第一話 発見
航空写真を見るのが好きだった。
歩き慣れた道も住み慣れた街も高い空から見下ろすと、思いがけない形をしている。その新しい形の発見が、時の流れを忘れさせる。
訪れたことのない場所をぼんやりと眺めることもある。住宅地、商業施設、学校、工場、駅舎、高速道路のジャンクション。写真の中では、それらはとても小さなものだ。だが、決して模型ではない。生身の人々がいて、現実の生活がある場所。写真から目を離し、少しの時間そこで暮らす誰とも分からない人々の日々の営みに思いを巡らす。陶酔感がやってくる。
自然環境に見入ることもある。深い森、連なる山、曲がりくねった川、入り組んだ海岸線。探検するような気分で見入る。そこに何があるのか、そこはどうなっているのか。発見は尽きないし飽きることはない。
ある日の昼下がりのこと。ダイニングに置かれたコンピュータでインターネットに接続し、いつものように航空写真を見ていると、広い森の中に奇妙なものを見付けた。
「なんだろう」
まるで蛍光ペンで塗りつぶされたような青い領域。ディスプレイをじっと見て首をかしげた。
「湖?」
そのような場所に湖があるなんて聞いたことがない。見たところ、琵琶湖とは比較にならないほど小さなものだ。だが、それなりの面積なので、もしも本当にあるのなら地理の授業か何かで教わっていてもよいはずだ。ダイニングの隅にある古い本棚を探る。そして、隅の方で長い間眠っていた地図帳を引っ張り出した。中を開いて確かめる。やはり、そのような場所に湖などない。青い領域を拡大していくと、その境界はあいまいで、ぼんやりとしている。見れば見るほど不思議だった。その場所に何があるのか。強く心が引かれた。それが冒険の始まりだった。