古楽器屋
狭い階段を登るとそこは古楽器屋だった。所狭しとリュート、リコーダー、クルムホルン、チェンバロ、ヴィオラダガンバ…その他名前もわからぬ楽器たちがならんでいる。他の楽器屋にあれば相当珍しいであろう各調のティンホイッスルがむしろ“ポップ”に浮いているようだ。かく言う私はそのポップな笛を探しに来ているのだけど。
目当ての笛と曲集一冊の会計を済ませてから、雑談がてら店員に店内を案内してもらった。いったいどれだけの未知の楽器に出会ったのか、とんと見当がつかぬ。およそ現代の基準に照らせばどれもみな非力で不完全な楽器ばかりだが、静かな環境で繊細な音色や表現を愛でるならば、そのような美的価値観の持ち主ならば、ここにあるどれもがたまらなく“美味しい”ものに思えてくるのだろう。
「どれもナイロン弦なんですね」金属弦ではなくて、の意味で私がそう店員にたずねると「ええ、ガット弦だと少し高価ですし維持が大変なんですよ」との答えが返ってきた。そうだった。そういう場所なのだ、ここは。