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事故りました。無傷ですが。
車両保険は大事ですね。図らずしも新車になりました。
そんなわけで日曜日到来。
土曜日?
部屋の片づけが興に乗りすぎて模様替えに至ったよね。気づいたら夕方だったという。さすがに我に返って何してんの私、とはなった。片付いたからよかったんだけど。いや、そんな散らかってたわけじゃなかったんだけど、タンスの裏まで掃除って滅多にしないし。母さんにも褒められたからいいの。とばっちりで妹がアンタも掃除しなさいとか怒られてたけど、私には与り知らぬことだ。アイツはちょっと部屋片付けた方がいい。お姉ちゃん貸した辞書返してもらいに部屋入ったらBL雑誌踏んじゃったからね。人の趣味とやかく言わないけどせめて隠しておこうな、妹よ。
あ、下手に机の上とかに置いたり片づけたりしたらショック受けると思ったし、放置してきたよ。なんか赤い顔で夕食の時睨まれたけど、私悪くない。むしろ、空気の読める姉に感謝してほしい。もし母さんが部屋入ってたら生暖かい視線を浴びて夕食とるはめになるところだったんだから。
ちゃちゃっと顔を洗ってリビングに入る。今日はホットケーキでも作ろうかな。母さん、おはよ。もう朝ご飯食べた? まだ? じゃあ、ホットケーキ作るから一緒に食べない? うん。リンゴジャムね。了解。
ホットケーキミックスは偉大だと思う。
母さんと一緒に食べてたら妹も起きてきた。現在9時。早いな、妹よ。え、食べるの? いや、いいけども。んー、もうちょっと焼くか。父さんは起きてこないっぽいからあとから母さんが作ってあげてくれればいいと思う。
29を頭上に乗っけた妹にホットケーキをあげる。何気に増えてる気がするんだけど、気にしたら負けなんだろうか。
……涼華に会って増えてたらもっかい考えよう。
片付けは母さんに任せて部屋に戻る。何着ようかな。ジーパンでいいか。動きやすいし。あー、でも暑いかな。ショーパンにしとこ。上はどうしようかなー……。
悩んでたらなぜか妹が部屋に来た。何か用なのか、妹よ。なんで上半身裸って着替えてるところに来たお前が悪い、っていうか裸じゃないよ。ブラしてるし。で、何? 今日暇かって? あー、ごめん。今日は遊びに行くんだわ。誰とって友達とだけど。え、間中じゃないよ。女って、うん、女だけどもそれがどうかした…………痛い! ちょっこら! なんでシーちゃん(シーラカンスのぬいぐるみ)を投げつけたの!? お姉の馬鹿って誰が馬鹿だこらっていうか女誑しってお前まで言うか!?
逃げられた。
ごめんね、シーちゃん。ちゃんと飾っとくから許してやって。
妹の扱いが本当に難しいんだけど、思春期の妹ってあんな情緒不安定なのだろうか。私2年前あんなだったっけ? っていうか、妹にまで誑しだと思われてたとか凹むんだけど。私のどこが女誑しなんだよ……っていうか女誑しって女につける呼称じゃないだろ。
ぶちぶちと愚痴りながら着替える。結局カジュアルになったけど、こんなもんかな。涼華と並んで見劣りはしないくらいの格好だとは思う。涼華がどんなの着てくるかわかんないけど。そもそも涼華は元が良すぎるから何着ても衆目を集めるだろうし、不釣り合いじゃないレベルの装いならいいよね、うん。
時計を確認。10時。待ち合わせ場所まで15分。余裕みて10分ほど前に着いとくとして半時間くらいあるのか。んー、ソシャゲでもして時間つぶそうかな。昨日全然できなかったし。掃除って捗るとほんとのめり込むよね。
AP消化したしいい時間になったので出発。
母さん、出かけてくるね。夜? えーっと、たぶん帰ってきて食べるよ。もし晩御飯も食べて帰ることになったらLIMEするから。はーい、行ってきます。
