ちょっとした詰問
ブックマークしてもらったり、感想をもらったりと、うれしいです。やる気が出ます。つい書いてしまった。
私の前には、でっぷりと太った、にたにたと不気味な笑みを浮かべる中年男性が座っていた。さりとてどうも、背が低くその丸っこい体には愛嬌のようなものがあって、どうにも憎めず、話を聞いてしまう。
「さて、どうですかな」
目の前のゆるゆる中年は低い声で尋ねる。
「ゴブリン奴隷制および焼き畑計画。これをお認めいただけるでしょうか」
○
事態は、スタームおじさん退場時にさかのぼる。木材供給を安請け合いしてから、おじさんは帰ると言った。そもそも、我々に木材をきちんと供給できるのかといった信用が、どの程度あるのかわからない。だが、ドワーフも三人いることだし、なんとかなるだろうと思っている。彼もだいぶ休めたようだし、セイタカを案内につけて、お帰りいただくことにした。森の出口まではセイタカはよく知っている。ついでにこっちも、人里の方角がわかって助かる。それにしても、さて。
「ナビィ、どうして私の名前を言えたのかな」
トーンを上げずに言う。妖精さんは背筋を急に伸ばして-そういう仕草も、人は言葉と同じで、何らかの感情を表現するために行っているんだぞ、ある程度は演技も可能なのだぞ-気まずそうな顔をしてこちらを振り向いた。
「な、なんのことでしょう?」
トーンを上げて言う。こういうさ、噛むのって時々嘘くさいと思うんだよね。
「私が名前を自分で言えなかったこと、そして、ナビィが名前を言ったこと。そして、それがしっくりくること。何かあるんじゃないのか」
問い詰めてみた。
「そ、それは秘密にさせていただくというわけには…行きませんかね?」
上目使いで言っても無駄だぞ。感情のこもらない目で、ひたすら見つめて圧力をかける。
「わ、わかりました。わかりました。相互信頼のために、適切な情報開示は必要と考えます。私の裁量でお話しいたします。申し訳ありません、上の方も度重なる裏切りやら離反やら批判やら揚げ足取りやらで、精神的に参っておりまして、その末端である私もそれ例に漏れないと申しますか」
あ、なんだか心が折れた。もうちょっと問い詰める必要があると思ったんだけど、時々、こうやって思ったより早めに音を上げてくれる人っているよね。
「クロダ様、クロダ・リュウイチ様は地球人類のニホンという国の志願者の方から人格転写されております」
それはさして驚くべきでない情報だけど。
「それで、ですね。我々としても相手が真っ白なうちに考えをお伝えしておきたいというか、お名前をお伝えすると、以前の情報とのつながりが、強くなってしまうわけです。アイデンティティがもともとの地球側の記憶と強く結びつき、こちらのまあ、アドバイスと申しますか、お伝えしたいことが伝わり辛くなってしまうわけです」
はあはあ。胡乱げな目で見ながら後を促す。
「ですので、まあ、聞かれなかったから申し上げなかったというところもあるのですけど、軽く記憶をロックさせていただくことを、迷宮管理者の方には基本的にさせていただくようになっているのです」
ふうん。そうですか。
「過去に何があったか知らないけど、そうやって現場の人への不信が、離反や何かにつながったんじゃないの」
妖精さんはぐしゃっと顔を歪めて、ちょっと泣きそうになった。
「ごめんなさいごめんなさい!その通りです。すいませんでした!わかっててやりました」
「親方、あんまり小さい女の子を苛めるなよ。なんだか…危ないですぜ」
ドムに釘を刺されてしまった。
「このほかに、隠していることは?」
確認しておこう。
「ええと、あります!いっぱいあります!隠し事はたくさんありますが、隠していることは隠しません!聞いてくだされば答えることもありますが、聞かれるまでは答えません!」
あ、この人、あんまり反省してないな、さては。