素敵なコミュニケーション
新年あけましておめでとうございます!長い連載休止にも関わらず、地道にブックマークがついていて、本当にうれしいです。ありがとうございます。
とりあえず、青い目の中年-私は勝手にこの皺の具合は三十は越えてるでしょう?と思っているだけで、本当に中年かどうかはわからない-に座るよう勧めてみた。そういやまだ椅子やら座布団やら文化的なものは用意していないから、彼-これは間違いないように思われる-にはほどほどに座り心地のよさそうな石を見つけて渡してみた。ナビィがダンジョンコアってことまで知られているかはわからないけど、今の時点で余計な情報を渡さない方がいい。
おじさんは全身鎧にもかかわらず動きは軽い。筋肉は相当ありそうだ。顔も四角く、迫力を感じはするが、なんとなく人が好さそうというか、取りつく島がありそうな気がする、なんて思ったのだったか。とりあえずは鹿肉を勧めてみる。しばらくはぼうっとしていたものの、こちらが食べている様子を見て、食い始めると旨そうに食べている。若干涙が出ている。よほど空腹だったのだろうか。そういえば、なぜ現地語が理解できるのかとか、様々な疑問があるけれど、この状況ではナビィに聞くのもやり辛いな。
「少し、落ち着きました?」
セイタカが柔和に微笑んで声をかけてくれた。こういう場合、どう始めたらいいのか迷ったりするから、助かるよ。
「ええ。あなたは共通語をお話になれるのですね」
ええなんとか、そうでないと生きていけませんから、とか適当に受け流すセイタカ。こいつ、結構社交性あるんじゃないのか。ま、そのセイタカにおじさんは殴り気絶させられたらしいのだけど、たぶん、気づかれずにやったんだろうな。セイタカも全く悪びれていない。さすが一万ポイントエルフ。
「それにしてもあなたはどうして、あのあたりで倒れていらっしゃったんです」
心底不思議に思っているような明るい瞳で聞けるエルフ。絶対こいつ腹に一物持っている、いい性格をしている。お前が背後からぶん殴ったからでしょう。割と外目がいいから、おじさんは照れたような顔をして、自己紹介を始めた。
「小生はここより西の国で、まあ、兵士のような仕事をしておりました。名はスタームと申します」
まあ、格好から戦士のような感じはしたけれど。
「三日前に大きな戦闘があり、首都は陥落。小生も落ち延びてまいりました。自分が財産と呼べるようなものは、この武具ぐらいなもの。なけなしの食料を背負って、どうにかまいりましたものの、どうにも疲労が溜まり…あと一日ほど北へ行けば、人里へ逃れることができますので、どうにかそこまで行く…つもりだったのですが。強い衝撃を受けたような気がして、それから起きたらここで寝ていたというわけです」
おっさん言葉使いも心なしか丁寧になってるよ。最初の強い瞳はどこへ行った。
「それだったら、鎧を脱いで逃げた方が賢明だったかもしれませんね」
つい口をはさんでしまった。すると、急に呵々と笑った。セイタカが勧めたビールをグビリと一杯やり、
「いやあ、全くそのとおり。しかしまた、これもまた私の生き方。4,5日ならこれしきの重しを持っても進んでいける自信がございました。信念は道を切り開くと申します」
いやあ、そんな非科学的な…非科学的?ナビィが、魔力は意思エネルギーみたいなことを言っていたな。ということは、このおっさんの言っていることもあながち間違ってもいないのでは?力が高まると信じて修行すれば、本当に筋力が高まり、鎧をつけて活動できるほど鍛えられたと信じれば、それがある程度、本当にそうなるのでは?そしてまた、それだけ強い意志をもって生きてきた男だというのか、このおっさんは。この中年がちょっと自信ありげに見えてしまった。
「ところで、皆さんはどういった一団なのですか?木材を輸出するとかなんとか話しておられましたが、ずいぶんと多様な生まれの方々が一堂に会しておられるように見受けられるのですが」
だいぶ顔が赤くなった。あ、この人、相当酒は弱いな。適当な理屈をつければ、言いくるめられそうだぞ。
「ええ、もともとは冒険者の一団なのです」
口から出まかせ。だが、スタームおじさんは目を輝かせた。
「ほう、冒険者!」
そもそも、この世界で冒険者がどういうことをしているのか、よくわからない。まあ、行釣りのおっさんに話すことに、それほど整合性はいらないのではないか?なんて思ったのは、今からしてみれば、あまり賢明な判断ではなかったな。いついかなる時でも、嘘はその代償を要求する。
「はい。旅暮らしの中で会い、幾多の迷宮や山々を踏破し、はるかな絶景、貴重な鉱物、不可思議な効能を持つ薬草そういったものを探しながら、時に戦い、時に話し、ここ3年というものこの国のあちこちを流離っておりました。詳しく語ると、三日三晩で足りるはなしでもございませんので、雑駁な説明をお許しください」
目立たぬようにですけどね、などと付け加える。
「さて、私は」
私の名前は何というのだったか?頭が痛い。痛い。痛い。あれ?あれ?なんだったっけ?自分の名前はなんだったのだっけ?