表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/23

14話 ルーチンワーク

 放課後。ここ最近の俺は真っ先に家に帰る。少し前までは田中とだべってから、だらだらと帰るのが常だったが、今の俺は無駄に出来る時間は一片も存在しない。


「サイン、コサイン、タンジェントッ!!」

 家に帰ってまず取り組むのは宿題。高校生の日課である。人並の成績はあるため躓くところ無く三十分で終わらせる。


 次は作家としての日課。『小説家であろう』で更新作業をしないといけないのだが、昼休み田中に愚痴ったように今日更新する分の原稿はまだ完成していない。

 平均して3000字、調子が良くても二時間はかかる執筆作業に移る前に精神の療養をする。


「あぁ……この時間が一番幸せだ……」

 パソコンに表示されるのは俺の作品の感想欄をスクロールして見ていく。面白かったです、の一言がどれだけ作者の心を癒すか、これだけは経験しないと分からないだろう。

 あれだ、どこかのブラック企業の社長が「お客様のありがとうをもらうために働くのです」みたいなこと言って非難されてたけど、「作家は読者からの面白かったをもらうために書いているのです」と言ってたら真理だと絶賛されていただろう。


 もちろん誤字脱字の報告や展開上での悪い点を挙げている感想などもある。これらも貴重な意見だ。自分の作品を高めるために丁重に扱う。

 ただし中身に触れず罵倒や暴言だけ残しているような感想は例外だ。こんなの関わっても百害あって一理無しである。目に入った瞬間それ以上脳へ情報が行かないようにしながら削除する。少しでも頭に入れたらどれだけダメージを受けるか計り知れない。ウイルスのようなものだ。


 感想返信まで終わらせてようやく執筆作業に移る。

 書く内容は授業中に立てたプロットで決まっている。今回は一章のボス、変異種との戦闘シーンだ。

 章ボスということで形ばかりの苦戦はさせるが、主人公がチートスキルですぐに圧倒する。


 その最中予定にないシーンが挟まった。余裕過ぎる戦闘に主人公がヒロイン相手に格好付けて見せるが、怒られるというシーンだ。

 最近は書き慣れてきたおかげかこのようなキャラが勝手に動く現象が起きている。これは勝手に動くほど個性的なキャラになったとも、キャラの行動が把握できてないのは作者の力不足だとも言われる。個人的にはこの状態になるときは、ノリに乗って執筆できている状態だと思うので良いものだと判断しているが。


 というわけで絶好調だったため、一話分の執筆が二時間ほどで終わる。誤字脱字が無いかを丁寧に確認した後は投稿。

 投稿時間を毎日この時間と決めている作家もいるが俺は特に決めていない。というか決めた時間に挙げられるのは書きためが十分に用意できているからであり、俺のようにその日暮らしで投稿しないといけない作家には無理な所業である。


「あとやらないといけないのは愛葉さんの小説を読むことか。出来れば相互評価クラスタ潰しの作戦まで練りたいが……とりあえず飯と風呂だな」

 時刻は既に夜九時を回っている。今日も両親の帰りは遅い。用意されていた飯を食べて、お風呂でリラックスする。

 それが良くなかった。


「あー駄目だ。集中が途切れる……」

 愛葉さんの小説を読み始めたのだが目が滑る。ジャンルは女性向けの恋愛モノ。時代設定は中世で、平民の女主人公が王子やら貴族やらに言い寄られてといった感じだ。

 正直女性向けの作品はほとんど読んだことがない。馴染みのない物を読むには集中力が必要で、リラックスしてしまった今の状況では難しかった。


「ちょっと後回しだ」

 このままでは寝オチすると判断した俺はそのページを開いたまま、新たなタブを開いて『小説家であろう』のランキングページを開く。一度別のことをすることで気持ちをリセットするためだったが……正直失敗だった。

 総合日間ランキングの一位を見た瞬間げんなりしたのが自分でも分かったからだ。


「まーた7、8話しかない小説が4000ポイント稼いでる……」

 始まって一週間ほどの小説が一日で稼ぐには異常な数値だ。

 一応作者ユーザーページを開くも、一度当てた人の新作というわけでもない。そうであれば固定ファンがいるということで納得できたのだが。

 タイトルで検索してもSNSでバズった様子もなく、ネット掲示板、大手のまとめサイトが取り上げた訳でもなさそうだ。そういう場合作品の内容に関わらず多くのポイントを稼げるのだが。

 となると作品の中身だ。おそらく世紀の面白さを持つ作品なのだろう。見た瞬間ハゲ上がって、その才能に嫉妬するような作品なら、この異常なポイントも理解できる。


 というわけで1話から読み進めた俺は……3話で挫折した。

 ランキング一位を取っている嫉妬などの感情を加味しても、この作品がとてつもなく面白いと俺は思えない。つまり。

「絶対こいつも相互評価クラスタ使ってるな……」

 分かり切っていたことだが、現在のランキング汚染度はかなり酷い。元の世界でも見なかったほどだ。あろう文化が全体的に後退したのに、変わらずあろうが人気なことがここまで歪な状況を生んだということなのだろうか?


「早く正常化させないとな」

 その理由には真面目にやっている小説家が馬鹿を見るのは良くないという思いもあるが、現状大部分を占めているのは俺のランキング上がらねえんだよ、という思いだった。建前で人は動けないことはよく分かっている、私怨が多いくらいがちょうどいい。


「元々相互評価クラスタを潰すのには大輝にざまぁするためってのもあったんだが……そもそもその大輝が勝手に落ちてったからなあ……」

 ランキングを下にスクロールしていく。俺の『俺TUEEE』作品が載っている178位のさらに下の下、279位に富美田大輝の名前はあった。

 ランキングに載っているだけですごいことではあるが、数日前一位を取った作品と考えると凋落という思いの方が先行する。おそらくやつも不満に思っているだろう、今日は学校で騒いでなかったし。


「これでやつも作品自体が面白くないと相互評価しようと人気を維持するのはきつい……つまり自分の作品は面白くないって気づけばいいんだが……あいつプライド高そうだしな。次の作品に転生するか、何か思いも寄らない手段取ってきそうだ……」

 しばらくは注視する必要があるな。


「……っと、なんだかんだ気分転換できたな。今なら愛葉さんの小説も読めそうだ」

 先ほどのタブを開き直して小説を読んでいく。

 女性向けの恋愛モノを見ると、うじうじしてんねえよとか、こいつら何で引っ付いたり離れたりしてるんだとか思ってついつい引っかかってしまう。

 まあ悪い点ではない。そういう需要があるから書いてるのだろう。男の俺には永遠に分からないことだ。

 そして文章自体は読者を高度に分析できている愛葉さんだ、感心するほど読みやすい。


 需要があるものを分かりやすく書いているなら人気が出るはず。なのに愛葉さんの小説のブクマ数は話数に対して少なかった。

 その原因は何なのか?

 一通り読んで理由が分かった。


「これは作品というより……作者の方に問題があるのか」


 問題が分かれば簡単だ、良いアドバイスが出来そうだと俺は安堵する。




 と、そこで終わっていれば良かったのだが。

 俺はふと愛葉さんのユーザーページから書いた感想や付けた評価の一覧を開いていた。相互評価をしてそうな作品に評価を付けていれば、そいつもクラスタの一員である可能性が高いからだ。そうやってここ最近探っていた習慣が出て。

 そして見てしまった。理解してしまった。


「そうか………………」


 呟いた言葉は誰にも届かずに消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