33 ―― side涼華
お久しぶりですノクタで新連載とか始めてしまった上に難産でしたすみませんorz
涼華視点による奏考察回。
「大変な事実が発覚したかもしれません」
「う、うん……」
屋上でいつものように一緒にお昼ご飯を食べて、お互いお弁当箱を片付けてお茶を飲んでいるときに奏ちゃんが姿勢を正してそんなことを言った。
思わずあたしも姿勢を正しちゃったけど、どうしたんだろう。
真剣な目であたしを見る奏ちゃんはカッコいいけど、すごくすごくカッコいいけど。
睫毛長いな。肌も白くて透明感があって綺麗。ふわっと風に靡く髪からいい匂いがする。
ようやく奏ちゃんを真っすぐ見てもすぐに直視出来なくなっちゃう、なんてことはなくなってきたけど、こうして目の前にいてくれてることにはいつも幸せいっぱいになっちゃう。
「涼華? なんか段々顔赤くなってきてんだけど、のぼせた? 平気か?」
「だ、大丈夫!」
「ホントか? ……あ。うん、わかった。ぎゅってする?」
「えええぇぇぇ!?」
「ふはっ 驚きすぎだろ」
くつくつと笑う奏ちゃんに揶揄われたことを自覚するけど、ズルいと思う。
だって、奏ちゃんにそんなこと言われたら動揺しちゃうに決まってるもん! ぎゅってして欲しいけど! しては欲しいんだけど!
ちらっとあたしの頭の上を確認してからの台詞だったから、たぶんあたしの数字は桃色だったんだと思う。うう……これ奏ちゃんにあたしの感情筒抜けになっちゃうのが恥ずかしい。
ある日突然奏ちゃんは人の頭の上に数字が見えるようになったんだって。
最初は何の数字かわからなくて、なんで数字が見えるのかもわからなくて、一人で悩んでいたみたいなんだけど、一緒にお出かけした日の終わりに奏ちゃんはあたしに相談してくれた。
好きな人があたしを頼ってくれたことが嬉しくて。本当ならそんな夢みたいなこと信じられないのかもしれないけれど、あたしは奏ちゃんの言うことをすぐに信じた。
だって、冗談めかしてはいたけれど、本当に本当に悩んでいたんだってことが伝わってきたから。
それからはそもそもなんの数字なのかを調べて、…………なんの数字なのかわかったときは顔から火が出るほど恥ずかしかったけど。
なんの数字なのかということがわかっただけでも、奏ちゃんはちょっとだけほっとしたみたいだった。
奏ちゃんの器の大きさを思い知ったし、惚れ直したのは秘密。だって、そんな数字が見えてたら、あたしなら……たぶん距離を置いちゃう人が出てきちゃう。
自分のことは棚に上げて、怖くなっちゃったと思う。
でも奏ちゃんは、変わらなくて。
あたしなんて、その、正直ちょっと自分でも引いちゃったのに、奏ちゃんは笑って嬉しいよって言ってくれて……。
うう、ほんとにかっこいいよぅ。
「涼華ー、涼華ちゃーん。まーたトリップしてるだろ」
「ひゃう! か、奏ちゃん近いよ!」
「え、私そんなにアップに耐えられない顔?」
「そんなわけないでしょ!? 奏ちゃんはカッコいいし可愛いし美人だし大好きです!!」
「くく……っ そんな必死になんなくても大丈夫だよ」
覗き込んだままの姿勢からぽんぽんとあたしの頭を撫でて、笑いながら奏ちゃんが居住まいを正し直す。
何気ない仕草が全部イケメンであたしの彼女が本当にカッコいい……っ
ぽけっと奏ちゃんに見惚れていたのだけれど、ペットボトルのお茶で喉を潤した奏ちゃんはそれでね、と話を元に戻した。
「涼華がさ、前に言いかけてたヤツ調べてきたんだよ」
「前にあたしが?」
どれのことだろう。
首を傾げて奏ちゃんの次の言葉を待つ。
あたしが奏ちゃんに言って、あたし自身が調べてないことなんてあったかな。
たぶん奏ちゃんの数字のことなんだとは思うんだけど……。
思い当たる節がなくて、きょとんとしているあたしに奏ちゃんはあっけらかんと忘れかけていた爆弾を投下してくれた。
「原因を解消すればって言いかけてたでしょ? 数字見えなくしたいって話ンときに」
「……────!!」
思い出した。
確かにあのとき、言いかけて言い淀んで結局言えなかったことがある。だって、さすがに思い当たっても、あのときあたしにソレを論じるのは難しかったんだもん……!
思い出したと同時に顔に熱が集中する。あたし、今絶対真っ赤になってる……っ
ぼっと一瞬で変わったあたしの顔色に、奏ちゃんがたぶんそのときので合ってるよ、と微笑する。
その笑顔は可愛くてカッコいいんだけど、大好きなんだけど、ちょっとあたしの脳の処理速度が追い付かない。
だって奏ちゃんは調べてきたって、そう言った。ということは、あのときあたしが言い淀んだ結論に達したかもしれないってことで。
勿論全然違う可能性もある。都合よく同じ結論になんて早々達しな────
「でさ。まあ、間中…………ちょっと知り合いに読ませてもらった本に、私と同じように数字が見える主人公の話のやつがあって」
絶対同じ結論に達するような本────────!
あと濁したけど確実に間中くんだよね!?
「全貌はどうでもいいから端折るけど、解決した理由は結局わかんなかったんだよね。終始ヤってただけだしあの本」
不服気にそう言い放って、奏ちゃんはペットボトルの蓋を閉めて傍らに置いた。
っていうか、あの、 ど、どうでもいいんだ……。
なんとなくだけど、奏ちゃんは普通に間中くんの隣でその本を読んでいた気がする。
「だからまな……本貸してくれたヤツにそう愚痴ったんだけど、そしたらあいつがさ『魔法使いじゃなくなったからじゃね』っつったんだよ」
あの、もう濁さなくてもいいよ? 間中くんには悪い気はするけど……。
「ってことは、さ」
あたしが心の中で見当違いのツッコミを入れてる間に奏ちゃんの考察は佳境に入っていた。
くるり、と振り返った奏ちゃんがキリっとした顔で言葉を続ける。
「この数字見えなくする方法って、私の処女喪失って可能性高くない?」
どう思う? って小首を傾げて奏ちゃんに問いかけられたけど、割といっぱいいっぱいになっちゃったあたしにはきちんと答えられなかった。
だって、奏ちゃんのそういうセリフの破壊力すごいんだもん!!
奏のロストバージンという台詞に意識全部持っていかれた涼華さんの図。




