戦後の社会変化
大宰相ボリス、戦死!ダンジョン領内に顔が利くボリスの死は大いに悲しまれた。特にゴブリン層に人気が高く、領内は嘆きに満ちた。首都ノウベンヴァア(私が戦勝を記念してつけた)では国葬が行われた。私は召還者として、痛みを持って絆を断ちきった。彼を、ダンジョンのつながりから断ち切って、自由にしたのだ。式典の中で、ゴブリンも、エルフも、ドワーフも、人間も心を一つに彼の死を悼んだ。もしや、彼の死以外にこの集団を結びつけるものはないのではないだろうか。
「ボリスの遺体は、見つからなかったのですね?惜しい人を亡くしました。これだけ活躍してくれたのに・・・」
ナビィですら嘆いた。これから、あの辣腕なくしてどうやってこの土地を導いて行けばいいのか。
「ですが、いいこともあります。ついに、ダンジョンとしてのレベルがあがりました!」
妖精さんは血も涙もないからあ、すぐに自分のことばかり。
「初の侵入者撃退です!気がつきました?今まで、侵入者はいなかったんですよ!さらに、累計50名、100名、500名、1000名撃退の条件を一気に満たしました。こちら、レベル5ダンジョンとなります!」
ダンジョン5段みたいなものです。武道なら道場を開けますよ。とどうでもいいことを述べる。
「これで情報開示レベルが上がり、「人類衰退同盟」のネットワークに正式加盟できます。お友達ができますよ!やったね!」
「ああそう」
この妖精には、いい加減愛想がつきてきた。ダンジョンマスターとして生きていくほかないのだろうが、この妖精から自由になる方法も見つけなくてはならない。もしかしたら、思考も読まれているのだろうか?いや、自分もダンジョンを通して生物を召還できるが、その考えまでは読めない。ダンジョンが死んだら自分も終わる。その利害を持って掌握されており、思考の自由はある程度残されているのだと思う。そう、思いたい。いや、そうでなければ、うまく行かなかったのではないだろうか。
しかし、多くのことがあった。戦いから二ヶ月。国葬の準備のほかに、アリア王国との停戦交渉。元開拓地を国境線として、こちらを国家として認めさせること、戦闘の停止という要求をのませたハインリヒは、大きな手柄を立てたと思う。大きな被害を受けたゴブリンたちは、以前とは明確に何かが変わった。その変化をうれしく思う気持ちが、少し私を明るくさせた。このころ起きた政治変化を見ていこう。
○
鬼族労働党、樹立!党首、ゴブリオス率いる鬼族労働党は、戦前は読み書きを教え教わる奇特なゴブリンたちの集まりだったが、傷を追ったゴブリンたちが補償を求める動きを組織。ダンジョンマスターによる直々の治癒を実現したことで、ボトムアップ的要求をする事の大切さを実感。全ゴブリン人口の7割を占めるに至った。ちなみに、無党派層1割をのぞく残り2割は鬼族王党派を形成し、黒田ダンマスの直接統治を望む。
種族間協定が結ばれたのもこのころだ。ゴブリンたちの深い傷を憂慮し、エルフの栽培するビタミンなどが豊富な野菜・果実とゴブリン農園の穀物を安定的に交換する条約が結ばれた。それにドワーフが貨幣鋳造・生活必需品の生産を始め、首都を中心に市場を形成。あわてて人間が加わり、4種族共栄条約を形成する。
ゴブリン人口が多くなりすぎたため、ポイントを使ってエルフ、ドワーフを増員する。ポイントで人口干渉はできればここで終わりにしたい。ダンジョン防衛で10万ポイント以上が入ったが、それもほとんどすっから間になった。
栄養状態の改善により、ゴブリンの死亡率が低下。社会的な地位向上により、鬼人族を名乗るようになる。
4種族による立憲君主制が始まる。ダンジョンマスター黒田を国家元首とし、ゴブリオス首相率いる鬼族労働党が第一党となり、内閣を組織。国名を迷宮王国と定めた。
エルフの中からアミニズム的な精霊信仰が広がり、国境のような状態になる。エルフは国内各所に精霊殿を作り、神職として国中に広がり始める。東の森を本拠地としながら、国内に広がりを見せた。ドワーフも南の山を中心としながら、採掘した鉱石を加工した商品や、原料そのものを運び、交易を始めた。人間はそうしたチャンスに飛びつき、国内には活発な交流が生まれつつある。
首都ノウベンヴァア、東の森の集落、南の鉱山都市、河を隔てた西の町3つ、北に広がる鬼人農地と、開拓都市。迷宮王国は、急速に国家として体をなし、ゆっくりとではあるが、周辺諸国と交流も始まった。このまま、平和は続くかに思われた。
あの訪問者が来るまでは。
もうちょい!