閑話 ── side間中
馬鹿な話が書きたかった。
下ネタ的なものが多めですのでご注意ください。
俺の親友はちょっと変な奴だ。
「にいちゃ、ばいばい!」
「おう。いってこい! んじゃ、幸喜のこと頼みます」
「はい、お預かりいたします。お兄さんもお気をつけて」
「あざっす!」
いつものように弟を保育園に送り届けてガッコーに向かう。弟の送り迎えは俺の当番だ。最初は弟とかマジうぜえと思ってたけど、すげー可愛いのな。3歳になったばっかだけどにーちゃんにーちゃんて俺に懐いててさ、親父なんかこないだ拗ねてたからな。ざまぁ。
親父の間抜け面を思い出して含み笑いをしながらバス停へ走る。
相変わらずバス停には結構な人数が並んでる。幸いにもバスはまだ来てないようだった。セーフ。
幸喜の送り迎えするようになってから折角遅刻減ったのに、これで乗り遅れちゃ意味ねーからな。
一息ついて辺りを見渡す。案の定、行列の中に親友を発見した。ラッキー、入れてもらおう。
「よーっす、響」
「ん? ああ、おはよ、間中」
「何ボーっとしてんだよ。またベッドで頭打ったか?」
「違うっつの、なんでもないよ。大丈夫」
「そっかあ? あ、わかった。今日の小テストで凹んでんだろ! 気持ちはわかるぜ、マジ勘弁してほしいよなあ」
「え、ウソ!? 今日小テスト!?」
マジかよ! って叫んでる親友に爆笑しながらバスに乗り込む。コイツ変なとこ抜けてんだよな。
バスん中は相変わらず押し寿司の気分を味わえる。すっげえつらい。朝のこれだけはほんと勘弁してほしい。悪態ついてもどうしようもねえのはわかってるけど、響と愚痴りあってる。まあ、そうしてりゃ結構すぐ着くんだけどさ。
おっさんとの距離近ェとかなんもうれしくねえわ。どーせなら可愛い女の子が隣ならいいのにさあ、東雲さんとかな!
「潰れる。助けろ、間中」
「頑張れ、お前はやればできるやつだ。ってか、これでもかばってやってるっつの! 俺の腕ぷるっぷるしてんぞ!」
「ファイトだ間中! 最悪お前はどうなってもいいから私のことは助けてろ」
「ぶん殴んぞテメェ!」
馬鹿言い合ってるけど俺らは仲いい。こんなもんいつも通りのじゃれ合いだ。俺がマジでやばそうならコイツ自力でどうにかするからな。
俺と響は保育園からの腐れ縁だ。幼馴染ともいう。
普通男と女なら思春期迎えりゃ離れるモンかもしんねえけど、俺らには全く当てはまらなかった。っつか、お互いに男とか女とか全く意識してねえんだよな。
小学校高学年くらいからは馬鹿共が茶化して来たりもしたけど、そんなもんで俺と響の間柄はなんも変わんなかった。
俺は響を妹みたいに思ってるし、響もたぶん俺のこと弟みたいに思ってる。どっちがガキかなんて飽きるほど喧嘩したけど、決着はいまだについてない。
でもそれと同じくらいお互いを親友だと思ってる。男女の友情は成立しないとか言われるけど、実際成立してんだから他に何言われようと俺らは親友なんだよな。
「そうは言ってもよ、響めっちゃくちゃ美人じゃん? 意識するだろ普通」
「お前妹に欲情すんのか? うっわ、キモ」
「しねえよ! 妹とかマジうぜえから! っつか、響と比べもんになんかなんねえよ!」
体育で女子が更衣室に消えて男ばっかになった教室で駄弁ってたらアイツの話になった。
まあ結構な頻度で響のことは話題にあがる。目立つしなあ、アイツ。
客観的に見て美人だってのはわかってる。けど、どうしても身内みたいなもんだって意識だからアイツ見てもなんも思わねえんだよな。
「まあ、美人かもしんねえけどさー」
「かも、じゃなくて美人なんだよ! モデルよりスタイルいいんじゃねえか? 響って」
「胸もでかいよなー。一回でいいから触りたい! 間中お前ラッキースケベとかしてねえだろうな!」
「ねえよ。っつーか、例えアイツの裸見ても別になんも思わねえよ」
「え、お前……若いのに…………インポかよ……」
「ざっけんなこのやろう」
誰がEDだ馬鹿野郎。
巫山戯たこと抜かしやがった三谷をアイアンクローで沈めとく。阿呆言ってねえで着替えろっつの。
「そもそも妹みたいに思ってるってことは、身内認識なんだから勃つわけねえだろ」
だってオカンとか妹にゃ勃たねえだろ、普通。
俺としちゃそういうレベルの当たり前の反論だったんだが、周りはそうは思わなかったらしい。
えー、とかありえねー、とかブーイングが飛んできた。
なんでありえねえのか逆に教えて欲しい。お前ら身内に勃つの? 特殊性癖? あとなんで知らん間にほぼ全員がこっちに耳傾けてんのかもついでに教えて欲しい。
ホントにわけわかんねえくらいモテるよな、響。
「美人の幼馴染とかサイコーのネタだと思うけどな、オレ。ココだけの話、ホントは抜いたことあんだろ? 馬鹿にしねーから教えろって」
「ねえっつってんだろ。っつかマジで響で抜けるか?」
「バッカ! お前、当たり前だろ!」
「あの乳も尻もサイコーだろうが!」
「ああいう気の強そうな美人がオチてデレてくれるとか想像してみろお前! 3回はイケるだろ!」
「知らねえよ!」
っていうか知りたくなかったわ!
お前らフツーに友達しときながら響で抜いてんのかよ!
