閑話 ──お正月SS side涼華
思いっきり風邪を引いていました…。年始に体調崩すのどうにかしたいです…。
えー…お正月も開けて20日以上経ちましたが気にしない方向でお願いします()
「初詣行こっか」
年が変わる数分前。
電話口から聞こえる奏ちゃんの嬉しそうな誘いに、見えないとはわかっていながら自分でもわかるくらいの満面の笑みで了承した。
「はっぴーにゅーいやー。あけおめ、涼華!」
「明けましておめでとう、奏ちゃん。今年もよろしくね」
「うん、今年もよろしく」
にこっと笑ってお互いに新年のあいさつを交わす。
新年早々奏ちゃんと、でっ……デート、出来るとか、今年良い年になることがもう確定したようなものだよね……!
思わず微笑むを通り越してにやけそうになる表情筋を引き締めて改めて奏ちゃんを見やる。
カーキ色のシンプルなマフラーを巻いて、長い綺麗な髪は括らず遊ばせている。
黒のダッフルコートからはスラっとしたスキニーパンツが伸びていて、足元は暖かそうなショートブーツでシンプルにまとまっている。
冬の寒い時間帯だからコートの中まではわからないけど、相変わらず奏ちゃんは何を着ててもカッコよかった。
「ってか涼華、物凄く可愛い! 大変でしょ? そういう格好」
「うん。でも部活でも、着ることあるから」
「ああ、そっか。ん、でも今年初めて見たのは私だしいいや。似合ってるよ、凄く可愛い」
対するあたしは晴れ着姿だ。
お母さんが張り切って着付けてくれた。一人でも着れないことはないんだけどやっぱりちょっと大変だからお言葉に甘えておいた。
白をベースにして足元にピンクの桜の花をあしらった着物で、可愛らしい雰囲気が気に入ってるものだったりする。
実はちょっとだけ褒めてくれるかなって期待してたんだけど、あたしのそんな感情はお見通しと言わんばかりに奏ちゃんはべた褒めしてくれた。
もこもこのファーに触れて、可愛い、綺麗、お姫様みたいってにこにこと笑って……あの、奏ちゃん、も、もういいから!
際限なく褒め続けてくれる奏ちゃんに頬が熱くなる。出かける前から体力使い果たしちゃいそうだよ……。
「本心なのに。出来ることなら誰にも見せたくないくらい」
「か、奏ちゃん!?」
言いながらあたしの横髪を一房手に取り軽く口付ける素振りをする。
綺麗な着物と髪のセット崩しちゃいけないから今はこれだけね、と笑う奏ちゃんは相変わらずなんていうか、本人は否定してるけどやること為すこと女タラシだった。
吐息が白くなる程度には気温が低いのに、頬が熱くなって体温が上がったのが自分でもわかる。
そういう行動やって様になる人って限られてるんだからね! 奏ちゃんは、ものすごく似合うけど!!
内心で思いっきり叫んでどうにか平常心を保つ。
奏ちゃんのタラシと、ぽつりと呟いたら、やっぱり奏ちゃんは「なぜ!?」と叫んでいた。なぜもなにもないと思う。
カラコロといつもと違う足音を鳴らしながら奏ちゃんと一緒に歩く。
普段歩いてる道なのに、昼間と夜では随分と印象が違う。
勿論月明かりしかなくて静か、とかそういうわけではないけど、いつもと違うということにちょっとだけワクワクする。奏ちゃんと一緒だからドキドキしてるのはいつものことだ。
少しだけ目線があたしより上にある奏ちゃんの横顔を盗み見る。
ニコニコ笑って綿菓子あるかなー、と楽しそうにしている奏ちゃんが可愛い。
因みにその奏ちゃんは、自然と道路側を歩いてあたしの歩調に合わせてくれて、気付けばお財布と携帯を入れていた巾着を代わりに持って、空いている反対側の片腕はあたしの手を取って組ませてくれていた。エスコートが自然体過ぎないかな!?
