答えは保留だッ!
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まあ、まて落ち着け。雰囲気にのまれるな。大体ろくでもないやつは、難しい言葉を重ねて、断り辛い状況を作り、ねじ曲がった二択を押し付けてくるものだ。
「それは、今すぐに決めなくてはいけないものなのかな」
牛川はちょっと気勢を削がれたような顔をした。
「あらゆる場合において、早い方がいいですな」
「そうか、でもそれを決めるのは、あなたではなくて私なんだ。その案は提案としては結構だけど、保留するよ。そもそもさ」
私は背中に隠れているナビィの方を見る。
「この地域の情報を、きちんと持ってもいないのに、焼き畑だの奴隷制だのと口にして、なんの意味があるんだろう?まずは、情報をしっかりと手に入れるべきじゃないかな」
ひょっこり妖精さんが顔を出す。
「でもでも、情報には対価がつきものですよ。ポイントがかかりますよ、ポイントが」
私は、ナビィの目をのぞき込む。
「ポイントは大変結構なことだけど」
一息つく。
「私をこの地に降ろした人たちも、自分の望みに反する行為を取られては迷惑じゃないかな。文明発展を阻害するために私がいるんだろう。戦乱が起きたら、一時的には発展はとどまるけど、逆に争いが技術の進歩を促してきたところもあるわけだから、困るんじゃないの。正確な情報を、できる限り開示することは彼らにとってもメ利益なはずだ」
ナビィは、ぽーっとした表情をして、少し、潤んだ目をし、ついに、声を出して泣き出した。いったいどうしたんだ。荒く掘られた洞窟の一間で、私と、ドワーフ三人組と、セイタカと、牛川がよってたかっておろおろとしている。その情景を客観的に眺めらたらそこそこ面白かったのだろうが、当人なのでそんな余裕はなかった。
「なんでも、なんでもないんです。いつもいつも、下っ端としてわけも分かってないダンジョンマスターのもとに使わされては文句を言われ、人としておかしいと否定されたり、力ある人間や怪物や竜に破壊されたり、裏切られて始末書を書かされたり、一方的な扱いばかり受けてきました。こんな、こんな、こちら側の立場をおもんかばっていただいたことがいままで、いままであまりになさ過ぎて」
泣いちゃいましたあ!と邪悪な妖精さんは感極まって、洞窟上方にジャンプし、万有引力に従って降下し、目線の高さまで浮き上がった。
「いいですよ、いいですよ。私のご機嫌をきちんととっていただければ、多少の情報はお渡しいたしましょう。どうぞどうぞ!」
と言って、腕を一振りすると、半透明のボードが現れた。
○
状況解説!
ここは巨大大陸の一部であり、その西部にある。北には都市国家及び小国家が群雄割拠し、お互いに争いながら覇を競っている。この地域は、大まかにいって北西地方と言われている。北西地方の南端には大森林が存在し、ほとんど手つかずのまま残っている。その南には、延々と森林と山々が続き、はるか果てに大陸西南部、大帝国が位置している。
北西部は慢性的な戦争状態にあり、森林の中を歩くのに全身甲冑をつける頭のおかしい真面目そうな戦士、スタイナー氏はその国家のひとつに仕えていた。では、現在の政治的状況を軽く見るために、俯瞰視点から諸国の外交状況を見てみよう。固有名詞は覚えなくていいよ。地図映像が示され、知らない固有名詞が満載の情報が羅列された。
まず、北西部地域中央の諸都市が、高額な関税によって交易を妨害するブルテン王国に対し、ブルテン国の主要貿易港マイナリーを狙って兵を挙げた。
「我々、ハウスマイナー家の諸都市、バッヘン、クルード、タントラム以下諸都市同盟は、貴公らブルテンの不誠実な態度を非難し、長期的な平和を守るため、宣戦を布告する!」
マイナリー郊外で行われた会戦に三都市同盟が勝利すると、ブルテンが西端に接する帝国に庇護を要請。帝国は北西部に進出する好機ととらえ、受諾する。
「我々の庇護下にあるブルテンに不十分な理由によって害をなそうという貴様らに対し、世界の安定と平和を守るため、我々ペルーシ帝国は防衛戦争に参加する旨宣誓する」
このころ、貿易港ブルワリーは三都市同盟によって陥落、政治家と地主を主体とした既得利権層を排除し、貿易商人を主体とした富裕層を味方につけ、都市を掌握。ハウスマイナー都市同盟を名乗る。だが、大陸北部中央に広範な領土を構える帝国に対し、要塞や都市を中心とした防衛線を都市同盟が選ぶかに見えた。だが、その折、情勢を注視していた南方のアリア、イリア、ウーリアの3か国が参戦。
「大国ペルーシの戦争参加はこの地域の平穏と調和を乱す一大事であります。バッヘン、クルード、タントラムの独立と最低限の権利を擁護するため、南部三邦はハウスマイナー家に兵を出します。世界平和のために、宣戦を布告する」
宣言と同時にウーリアがペルーシの鉱山を占拠し、イリア、アリアの連合軍がブルテンの都市を1つずつ占領。ブルテン王国は主要な都市が首都ブルテリアのみとし、兵力を大きく落とした。
「つまりは、この地方はしっちゃかめっちゃかの戦乱状態にあります!だから幸いかな、我々に注視する余力のある国家はそうなく、人里離れた大森林ですから、攻略してこようなどというものも、そうそうおりません!」
迷宮としては、それは、まずいのではなかろうか?