俺も男だし、そりゃクラスのやつで抜いたことないかっつわれたら何も言えねえけどさぁ……くそ。なんか腹立つな。
「っていうか、何気にウチのクラスの女子ってレベル高くね? 東雲とか田中とかも可愛いよな」
「わかる! 東雲はありゃーズルいわ。アイドルとか比べモンになんねーじゃん」
「響とは違うベクトルの美少女だよなー。おれ、明日のプール本気出す」
「うわ、おまわりさんコイツです」
「うっせ。お前らだって見てえだろが! おれはやるぞ!」
「馬鹿野郎、お前だけ犠牲に出来っかよ。オレらトモダチだろ!」
なんかもやっとしたもんを感じてる俺をそっちのけでどんどん話はそれていく。
知らん間に明日覗きすることになってたんだけど、なんだこれ。どうしてこうなった。
いや、見てえけどさ。俺も。そりゃ東雲さんの水着とか見た過ぎるだろ。やるっつの!
まあ、俺もアホの1人なだけだ。男なんてそんなもんなんだよ。
そんな感じで友情を確かめ合ってたらチャイムが鳴った。当たり前だけど。っつか、次鬼ゴリラじゃんやべえ!
「おい、次鬼ゴリラだぞ! さっさと行かねえと周回ヤバいことになる!」
「げっ! 早くいくぞ!」
言うや否やアホ言ってた全員で運動場へ走り込む。
女子はほとんどそろってたけど、鬼ゴリラはまだギリ来てなかった。マジやばかった。
あんなアホな言い合いで遅れましたとか言えねえし。
全速力で走ってきたからあがりまくってる息を整える。あー、喉いてえ。
俺らがぜーはー言ってると響が笑いながらこっちに来た。笑ってんじゃねえよ、お前の所為だからな。
完全に八つ当たりだけどちょっともやもやしたものが残ってて、響を睨みつけてしまう。
けど、響はそんなもん一切気にしてない様子でバーカ、とにやにや笑ってる。俺が本気でやってるわけじゃねえの百も承知だろうからな。
「今日マラソンなのにもう走ってんの? 馬鹿?」
「うるせえ。イロイロあんだよ、男には」
「何よそれ。ん、あ、東雲さんだ」
響がぽつりと口にした言葉に男共のほとんどがぐるりと振り返った。俺含めて。
……響に馬鹿っつわれても否定出来ねえな、これ。
変に視線でも感じたのか、東雲さんがこっちを振り向く。って、笑いかけてくれた!? うわっやばいめっちゃ可愛くね!?
「美少女の笑顔! 私に笑いかけてくれてるからアレ」
「俺かもしんねーだろ! お前とは限んねえじゃねえか!」
「妄想乙」
ぎゃーぎゃーと騒いでたら鬼ゴリラが登場してきて普通に怒られた。俺だけ。差別だ。
放課後になって帰ろうとしたら、響が実行委員のことでセンセイに呼ばれて先帰ることになった。
変なとこマジメでそういうの面倒くさがりながらもちゃんとやるんだよな、アイツ。
野郎ばっかになると自然、昼ンときの話の続きになった。誰が可愛い、誰が乳でけえとかそういう馬鹿話。
俺が言うのもなんだけど、ほんとにアホだよな。男って。
「なあ、間中。マジで響と付き合ってるとかねえの?」
「ありえねえ」
ひょんなことからクラスの誰に彼氏がいてとかいう話になって話を振られたけど即答で否定する。
ねえよ。響とは付き合うとかそういうんじゃねえんだよ。
付き合うなら東雲さんみたいな可愛い系美少女がいい。雲の上の存在なのはわかってっけど夢見んのは自由だろ!
誰に言い訳してんだ、俺は。
「アイツ、顔は美人だしスタイルもいいのは認めるけど、ちょっと変わってるしな」
「そうか? 話しやすいし別に普通じゃね?」
「あー、いやちょっとわかる。オレらより完璧にフェミニストだよな」
「それな。本人気づいてねえけど、女にめっちゃモテてるから」
「え、マジかよ。女に女とられてるとかおれら非モテはどうすりゃいいんだよ」
「一緒にすんな。オレ彼女いるし」
「うっわ、いらっとする! 裏切者!」
不用意なセリフで袋叩きにあってる山下にはドンマイとしか言えない。っつか、自業自得。
一回写メ見せてもらったけど年上の美人さんだったな、確か。カテキョ捕まえるとか絶許。エロ本かよ。
「あーあ、おれも潤い欲しー」
「本音は?」
「ヤリてえー」
「自重しろ」
アホなことほざいてる三谷は放置しておく。相棒で自家発電してろ。
バーガーショップで駄弁ってゲーセンで遊んだあと解散して帰路に着く。
なんとはなしに夕方話してた会話が頭に浮かんだ。
俺と響は幼馴染だ。それ以上の何モンでもないし、俺もアイツもそれ以上には絶対ならねえだろうって思ってる。
結構なんでも話す中だし、気兼ねなく一緒に馬鹿やれるし、好きか嫌いかっていわれりゃ好きに決まってんだけど、恋愛対象にはなりえねえんだよな。
まあ、誰にも言ってねえし響自身も気づいてねえけど、そもそも前提が違うんだよ。
俺と響は長い付き合いだし、誰が可愛いだとか誰が好みだとかそういうのも話したことはぶっちゃけある。
あるけど、ものの見事に俺と響の意見はかぶったんだ。
好いた惚れた話してんのに、俺と響の意見が同じって、なんつーかもう、さ。
「……アイツいつ自分が女が好きだって気づくんだろうなあ」
呟いた俺の言葉は、誰に聞かれるでもなく虚空に消えていった。
間中は響のことは憎からず思ってるけど、恋愛にはなりません。絶対に。