奏ちゃんの挙動に一喜一憂────憂いはしていないけど────しながら大通り向いて歩く。
お祭りとは違うから祭囃子が聞こえてきたりはしないけど、大通りに近づくにつれて人通りがどんどん増えてきた。
「さすがに人多いな。涼華、腕離さないようにな」
「うん。ありがとう」
地元の小さな神社に向かっているのだけど、この辺りにある神社はここくらいだから目に見えて参拝者だらけだ。
あたしと同じように着物を纏った人も結構いて、俄かに華やいだ雰囲気も見て取れた。
新年の特別な光景に少しだけキョロキョロと辺りを見渡していたのだけど、ふと視線を感じて顔を上げる。なぜか奏ちゃんがじっとあたしを見つめていた。
な、なんだろう。奏ちゃんの端正な顔に見つめられると毎回ドキドキして心拍数が跳ねあがってしまう。うぅ、いつになっても慣れないよ……。
「えっと……どうかした? 奏ちゃん」
「ん? やっぱ涼華が一番可愛いなと思って」
そう、何でもないことのように言って奏ちゃんが至近距離でにこっと朗らかに笑う。
抱きしめらんないのが残念、と耳元で囁かれたけど、残念なのはあたしの方がより思ってるし、可愛いのは奏ちゃんの方だからね……!!
思わずまた暴走しそうになる自分を落ち着かせて、どうにかありがとうと返す。ふにゃりと微笑んだ奏ちゃんは、やっぱりあたしなんかより数倍可愛いかった。
1月の気温なんか気にならないレベルで体温が急上昇してるんだけど、ホントに奏ちゃんは新年早々にあたしをどうしたいんだろう。
奏ちゃんの何気ない一言であたしの1年の運勢が占うまでもなく最高値に達してると思う。おみくじとかどれを引いても大吉になる自信があるよ。
ぎゅっと奏ちゃんの腕にしがみついて、好きと小さく呟く。
喧騒に埋もれて聞こえなかったかもしれないけど、それでもいいから言いたかった。
でもそんなあたしの行動は奏ちゃんにはあっさり見抜かれていたらしい。くくっと堪えるように笑ったかと思うと、私もだよ、と悪戯そうに微笑まれた。
お正月から奏ちゃんの色んな表情が見られて嬉しすぎるんだけど、神様ありがとうございます。お賽銭って幾らくらい入れればいいですか。
ちょっと神様への感謝の意でトリップしかけるところで境内に差し掛かった。
さすがに夏祭りほどではないけど、境内にはそれなりの数の屋台が並んでいる。綿菓子のお店もあったからあとで奏ちゃんと来ようね、と話しているとその中の一角で結構な人数の参拝者が集まっているのを見つけた。
人だかりがあると気になるのは日本人のサガだと思う。
興味本位そのままに人混みの中を覗き込むと、そこでは巫女さんの姿をした方が甘酒の無償提供をしているみたいだった。
「甘酒だ。涼華、飲める?」
「うん。割と好きだよ」
「おっけー。すいませーん、私達もください」
奏ちゃんが声をかけると、お盆で甘酒を配っていた巫女さんが振り返った。
「はーい。熱いので気を付けてくださいねー」
「ありがと…………って、茜?」
「え? あー、かなちゃんだー」
混んでるし甘酒を受取ったらその場を去るつもりだったのだけど、巫女さんが予想外の人物だった。
奏ちゃんもビックリした顔で茜を見てる。もちろんあたしも。
確かにお正月はバイトだって言ってたけど、まさか巫女さんだとは思わなかった。
「あけおめ。バイトって巫女だったのかよ」
「そうだよー。あけましておめでとー」
「明けましておめでとう、茜」
「わっ 涼ちゃん可愛いー! 振袖だー」
似合う、可愛い、もふもふ! あとで写メ撮らせてねー、と茜があたしの手を取ってふにゃふにゃと笑う。
すごくハイテンションなんだけど甘酒で酔ってないよね? 米麹の甘酒だよね?
