第三話 候補
携帯電話の電話帳をア行から順番に確かめた。八人が相談相手の候補として上がった。一人一人に電話をかけて、助言を求めた。
「これから山の中にある泉を目指そうと思う。地図にも載っていない不思議な泉だ。十キロメートルほど山の中を歩かなければならない。何かアドバイスしてくれないか。あと、日帰りはできるだろうか。どこかで泊まった方がいいだろうか。だとしたら、どんな道具をそろえたらいいのだろう」
このように助言を求めた。しかし、何も情報は得られなかった。八人の返答は、言い回しが違っても、だいたい次のようなものだった。
「その冗談、笑えないよ」
聞き方が悪かったのか。そうは思わない。皆忙しいのだろう。仕事に、娯楽に。突然の電話になど構っていられない大事な予定があるのだろう。それに考えてみれば、何年も連絡していなかった友達もいる。電話帳に名前が残されていても、その人間関係は、時間の流れとともにほとんど消えかけてしまっていた。少し寂しいが、よく分かった。
そうだ、木ノ下にも電話してみよう。木ノ下は、小学生の頃からの友達だ。少し体が弱く、アウトドアとは縁遠いのだが、どれほどささいな相談事でも、丁寧にうなずながら親身になって聞いてくれる。勉強も運動も、優れた成績を納めるタイプではなかったが、そのような人との接し方のために、自然と周囲の人に好かれ、いつも友達の輪の中心にいた。電話をかける。なかなか出ない。十数回目の呼出音が聞こえたとき、電話はつながった。