牛川ボリス登場
少しずつブックマークが増えていくごとに、やる気がでます。感想もありがたいです。
ナビィが空中で半回転しながら、話題を逸らそうとする。
「とはいえ、ですよ」
私は怪しげな目線を向ける。
「とはいえ、なんだよ」
あちらさんは、やや、細めな目つきで逆に挑戦してくるように言った。
「材木五十本用意するとおっしゃりましたけど、本当に用意できるんですか?伐採にかかる労力を、軽視していませんか?それに、外部と早期接触をして、大丈夫なんですか?あの愚直そうな戦士はセイタカがさくっと倒してくれそうですけど、ちょっとした軍隊に攻められたら、私たちはすぐに討伐されてしまいますよ?それだけの対策を、この一時にきちんと成し遂げることができるのですか?」
なんだか、具体的でまともな話がようやく来たな。
「材木を用意するのは、木を見る目を持った人間がいれば大丈夫そうだね。勢力を伸ばすには、食料供給を安定的に増やしていけばいいと思うけど、そもそもそのために交易をしようとしているから、なかなか難しいね。専門家の助言でもあればいいんだけどな」
いままで、本当に行き当たりばったりで来たけど、この後、どうすればいいのやら。
「そこで、ですよ!」
妖精さんがくるっと一回転。いったい何の意味があるのか。
「大臣システムを利用いたしましょう!」
○
大臣システムと言って、なんのことはない。ただ、知識と経験豊かな人間を、人格転写システムを使って召喚する。ただそれだけのことだ。ただ、ほかと違ってややお高い。ドワーフ一人呼ぶのに200ポイント必要だったが、その5倍。1000ポイント必要だとか。
「しかも、一般の招集では人は選べませんが、特定の人物を名指しし招くこととなります。偉大なる賢人の補佐が得られるのです。ぜひぜひご活用ください」
ついにどこからか楽器を出して鳴らし始めた。この妖精はいったいどこへ向かおうとしているのか。コアの力によって生み出された紙のリストで人名をさらっと見てみても、どうにもこうにもピンと来ない。しかし、どうもまたこの妖精にお任せにするとロクなことにならない気がして、適当な名前を選んでしまった。
これはどうも、失敗だったと今では思う。
○
「ふむふむふむふむふむ~むう」
目がでかい。鼻の穴も大きく開いている。髭が暑苦しい。
「状況はよぉ~く理解できましたぞッ」
声もでかい。
「徒にポイントを浪費して洞窟妖精三人と森妖精を抱えた上に、得体のしれない闖入者を生かして返すという、戦略的失敗に失敗を重ねた状況ですな!ご心配召されるな。この圧倒的な誤謬もまた、大局の前ではさしたる過ちではございませぬ。この、牛川ボリスが現在の状況をひっくり返す、名案をお伝えいたしましょうッ」
見るからに運動をしたりない、二重三重に垂れた顎。笑いが顔に張り付いて、顔全体ににたり笑いの皺がついている。腹も腕も足もしまりなく、ゆるい。ただ、眼光だけが鋭い。口は饒舌。鼻はでかい。髪と髭はぼうぼうに伸び、不潔である。しかし、どうにもしゃべりには妙な個性があって、話していると、不快さを忘れる。危険な相手であった。
「まず、人口は力です。主殿には圧倒的に人が足りませぬ。人を増やしましょう。子鬼族がよろしいでしょう。あの悪鬼は、背も低く、知能もさほどありませんが、増える速度だけは早い。人口を手っ取り早く増やすには最適でありましょう」
一息ついた。
「そしてまた、周囲が森林であふれているという。これは素晴らしい条件です。焼き畑をしましょう」
ナビィが口を挟んだ。
「それには環境保護の観点から、反対いたします!多様性を守るのには、多彩な動植物が共生する森林を守ることが第一であり...」
「私が話しているのです!」
牛川が目を見開いて、声を上げると、妖精さんは私の後ろに引っ込んだ。おい、お前管理者の手先じゃなかったのか。威圧されて逃げてどうする。
「放置すれば、地力はいずれ回復します。環境保護など富裕層のたわごとです。今は、今、生きるか死ぬかを考えて最適な判断を下すときです。長期的視野からかんがみて、近視眼的解決が長期的に有効であるのです。いいですか、私の好きな言葉に、こういうものがあります」
と言って、牛川はとある経営者の迷言を暗唱した。
『資源は消費するためにある。そしてわれわれの世代によってではないとしても、いつかはやがて消費される。だが忘れられた未来にわれわれの財産権を否定する権利があるだろうか。断じてない。われわれの物はわれわれがいただこうではないか。腹いっぱい食べようではないか』──最高経営責任者ナワダイク・モーガン「欲望の倫理」
そして、熱く続けた。
「森林を焼き、住処を失った動物を狙って狩れば、当座の飢えは凌げます。そしてその凌いだ時間でまた木々を倒し、草木を燃やしましょう。そうすれば種をまき、収穫する時間が手に入ります。交易いたしましょう。相手が裏切るようならば人口をもって攻め入りましょう。勢力拡大です。これから数年でもって、巨大な勢力としてこの地方に君臨するのです」
息をつく。そしてまた続ける。
「統治には種族によって区別を行いましょう。幹部層を中心として、森妖精、洞窟妖精の地位をたびたび入れ替えながら競争させる。子鬼族が最下層です。分割して統治せよと申しますね」
牛川の身振りには力があった。自分の言っていることに自信があるものの言葉だ。そして、白熱していた身振りをゆっくりと落ち着かせ、低い声で尋ねてきた。
「さて、どうですかな」
息を吐く。
「ゴブリン奴隷制および焼き畑計画。これをお認めいただけるでしょうか」