人生にチュートリアルはない
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外に出た。やっぱ森林の中は気持ちいいね。ナビィもついてきた。お前、ダンジョンの中心核なのに出てきていいの?大丈夫なの?まあ、さっきまで出てたしな。
「親方親方」
髭面…ドワーフだ。ええと、こいつは誰だっけ?背が高いからピーリだ。ピーリ。もっとそれらしい名前にしておけばよかった。
「どうしたの?」
振り返ってみる。
「部屋、掘れましたぜ」
にやっと笑うピーリ。
「え!いくらなんでも早すぎでしょ」
「ドワーフをなめないでいただきたいものですね」
でもさ、なんでドワーフがいるんだろう。ドワーフはお話の中の存在でしょう?
「それは話すと長くなるんですけど、もとは同じ人類ですよ?簡単に言うと、過去の停滞化工作はそれなりに成功し、人類を多様な生息環境へと追い込み、適度に孤立させることに成功しました。よってその環境に適応し、山がちの地形で採掘と農耕生活を営む民族がドワーフ的な特徴を得たわけです。そんな方々のデータをコアのエネルギーで構築し、生成したわけです」
ナビィは相変わらず一気呵成に説明する。
「人体を構築したの?おそろしい…」
若干どんびきである。言葉がおかしいのはわかってるよ。
「何をおっしゃるお兄さん。マスターもそれで作ったんですよ。コールドスリープの時代は過ぎ去り、今は亜光速でデータを使って再構成の時代なのです。違う場所なら同じ人が二人存在していても大丈夫!同じ考え方をする仲間が増えるよ!うれしいな!」
嬉しくない。倫理観とかは、いったいどうなっているんだろう。ピーリ置いてきぼりである。
「ああ、そうだ、すごいな。もうできたのか」
5時間くらいかかったかな?ナビィの話を聞いたり、頭が疲れている間に、6畳の部屋4つ分くらいの部屋が出来上がっていた。これが第一階層。400ポイント節約したことになる。
勢力概況
ポイント 30180
マスター一人
ドワーフ3人
ナビ妖精一匹
あ、食糧出すの忘れてた。慌ててポイントを消費して穀類を出す。野菜も出す。肉も出す。栄養バランスって大事だよね。昔ならった気がする。タンパク質とビタミン各種と炭水化物を適度にとって、体のバランスをよくするのだ。そうやって適切な食生活を送っているという信念がまた、人を強くする。プラシーボ効果万歳!栄養バランス万歳!寿命が延びた原因は栄養バランスがよくなったからだとどこかに書いてあった。味はまあ、まあでした。やっぱ食べ物はなあ、きちんとしたものが食べたいなあ。あ、そういえば。
「何ポイントになった?」
ナビィに聞いておこう。
「野菜サラダ10ポイント、肉類20ポイント、炭水化物10ポイントの計40ポイント×5で、200ポイントですね!」
笑顔で笑う妖精ナビィ。忘れてはいけない。こいつは人類の衰退を願う熱心な主義者だ。
「ドワーフ一人分やないかい」
あれ、これって、もしかして?維持費ってすごいかかる?これは自給自足体制を早急に固めないと、生物維持費だけでダンジョン崩壊するんじゃないの?そんな疑問をきちんと口に出してみた。
「そうですね!」
にっこりと笑う。そうですか。それは困りましたね。
「そうやってダンジョン生成時点で失敗するダンジョンマスターは全体の20パーセントに登ります。困ったものですね」
やれやれ、と言ったジェスチャー。困るのはこちらだ。なるほど、一般的なダンジョンに生命が少ない理由がわかったぞ。維持費がかかるからだ。あれも魔力か何かしょうひしてるのかな?それにしても
「そういうことは、早く言っておいてくれ」
ちょっと睨んでおいた。ナビィはちょっと困った顔をして。
「説明をする力があっても、マスターが何に困っているかを知る力は私にはないんです。残念だけど、環境に適応するにはご自身で状況を知るしかないのです。質問能力もダンジョンマスターの力量ってところでしょうかね」
真面目な返事が返ってきた。
「ま、ちょっと厳しめな意見を申し上げちゃうと、子供じゃないんだから自分で考えろってところですかね」
羽を使って宙を一回転した後得意そうに決め顔された私の気分ったらないよね。
「おまえ、それ、自分が誰かに言われたやつだろ」
短い沈黙のあと、びくっとして
「そ、そんなことないですよ?あったかな?忘れましたよ?社会人一年目は無難にすごし、責任が増え油断も増えた二年目に冒したあの失敗、この失敗、いっぱいいっぱいになって苦しんでもうやめようかと思ったあの日々うあぁああぁつ!」
この妖精、調子に乗りやすいけど、結構打たれ弱いのな。ちょっとからかって胸もすっとしたし、まあ、いいか。
〇
これはさ、内装に凝ってデストラップ仕掛けたり、迷宮やら落とし穴満載のギミック構造に現を抜かしている場合ではないぞ。まず、食い扶持を確保せねば。ポイントで手に入るもので作れる、中長期的な食糧確保手段…。
「狩猟採集生活だな!」
それしかない。
「やですよ、マスター、こっちが狩猟採集民生活に入ってどうするんですか。田畑を焼き、生き物は多様性を極め、異常気象が頻発してロクに安定して暮らせもしない。やっと再建した農地は多発する氾濫によって流され、野盗が街道を跋扈する。そんな停滞の時代を作って狩猟採集民を再び選ばせるつもりが、こっちが始めて、どうするんですか!
