」

「なら根拠はそれで十分だよ」


 愛葉さんは自分のスマートフォンでネット掲示板を開く。そして怒濤の勢いで打ち込みレスを作り、添付ファイルの画像もセットする。


「じゃあ嵐の中に飛び込むよ」

「え、援護するでござる」

「あんまり露骨にはするなよ。そういうのネットのやつは嫌うし」


 三人それぞれスマートフォンを持ってうなずく。

 愛葉さんは投稿ボタンをタップした。


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