電車に揺られながら周りの人を見る。というか、頭の上の数字を。
結局今は消えもせず見えたまま。一生見え続けるのかなぁ、これ。そう考えるとちょっと嫌なんだけど。
脳がおかしくなったのかとも考えたけど、特に異常はなさそうだし、精神科とか行きたくないから病院は最終手段にしたい。
周りはほとんどゼロを浮かべてる。
そもそもゼロが多い。外を歩いてるとほぼほぼゼロの人しか見ないくらいだ。
でも学校内部だとなんらかの数字を刻んでる人が増えてくる。涼華を筆頭に。
ってことは、だ。やっぱり“私”に関係、するんだろうなぁ。たぶん。
それも、私が知っている人、もしくは私を知っている人って条件で数字がゼロ以外になるって考えるのが妥当なんだと思う。
ただ下級生とかで数字がゼロじゃなかった子を見たから、私“を”知っている人って線の方が濃そうかな。私はその子を知らなかったし。
なんか考えが進んだようで全く進まないな、これ。
結局、私を知っているだろう人の何かをカウントしてるってことしかわかんないじゃん。
その何をカウントしてるのかが知りたいわけなんだけどね、こっちは。
涼華の自爆で、盛った数かと思ったんだけど、間中の数字がゼロなのは腑に落ちないし………………。……いや、待てよ。
ただ自家発電やっただけなら私関係してないわ。
えー、もー、堂々巡りじゃん。基本頭そんなよくないんだからわからんわもう。
改札を出て待ち合わせ場所まで歩く。
何? カラオケどこって、アソコ。見えてるでしょ、私に聞かなくても。はあ? なんで一緒に行かないといけないのか。私忙しいからあとはあの辺にいる人に聞いて。
今度は何。暇って、暇じゃないよ。待ち合わせしてんだから。女だったら何。だから嫌だっつってんの。あーはいはい、機会があればね。ついてくんな。
次から次へとなんなんだ鬱陶しい! 怒らせてんのはアンタらだよ、五月蠅えよ。私待ち合わせしてんの。じゃあね!
ああ、もう早く待ち合わせ場所行こ。しんどい。なんで私にばっか話かけんだよ。そんなに暇そうに見えんのか失礼な。
呼び込みとか声かけてくんのとかフル無視して待ち合わせ場所へ。5分前到着。
なんか人だかり多いな。涼華はまだかな。
あ、LIME送っとこ。
着いたから来たらLIMEしてー。と。
送信。
返信早っ。わたしも着いてるけど、ちょっとだけ待ってね。ごめんね。ん? もういるの? それらしい人いないけど。
人だかりかき分けて涼華が出てきた。この人だかり涼華に集ってたのかよ。
ごめんね、なんかやたら話しかけられちゃってって、別に涼華悪くないよ。じゃあ、もうお昼行こうか。なんかものすっごい人多いし。あ? 彼女ら二人って見りゃわかんだろ。だから一緒にとか意味わからん。行くぞ涼華。
無駄に疲れた。
あの人だかり涼華のナンパかよ。成功すると思ってんのか、阿呆共め。どう見ても高嶺の花だろ。
さて、涼華どこ行く? お腹すいてる? この辺りだとオムライスの専門店でオススメのとこあるけど、どうかな。おっけ、じゃあそこ行こう。
っていうか、顔赤いけど大丈夫? もしかしてさっきのアホ共の所為で疲れたか? 違う。ならいいけど。……手? あ、ごめん。繋ぎっぱなしだった。嬉しいって、あ……うん。えっと……じゃあ行こっか。
手を繋いだまま歩く。
涼華が嬉しそうなので、まあ、うん。いいじゃんか。いいんだよ。美少女の笑顔に逆らえるヤツなんかいないよ。
しっかし私服も可愛い。白のワンピースがこんなに似合う人間、漫画以外で初めて見たわ。
清楚系お嬢様っての? すれ違う人が男女問わず振り返って涼華を見てる。気持ちはわかる。私も街中で涼華レベルの美少女見たら絶対振り返ると思うもん。
当の涼華はにこにこと楽しそうに笑ってる。見られ慣れてんのかな。視線は気にならない様子。
