雑駁な交渉
この世界は、極地の設定した装置のおかげで魔力が満ちている。だから、思いこみがとても大切だ。物理法則は完全には無視できないが、自分が本当に力があると思えば鉄棒をひしゃげたり、槍で扉をぶち抜いたり、超人的な跳躍力で建物三回分くらいジャンプするくらいはできる。鍛えれば。だから、国家中枢まで忍び込んできた彼女たちの隠密能力は、ある種本物なのだろう。もう一度、その不審者然とした姿をみる。うん、きっと、本物・・・。
「だから、お金くださいお金!さもなきゃ戦力!お互い助け合いでしょ!」
「姉さん、ちゃんと説明しないと伝わらないよ・・・」
テーブルについていただいて、飲み物と軽食でも出しながらお話を聞くが、あまり的を得ないので、魔女のハナの方を中心に聞いたところによると、彼女たちのダンジョンマスターは、人間に獣の要素を取り入れた生物を多く擁しているようだ。特に、嗅覚や聴覚、身体的な俊敏さに優れたものが多い。そうした能力を使い、諜報ネットワークを使って大陸広く情報を集めている。ただ、兵力を広く分散することになっており、本拠地のダンジョンはさほど強力ではない。周辺のダンジョンや魔王軍と提携し、守ってもらうことが多かった。
「でも、戦乱の中で人類が戦闘特化しすぎて、北部は大きいダンジョンはつぶされちゃいましたしねー」
マナがため息をつく。
「第三衛星さんのところも、北端の竜王が7カ国同盟に討伐されたり、東部では溶岩のダンジョンが河の流れを変えられて滅ぼされたり、ここのところ厳しいですね」
ご近所同士、仲良くしましょうよ、と気安く声をかけるマナ。おいおい、うちのダンジョンコアはストレスに弱いんだぜ。俺もその話知らなかったんだけど。秘密主義の妖精を、じろっと見る。
「そ、そうです。この迷宮王国以外にはうちは大した勢力は持っていません・・・秘密にしていたわけじゃないんです。聞かれなかったから言わなかっただけで」
ハナとマナを完全無視してこっちに言い訳してくるナビィ。後でいいんだよ。
「え、そうなんですか?他大陸とか、島にもうちょっと勢力があると思いましたが」
心底おどろいた風にマナが目を開く。これいいことを聞いた。口元がにやけて、
「じゃあ、孤立無縁ね!」
忍者ハナがビシッと指をさす。
「私たちと一緒だわ!」
交渉って、もう少し繊細なものだと思っていたよ。マナがもうやってられないとばかりに空を仰ぐ。妖精と忍者は、少し仲良くなったようだった。
○
ナビィが私に秘密でドワーフたちに命じていたことが、地下大空洞への接続だ。この大空洞、人間にさっちされそうになると手早く落盤を起こして道を封鎖するので、大規模な工事をすれば再度開通できる場所は多い。今回は、ちょうど南のドワーフ鉱山にかつて放棄されたトンネルがあった。地下都市ロックダウンは、「人類衰退ネットワーク」の拠点の一つで、それ自体が大きいダンジョンの一部だ。他のダンジョンや魔王とコンタクトを取るには、ダンジョンコアから支配衛星経由で連絡するか、地上で直にやりとりをするほかない。ただ、衛星は基本的に他の地上干渉や本国との通信でいっぱいいっぱいなため、よほどの内容でないと埋もれて見向きもされない。うちのナビィのところは他のダンジョンがダメになっているので結構通じるらしいが、上司が怖いため、あまり連絡したがらない。秘密にしていた理由もそれ。
私自身が行くわけには行かないので、名代にセイタカとゴブリン中隊、そして遠隔操作のミニナビィをつけていく。ミニナビィは3万ポイントほどつぎ込んで生成できるミニダンジョンコアでもあり、大使としての重みがある。
ゴブリン中隊の指揮官には私の身辺警護をしてくれているゴブ次郎をつけた。ゴブ一郎の腹心の部下であり、ゴブリンたちの中では5本の指に入るくらい精強だ。
洞窟探検の始まりである。