「だってまともな食べ物を食べたいもの」
当然ね。
「マスターは飲食しないでいいんですよ?コアとつながってコアから供給を得てますから」
恨みがましそうな目でこっちを見る。お前さんに何かしているわけではないでしょう。
「でも、食べたいじゃん?」
食は人生を彩る楽しみの一つです。
〇
ご飯食べて満足したドワーフ三人組に新しい部屋の掘削を命じてから、ぼちぼち次の手をどうしようかと考えていた。森の中の空き地は草がぼうぼうに生え、空を見上げれば青く澄み渡る。飯を出すにはどうしたものか。天からは降ってはこない。
というわけで、第二の配下は森の狩猟者となりました。維持費の問題があるので、暫くは精鋭主義で行こうと思います。数は暴力だけど、維持費も暴力。
「マスター、精鋭を作りたいのでしたら、ポイントをつぎ込むと強化できますよ。技能もつけれます」
パタパタと飛んできた。
「お、いいね。じゃあ、弓でしょ、投げ槍、槍術は基本でしょ。後は、気配を消して、魔法使える?じゃあ森や生命に関する魔法や、風の魔法、傷の治りも早いといいな、俊敏性を足しておくか」
適当にそれらしい要素を詰め込んでみた。一覧表とかがあるわけじゃないんだけどね。
「盛り込み過ぎじゃありません?種族はなんですか?人間ですか?エルフですか?」
「エルフいるんだ」
ちょっと悩む。
「ちなみにこの世界のエルフは人類より適応・分化した種で、狩猟採集と農耕を同時に行っています。カロリーの摂取は常にギリギリ、野菜中心の栽培をしており栄養バランスに異様な神経を使います。睡眠時間は平均して約8時間。こうした健康的な生活と森林とその隣接地に依存した生活スタイルを何千年単位で行った結果、老化の遅滞を遺伝子レベルで達成。人類とは種族レベルで分化し、独自の文化圏を築き上げております。我々の目的には近しいものがあり、多くの場合同盟を結んでいます」
この妖精、知識をべらべらとまくし立てる時は本当にうれしそうな顔をするな。ふんふんと頷いてやる。
じゃ、ポイントつぎ込むか。
「最大何ポイント強化につぎ込める?」
確認大事。
「一万ポイントですかね!それ以上の初期投資は現在のコアではちょっと成功率に不安が出ます」
よし。ん?現在のコアでは?コアは成長するのか。でも、こういうことばっかり確認していると、なかなか進まない。ま、いいや、と流すことも大事。
で、ナビィが光り出したわけだ。一万ポイントってどれくらいのエネルギーなんだろうね。ドワーフ50人分のエネルギーを強化エルフにいれたわけでしょう。それがどういう結果になるのか。わからない。いよいよ発光が強くなり、目が痛くなるので目をつぶる。あれ、これって、遠くから目立つ?いやいや、木々が覆い隠してくれるでしょう。よかったよかった。
エルフはすらっと背が高い。身長も170cm位ある。華奢な感じ。顔はやや丸っこい。あ、服はちゃんと渡したよ。とりあえず無難で動きやすい麻のシャツとズボンと下着ね。これもポイントから。衣服も手に入れたいね。色は黒。忍者的にゆくゆくは動いていただきたい。サイズはコアに任せた。
「どう?調子は?」
などと語りかけてみたが。
「ええ、良好です。ボス」
ボスなのか。顔は普通だけど、表情が動くと生き生きとして美人さんですね、などと考えてしまうのはなかなか私も俗っぽい感じが抜けないね。服はちょっといいもので100ポイント出しといたよ。
勢力概況
ポイント 20080
マスター一人
ドワーフ3人
ナビ妖精一匹
もうちょっとダンジョン作りとかしたいんですけど、設定作って流れつくってとやっていたどんどん長くなってしまいました。でも、会話書いてるだけで楽しいです。ぼちぼち趣味でやって行こうと思います。