18話 構想 ~クラスごと召喚~
「投稿……っと。今日の分もやっと終わったな」
愛葉さんと色々話し合った放課後。俺は自宅で作家活動を行い、それが一段落付いたところだった。
「さて、この後はどうするか……」
学生としての宿題も終わっているし、作家としての投稿も済み、相互評価クラスタ潰し活動家としては愛葉さんの報告待ちだ。現状すべきことはない。
「んーなら書きためを増やしておくか……?」
書きためはいくらあってもいいものだが気が進まない。先ほどまで今日の投稿分のため三時間は執筆していたからだ。
正直今日の分の集中力は使い果たしたので他の活動をしたい。だけどさっき思い浮かべたとおり特にすることもないし……。
そのときピロン、とスマホのメッセージアプリの通知音が鳴る。
「ん、誰からだ……田中か」
中二病の友人、田中からの連絡だ。
何だろうか……あ、そういえばあいつに愛葉さんが仲間に入ったこと言ってなかったな。昼休みの後話す機会がなかったからしょうがないけど。相互評価クラスタ潰しのための内部告発は愛葉さんにやってもらうつもりだから、あいつにもうクラスタへの潜入活動はしなくていいと伝えなければならない。
そう思いながらメッセージアプリを開くと、そこに表示されたのはテキストファイルだった。確かにメッセージだけでなくファイルのやりとりも可能だが……短い文章ならそのままメッセージとして送ればいい。テキストファイルということは長い文章を送りたかったわけで……。
遅れて田中のメッセージも表示される。
『つ、ついにやりましたぞ! 『クラスごと召喚』の序盤を書き上げたので見てほしいでござる!』
「……そうか。ようやくか」
記憶チートのおすそわけ。愛葉さんに『悪役令嬢モノ』を授けたように、田中には『クラスごと召喚』のアイデアを先日渡していた。
もう見せられる段階になったのか。進捗は聞いていたが、作品の詳細は聞いていない。俺にとっても未知の作品。
どうやら決まったな。ここからの俺は読者だ。
この変革した世界で初めての『クラスごと召喚』読ませてもらおう。
俺はテキストファイルをダウンロードして開く。『あろう』で掲載することをちゃんと想定しているようで、最初はタイトルとあらすじから始まるようだ。
『チートスキルをもらったけど、ドMな僕は幼なじみに罵倒されたいので無能を演じます』
主人公の鈴木はそのだらしなさから、幼なじみの友梨から罵倒される日々を過ごしていた。そんなある日、クラスメイトごと異世界に召喚される。
スキルと呼ばれる力を授かるクラスメイトたちだが、その中でも群を抜いた神級のチートスキルが鈴木には与えられた。幼なじみの友梨よりも優秀になった鈴木はその力を使って見返……さなかった。
「これじゃ友梨から罵倒されないじゃねえか!」
そう、罵倒される日々は鈴木を立派なMへと成長させていた。友梨よりも優秀なことがバレると罵倒されなくなる。そのためチートスキルを誤魔化し、友梨の前では無能を演じる。
「全く、あんたはこんな魔物も倒せないわけ!?」「ご、ごめん……(友梨の罵倒いただきました、あざっす!)」
「これは……また強烈なのをぶっ込んできたな……」
衝撃度だけで言えば、ボクサーの右ストレートを顔面で食らったレベルだ。
『どうでござるか?』
まだ三分も経ってないのに感想を催促してきた田中に俺は返す。
『そういやおまえってMだったか』
『な、何故分かったでござるか!?』
『このタイトルとあらすじ見て分からないやつがいるわけねえだろ』
『ぐふふ……バレたなら仕方ない。その通り、我はMでござる。将来の夢は怜悧な美女からゴミを見るような目で見下されながら罵倒されて唾を吐きかけられることでござる』
『親御さんが聞いたら泣き崩れそうな夢だな』
『昨今はMモノと思わせて、途中で主従逆転する作品が多くて困るでござる。やはりMとなれば最後まで関係を逆転しないものが至高で……』
『これもそんな感じの作品になるんだな』
長口舌になりそうなので、ぶった切って話を終わらせる。
どうやら思ったより趣味全開の話になっていそうだ。これにはメリットもデメリットもある。
メリットは作品にパワーが出ることだ。作者が好きな題材のため勢いがすごかったり、描写が繊細だったり、シチュエーションが凝っていたり……そういうのをパワーがあるとか言ったりするはず。正直言葉で説明するのは難しい。
デメリットは題材によっては一般受けが難しいということだ。
今回で言うとまだ読んでないがMの人にはかなり受ける作品になっているだろう。反面そうでない人には琴線が触れない作品になる。
狭く深くを狙った作品だ。作品溢れるWEB小説界ではこちらの方がファンを獲得しやすいと個人的には思うし、狙いとしては間違っていない。
「まあ詳細な判断は続きを読んでからだな……」
俺はあらすじの下、プロローグから作品を読み始める。要約すると以下のような内容みたいだ。
序盤はあらすじの通りに進む。鈴木はチートスキルを持ってない無能を演じて幼なじみから罵倒をもらうだけでなく、チートスキルを使って積極的に罵倒をもらおうとも画策する。
例えば魔物を操るスキルを使って自分を攻撃させて「ああもう! 何そんなトロいやつの攻撃を食らってるわけ!?」「ご、ごめん」などだ。酷いマッチポンプである。
