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泉を探して  作者: roak
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第五話 報告

 店員はてきぱきとその靴を箱のケースにしまい直し、レジカウンターへ持っていこうとする。あわてて後ろから呼び止め、予算オーバーであることを伝えた。

「そうでしたか、それは残念です」

 と店員は言った。

「いくらなんですか、予算は」

 と聞かれたので、

「だいたい六万円です」

 と答えた。靴もテントも寝袋もリュックも含めて、その金額だと伝えた。あの靴を買ってしまうと、ほかに何も買えなくなってしまう。店員は店内の各コーナーで手際よく商品を選び出し、薦めてくれた。靴も、テントも、寝袋も、リュックも薦められるがまま選び、無事に予算内の買い物をした。靴は今一つしっくり来るものではなかったが、帰って足慣らしをすれば、それなりに使えるものになるだろう。寝袋はともかく、テントは出発の前に使い方を予習しておこうと思った。

 家に帰ると、夕食の準備ができていた。父と母とテーブルを囲み、三人で夕食を食べた。

「今度、キャンプをしようと思うんだ」

 両親に話を切り出した。

「どこでするの」

 と母が聞く。

「近くの山の中」

 と答えた。

「いつ行くんだ」

 と父が聞いた。

「近いうちに」

 と答えた。

「近いうちにっていつだ、誰と行くんだ」

 と父が更に聞いてきた。

「今度の休みの日に一人で行く」

 と答えた。

「全く」

 と父と母は言った。一体何を考えているのだろうと二人とも思っているのだろう。泉の話はしたくなかった。関心を持ってくれるとは思えなかったし、それを探しにいくなどということが知られたら強い反発を招くと思ったからだ。なので、こう説明した。

「鍛えようと思うんだ。心も、体も」

「鍛える?」

 と父は言った。

「うん。一人で山の中に入って、いろいろと、じっくり考えてみたいと思うんだ。それと、トレーニングをしてみたり。まあ、そんなところかな」

 と答えた。

「そんなことより、新しい仕事を探したらどうなの」

 と母が言った。しばらく黙ってしまう。学校を卒業後、希望どおりの就職先がなかなか見付けられなかった。「とりあえず」の思いで、近所のスーパーマーケットでアルバイトを始めた。そして、そのまま四年ほど経った。そのことについて両親は不満を持っていた。アルバイトではなく、正社員としてもっと堅実な仕事を、と考えているのだろう。

「分かった。それについても山の中で考えることにするよ」

 と返答した。

「全く」

 と二人はため息混じりに言った。

 夕食を済ませて部屋に行く。ベッドの上で横になっていると携帯電話が鳴った。電話をかけてきているのは、今日、アウトドアについて助言を求めるため、電話をかけた友達のうちの一人だった。その友達は、周りからコウと呼ばれていた。今日電話をかけたときは

「いきなりなんだよ、ちょっと今、忙しいから、また」

 と言われ、一方的に電話を切られた。何の話があるのだろうと思い、電話に出た。

「今日は悪かったな、ちょっと手が離せなかったんだ」

 とコウは言った。

「もう晩飯は食べた?」

 と聞かれたので、

「食べた」

 と答えた。

「そうか」

 とコウは少し残念そうに言ったあと、

「これからどっか喫茶店に行かない?話しておきたいことがあって。今日話してた泉のことなんだけど、本気で行くんだよね」

 と言った。

「本気だよ」

 と返答した。すると、コウは言った。

「ちょっと調べてみたんだ。さっきネットで。そうしたら、見付けた。本当にあったんだな。この辺の山は全部登ったし、仲間たちからいろんな情報も聞くけど、あんな場所にあんな湖があるなんて知らなかった。ちょっと驚いた。ここ最近、新しくできたものなのか。まあ、とにかく、それで思い出したんだ。あの近辺で起きた出来事を。もう何年も前の話なんだけど。山岳関連の新聞記事を熱心にスクラップしていたことがあってね。直接会って、見せたいものがあるんだ。これから駅前の喫茶店に来てもらえるか」

「分かった。行くよ」

 と返答した。何らかのアドバイスをもらえるならありがたいことだと思ったし、泉について何か知ることができるのならもっとありがたい。行くしかないと思った。リビングのソファでくつろいでいた両親に、

「ちょっと買い物にいく」

 と伝え、家を出て車に乗った。

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