1話 底辺作家の愚痴
『くっ……我を倒すとは……!!』
『や、やった……!!』
こうして世界に再び平和が訪れたのです。
<完>
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『本日のデータ』
『小計 62アクセス』
「はぁ……」
激戦の末にラスボスを倒した場面を投稿したのが昨夜。
今日のPV数(ページが開かれた数≒読者数)が次の通り。
そしてため息をついたのが俺だった。
「クライマックスだからって底辺小説に人が来るわけじゃないよな……」
ふてくされた俺はノートパソコンを閉じてベッドにダイブする。
WEB小説投稿サイト『小説家であろう』
そこに自作の小説を投稿している男子高校生が俺、佐藤翔太であった。
今やオタク界隈で知らない人はいないと断言できるほどに知名度の上がった『あろう』
素人でも投稿できる上、人気が出た小説は書籍として実際に出版されたりもする。最近ではコミカライズされる作品も増えたし、アニメにも『あろう』発の作品があったりする。物書きにとっては夢あふれる場所だ。
もちろん光さすところには影がある。
それが俺みたいな底辺作家だ。『あろう』に小説を投稿したはいいものの、全く読まれずサイトの隅でひっそり生きているだけの存在。
1話投稿してブックマークが1でも増えれば御の字。ポイントが付けば一大事。感想が付けばお祭り。レビューが付くなんて幻。
作品を考えて今度こそと投稿して、その度にパッとしない結果に打ちひしがれる。そんなループの日々だ。
立ち上がる気力も出ない俺は、ベッドに寝たまま手を伸ばして机に置いていたスマホを取る。
ブラウザーを立ち上げて開いたのは『小説家であろう』のランキングページ。気晴らしに日間一位の作品を開いて読み始める。
「あー今日の日間一位珍しく面白いなー……これは流行りそう」
最新話まで一気に読み進めた俺は評価を入れて、ブクマを付けた。
目新しいパターンの小説だった。最近の『おっさん主人公』や『追放モノ』のように、しばらくは流行して雨後の筍のように似た作品がランキングに溢れるだろう。
「つうかランキング見ると既にそれっぽい作品があるな……本当筆が早い」
流行りのキーワードを入れたタイトルの作品が散見される。俺も出遅れるわけには行かないと構想を練ろうとして……ストップした。
「それじゃ今までと一緒だよな……」
俺が昨日投稿した作品も流行の後追いだった。
流行を作るほどオリジナリティがある作品は書けない。流行をベースにした作品を投稿するのがやっと。
自分では面白いと思った作品を世に出していたが、俺と同じような思考をする人はごまんといた。
ランキングにずらっと並んだ後追い作品。似たような作品ばかりで飽きるという読者の声があってもランキング上位に行くものは出てくる。
だが俺の作品は当てはまらなかったようで埋もれていた。その間に流行も移り変わって日の目を見ることは一度もなかった。
今までと同じで流行を後から追っても駄目だ。『自分が流行を作ってやる!』くらいの気持ちで書かないと。
革新的な小説のアイデアは無いか………………考えてみるが思いつかない。当然だ、中々思いつかないからこそ革新的なのだから。
「俺が先にこの作品を書いてたらなー」
思考が行き詰まった俺は、気づくと愚痴をこぼしていた。
今しがたブクマに入れた日間一位の作品を思い返す。
『あろう』の底辺作家なら誰しも思ったことがあるだろう。『あろう』の人気作品を見た際に、この作品なら俺でも書けたな、と。
目新しいパターンの小説と言ったが、本質はいつもと一緒である。主人公が何らかの理由で最初から最強格の存在である、爽快感を重視した『俺TUEEE』系の小説だ。
その導入が少し違うだけで、こうも人気が出る。そんなアイデアなら俺だって思いつけたと。
「それを最初にやったからってだけで、こうもブクマ感想がたくさん付くんだもんなー」
不満を言っているが、心の奥底では理解していた。
アイデア勝負の世界で、後から俺だって思いつけたと言っても、負け犬の遠吠えにしかならない。
最初にやったからこそ偉いのだ。
分かっていても愚痴ってしまう。そうして自分の中の負の感情を発散してから、創作に集中するのが俺のいつもの流れなのだが……。
今日は不満が溜まっていたのか、ついその先まで踏み込んでしまった。
「あーあ。『俺TUEEE』が存在していた事実ごと世界から無くなればいいのになー。そして都合よく俺だけが『俺TUEEE』ってジャンルを覚えていて。記憶の通りに俺が作品を書くと、何もかもが目新しい作品として注目される」
そんな都合の良い世界があったら、俺は楽勝で人気作家になれるのに。
「一種の知識チートだな。『マヨネーズなんて初めて食べましたわ!』が『『俺TUEEE』小説なんて初めて読みましたわ!』に変わっただけだ」
つまりは『あろう』に存在するような夢物語ってわけだ。現実にそんなことが起きるわけがない。
「はぁ……。疲れてるな、俺」
俺は妄想と一緒に持っていたスマホも放り出す。
昨日は小説の詰めをやってたせいで夜遅かったし、日中の学校も体育があって体力を消費している。
夕飯まで少し寝るか。
「zzz…………」
すぐに寝てしまった佐藤翔太は知る由もなかった。
カチリ、と。
そのとき何かが切り替わって、世界が変革した。
彼がそのことに気づくのはもう少し後のことになる。