お店に到達する前にゲーセンだとかにふらっと立ち寄ってみる。え、ゲーセン初めて? マジか。プリクラとかも撮ったことないの? ないんだ。撮ってみたいの? もちろん、いいけど。んじゃ、あとで撮りにいこっか。私もプリクラとか久しぶりだよ。中学校の時何回か撮った程度だった気がする。私はゲーセンといえばUFOキャッチャーかアーケードだったからなあ。
UFOキャッチャーも間近で見たのは初めてだとかで、目きらきらさせて見渡してる。可愛い。なんかのゆるキャラのキーチェーンマスコットをじっと見てたから取ってあげた。200円也。得意なんだ、UFOキャッチャー。予想以上にものすごく喜んでくれたので、取った甲斐があったよね。
また後で来るってことでランチへ向かう。
いい感じに時間が経って小腹も空いたし。
案の定そこそこの列。予約でもしとくべきだったか。涼華、ごめん。ちょっと待たないといけないね。全然大丈夫? ありがと。
他愛ない雑談をしていると十数分で入れるようになった。12時半か。むしろベストくらいかもしれない。
本日のおすすめを注文。涼華も同じく。デザートと飲み物だけ別で。半分こしようね、だって。勿論了承。
待っている間は引き続き雑談。ちらちらと目に入る407の数字をガン見しないように、意図的に視線は涼華の目に向けてる。たまにそらされるけども。まあ、普通に目をずっと見られるのってツライか。反省。
っていうか、触れないようにしてたけど金曜日にわかれてから6増えてるよね。401だったよね、確か。
注文を取りに来てくれたウエイトレスさんは、やっぱりゼロ。さりげなく店内見渡してみたけどほとんどゼロだった。何人か5とか乗っけてる人がいたけど、同じ学校なのかなあ。謎。
ん、キョロキョロしてた? いや、なんでもないんだけど……あ。あそこに座ってる人たち知ってる? 同高じゃないかなーって思っただけ。そそ、あそこの二人。え、いや、好みとかでは一切ないけど……可愛い? 涼華の方が可愛いよ? っていうか、涼華より可愛い子って中々いないし。や、一切合切お世辞じゃないけど? なんで俯くのさ。涼華ー?
「…………奏ちゃんは、タラシすぎると思う」
「待ってどの辺が!?」
「だって、そんな……可愛い、とかすぐ言うもん……」
「え、だって涼華可愛いじゃん。そのワンピースもすごく似合ってる。このシュシュはお気に入り? よくこれつけてるよね。一番似合ってると思う」
学校でも一番頻度が高かったと思うし、涼華は自分に似合うものちゃんとわかってるのかセンスがいいよなぁといつも感心する。
「そ、ういうのが……もうっ! 奏ちゃんはかっこよすぎるの!」
「なんでいきなり!?」
「いきなりじゃないもん。奏ちゃんは自分がかっこいいの自覚するべきだよ。頑張ってるとこさらっと褒めてくれるし、褒めるのに照れがないし、笑ってる笑顔可愛いし、欲しい言葉言ってくれるし、UFOキャッチャーで欲しいって言ってないのにすぐ取ってくれたし、…………ずるい」
「ずるいって言われても……っていうか別に私がかっこいいってのと繋がらなくない?」
全部普通のことじゃない? 可愛いから可愛いっていうし、似合ってるから似合ってるっていう。マスコットのキーホルダーは取れそうだったし、……まあ、多少格好つけたけど。この件に関しては。取れなかったらカッコ悪いからなんも言わずに取ったしね。
なんで溜め息吐くのさ。
「……奏ちゃんって鈍感って言われない?」
「え、言われたことないけど」
「鈍感」
「なんで改めて言ったの」
「奏ちゃんの初めてが欲しくて」
「何言ってんの!?」
そして言った後に照れるくらいなら言うなよ! 両手で顔覆って恥ずかしいって呟くくらいなら言わなくていいでしょうが。勇気を振り絞ってみた? 振り絞るとこココかな!?
デートです。テンパるヒロイン(むっつり)。