思わず不安になる程度にはテンションの高い茜に暫らく振り回されていたのだけど、一緒に甘酒を配っていたらしい他の巫女の人が手一杯になってきた様子だったので、あっさりと戻っていった。
「終わったらLIMEするからー、写真撮ろうねー!」
「う、うん。バイト頑張ってね」
「またあとでなー」
そんな会話をして、ひらひらと手を振って茜と別れる。
思わぬところで友達に会うとちょっとびっくりするよね。確かに地元も神社だから誰かしらに会うかもしれないとは思ってたけど、まさか巫女さんのバイトしてる友達に会うとは思わなかった。
貰った甘酒を飲みながらゆっくりと歩く。
それなりに混んではいるけど、テレビで見るみたいなぎゅうぎゅう詰めじゃないから、こうして飲み物を飲みながら歩くくらいは出来ている。
「巫女さんのバイトってどこで募集されるんだろうね」
「涼華やりたいの? あー、でも絶対似合うわ。絶対可愛い。超絶見たい」
「あたしは奏ちゃんがやってるの見たいなぁ……」
「私? え、似合いそう?」
「絶対似合うよ! 奏ちゃん髪長くて綺麗な濡れ羽色で背も高くてスラっとしてて脚長くて袴が映えそうだし顔立ちもカッコイイし可愛いもん!! 巫女服ならサラシとかで押さえる必要もないだろうからスタイルがいいのも際立つと思うし、奏ちゃんが巫女さんの恰好するならあたし絶対にその神社通うよ!? あ、でもそんなエロカッコよさそうなの他の人にあんまり見せたくな…………んむっ」
「よーし、今年も絶好調だな。落ち着け涼華ー」
含み笑いをしながら奏ちゃんにぱふっと口を押えられた。
そこでようやく我に返る。慌てて周りを見渡すけど、それなりに喧噪はあるし、誰も別に気にしていない様子だった。
よ……よかったけどまたやっちゃった……っ 奏ちゃんのことになるとどうしても暴走してしまう癖、今年こそは治そうと思ってたのに……!
新年早々目標が頓挫したことに軽く肩を落とす。
けれど、奏ちゃんはそんなあたしを見てへにゃっと笑ってみせてくれた。そういうところも好きだから気にするな、だって……。
自分でもチョロいとは思うけど奏ちゃんの一言で一気に機嫌が上昇しちゃうんだから我ながら現金なものだった。
人波に流されながら────飲み干した甘酒の紙コップはきちんと捨てた────境内を進んでようやくお賽銭箱までたどり着く。
こういうときのお賽銭って大体ご縁がありますように、とかで五円だよね。他には十分ご縁が、で十五円とか良いご縁で百十五円とか……。十円玉は遠縁を意味するから全部五円玉で用意するとか聞いたことがあるけど、そんなに五円玉あったかな。
でも良いご縁は奏ちゃんとで十分な縁を結ぶことが出来たから、割り切れない金額にしておこう。
お財布の中から二十一円を取り出して、二礼二拍手一礼してお賽銭を投じる。
ちらっと横を見ると奏ちゃんも同じようにお賽銭を投じてお祈りをしていた。……横顔も綺麗だなぁ。
「うっし、お参り終わり。綿菓子買いに行こう、涼華!」
「うんっ」
「そういや涼華はなにお祈りしたの? なんか真剣に祈ってたけど」
「お祈りというか……お礼、かな」
「お礼?」
あたしがそう言うとこてり、と不思議そうに小首を傾げて奏ちゃんが繰り返した。
「うん。あのね、奏ちゃんと一緒にこうしていられることがあたしには一番嬉しいことだから」
お参りは確かお願いだけじゃなくて、現在の感謝を伝えるという意味合いもあったと思う。うろ覚えだけど。
だから今あたしがこうしていられていることへの感謝と、
「あとは、これからもずっと一緒に過ごせますように」
勿論奏ちゃんとだよ?
へえ、と感心するように頷いていた奏ちゃんの手を取って笑いかける。
あたしのそんな行動に一瞬きょとんとした表情を浮かべた奏ちゃんだったけど、すぐに笑顔になってあたしの手を握り返してくれた。
「当然。ずっと一緒だよ」
祈るまでもないさ。と、優麗に自信満々に微笑む奏ちゃんに、自分でもわかるくらいの満面の笑顔で頷いた。
このあと茜と合流して写真撮りまくった。
年明け後学校でその写メを見た優子が拗ねたとかどうとか。