その後鈴木たちクラスメイトが召喚された目的が復活した魔王の討伐だと明かされる。
そのためにクラスメイト内で四人パーティーを組むように言われる。補助魔法などはパーティー内でしか効果が無いなど、この異世界ではパーティーを組んで戦闘するのが基本だからだ。
というわけで28人のクラスメイトがいるため七つのパーティーを作らないのだが、当然大問題だ。戦闘における相性だけを考えて機械的に組むならともかく、つい先ほどまで普通に高校生活をしていたのだ。スクールカースト、友人、恋人などの関係を考えずに組むことは不可能であり難航する。
そんな中主人公鈴木は幼なじみ友梨に自分とパーティーを組むように命令される。曰く「あんたみたいなやつが他の人と組んだら迷惑をかけるでしょ」と。その後に「勘違いしないでよね!」とか付け加えれば立派なツンデレなのだが、鈴木を見下す目にそのような感情は一切含まれてない。
そこに友梨の女の友人が入り、パーティーはこれで三人。最後の一人を探しているところに、クラスメイトの柄の悪い男三人が、気の弱い女子、美奈を強引にパーティーに誘っている現場を目撃する。
「鈴木か。雑魚はどっか行っとけ」
無能を演じているため舐められる鈴木だが。
「ここなら友梨からは見られていないな……ならいいか」
と、本来の実力を解放。
「なっ!? おまえ本当はこんな力が……っ!?」
驚く三人を瞬間で無力化して、美奈を助け出す。
「あ、ありがとうございます……鈴木君」
その手際を見られた美奈にホレられて、一緒のパーティーに入りたいと言われ、ハーレムパーティーが完成する。
「全く、この愚図は」
ドS幼なじみ。
「愚図じゃありません! 鈴木君は本当はスゴいんですよ!」
健気女子。
「いいんだ、あれは偶然だよ。本当の僕は無能だからね(否定しないと友梨に罵倒されなくなる……!)」
無能を演じるドM主人公。
「両手に花やないか、鈴木~」
面白がる幼なじみの友人。
個性的な四人の魔王討伐のための旅が始まった。
……と、現在執筆されているのはここまでである。
「なるほどな……」
テキストビューワーを閉じて、メッセージアプリを再度開く。するとかなりの通知が来ていた。
『翔太氏、感想を聞かせて欲しいでござるー』
『今回のは手応えを感じているでござる』
『聞こえてますかー』
『やっぱり駄目だったでござるか……』
『寂しいでござるぞー』
どうやら田中は毎分ごとにメッセージを送ってたようだ。感想が気になるのは分かるが、そんなに早く読み終わるわけねえだろ。
俺はメッセージを打ち込む。
『田中、ちょっとは落ち着け。今読み終わったから』
『翔太氏! そ、そうでござるな……ちょっと不安になっていて……』
『感想だな。まず全体を通してだが、興味深く読めた。面白いと思うぞ』
『……本当でござるか!?』
『嘘を吐いてどうする。いい感じにクラスごと召喚の特徴を理解して作品にしてるじゃねえか』
普通の異世界モノとクラス召喚の違う点は、現世の関係を引き継ぐという点だと思っている。
主人公だけが異世界に行く作品は、現世でのしがらみから解放されて新たな関係を作る。それに対してクラスという一つの社会ごと異世界に召喚されることで、現世での繋がりそのままに異世界に挑んだり、あるいは異世界で得た力で関係を変化や逆転させたりする。
今回の田中の作品は主人公と幼なじみの現世のままの関係という方がメインだな。逆転させる系でよくある話はいじめられていたクラスメイトに復讐するなどがある。
『しかしそうか。あらすじだけじゃ分からなかったが、これは本当の実力隠してます系にも当てはまるんだな』
『えっと、それはそのままの意味でござるか?』
『ああ。「俺は本当はもっとやれるんだ」という読者の欲望を刺激するポピュラーな要素だ。普段は冴えないやつが裏ではヒーローをしている話とかあるだろ?』
『なるほど……』
『あらすじにそこの辺り明記した方がいいな。そうだな……「まあ幼なじみがいないところでは真の実力を発揮するんだけどね」とか』
『参考にするでござる』
深く狭くだと思っていたが、これなら広い読者層にウケるかもしれない。ただ……。
『これメインヒロインって幼なじみの方だよな?』
『もちろんでござる。タイトルから分かるでござろう?』
『いや、うん、確認だ。それで気を悪くしないで欲しいんだが、たぶんこの作品サブヒロインの美奈……気の弱い女子の方が人気出ると思うぞ』
『なっ……!?』
『最近は強烈なヒロインは敬遠される傾向にあるからな。すぐに暴力振るうタイプのヒロインとか本当に見なくなっただろ? 主人公の真の実力を知っていて、分かりやすくホレている……こういうタイプの方がトレンドだ』
理由としては社会に疲れて創作に癒しを求める背景や、承認欲求の増大から自分を認めてくれる人を求めているなどだと思っている。
『い、言われてみるとそうでござるが……それでも我は幼なじみの友梨を人気にしてみせるでござる!!』
『信念があるならいいんだ。茨の道だが頑張れ。実際、俺も美奈の方が好きだしな』
『なっ!? どうしてこの友梨の魅力が分からんでござるか!?』
田中に非難されるが、好みなのだ仕方ない。
幸いにも田中は人の好みを否定するのはオタクに非ず、と引き下がってくれた。言動に反して人間が出来ているやつである。




