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ダンジョン経営で都市づくり  作者: pawn7
腹案はあると言ってから考える
12/16

栄養バランスと嵐の前


「つまり、今まで負け続けていたのは、栄養バランスが悪いためですって!」

 妖精ナビィの、素っ頓狂な声が今日も響きわたる。

「きちんと食事をとると、呼ばれた当時よりもずいぶん気持ちがいいですね」

 長身のセイタカが気持ちよく伸びをする。ゴブリンたちには森林を開拓し、麦や粟などの炭水化物を中心として栽培している。少しずつ収穫に成功している今、食事もそういったものになりがちだ。一方で、弓や狩りに精通したセイタカたちは、支給される炭水化物に加えて来宮肉も食べている。

 さらに、このダンジョン最大の「ずる」は、私にイメージがあるものなら種子などをポイントで作れてしまうことにあると思う。データベースにあるトマトや人参などの野菜から、イチゴやブドウのような果物の栽培も試し始めている。最初はナビィに難色を示されたが、富国強兵のためなら必要だと諭した。

 魔力供給によって、3Dプリンタ的に作られた体は、体内循環がきちんとされておらず、時間がたてばたつほど体はぼろぼろになりがちだという論文が、暇なときにみたデータベースに掲載されていた。「ごく一般的な」魔王軍やダンジョンは、表面上のポイント管理に救急としており、配下の身体的な栄養バランスやメンタルケアに対してなんら労力を払っておらず、「前近代的」だと痛罵されていた。先日のセイタカ率いるエルフ弓兵団とスターム率いる自警団の模擬戦では、よく栄養をとったエルフたちの機敏さにより、圧勝。一方で、ゴブリンたちは自警団に惨敗し、お互いの面目を保ったかたちになった。ゴブリンたちも、栄養改善したほうがいいのかもしれないな。

「それにしても、人も増えて、ずいぶん忙しくなってきましたね」

 セイタカは息をはく。エルフたちの仕事も増えた。だがそれも、今後のためだ。

 木材供給だけでは交易に限界があり、自前での食料共有に成功しつつある今、近隣との力関係は、少しずつこちらの方に優位になってきた。初めてあった村人、全身甲冑のスタームも羽振りがよくなり、こちらによく寄るようになってきた。私が率いるものたちが亜人ばかりであるが、村人たちは人類である。肌は白かったり、黒かったり、浅黒かったり、ばらばらだ。今度、ゴブリン・ドワーフ・人類共同で河川管理を行い、円滑な物資交流を行うプロジェクトが行われる。本拠地周辺の穀物備蓄も調整しなければいけないし、忙しい。私は、こうやって経営するのは楽しいが、少し、手に負えなくなってきた。

「官僚制を始めましょう」

 どこからともなく、ボリスが現れた。

「西の村落から、人を雇いましょう。私が教育します。食糧管理や、交易路の警備、工事の監督、簡易の予算執行も手がけましょう」

 辣腕すぎでしょ、あなた。





 我々のダンジョンの一階を、首都市庁舎とした。公共事業はゴブリンたちに食料を配るよい機会である。ドワーフたちが煉瓦を焼き、ゴブリンに技術を少しずつ教えた。彼らの技術交流は盛んだが、ゴブリンたちは平地を好み、ドワーフたちは山がちの地形を好む。幸い、首都の南側には山脈があり、自由が与えられるとドワーフたちはそちらに居を構えた。最近はピーリが代表としてよくやってくる。

 北にはかつて森林が広がっていたが、かなり焼き畑によって開拓され、穀物主体に栽培がさかんである。そろそろ土地がやせてきているのが心配される。東にも森が広がっているが、エルフが人工林として管理している。ところどころ、開拓して果樹園にしたり、間伐して材木として使えるように整備し始めている。

 西は人間たちが住んでいるが、村落同士は離れており、道の整備もまだだ。河川も時々氾濫する。我々の開拓は、北と西向かってもっとも強く行われている。

 中央は周辺からの物資が集積されており、官僚機構がその整備を始めている。

 ゴブリン陸軍、エルフ弓兵団、村落の人間自警団の交流が進み、兼業で警備を行ったり、訓練を行うものも増えてきた。ダンジョン周辺に人が集まり、その交流ダンジョンに活力を与え、少しずつポイントが増えていく。この周辺の場、その中心となることで、人と物資の流れ、「地脈」と言われる魔力源が構成されていく。

 まだ名前はない都市が、次第に形成されていった。しかし、文明には、必ず試練が訪れるものだ。



 季節が三巡した。冬の寒さと夏の暑さが私の古里の星より激しい気がするが、この星は春夏秋冬がある。

「条件達成!条件達成です!」

 ダンジョン2階に作り上げられた豪奢な部屋で、ナビィが飛び回る。

「総人口が一万を突破!要人たちがそれなりの実績を積み、配下が土地になじみました。勢力圏を広義のダンジョンと認定!これだけの文明干渉は周囲の人類文明の発達を促してしまう可能性もありますが、見逃します!まずは負けないことが大切です!私の査定にも響きます!それでは、内閣を発表します!

国家元首兼総司令:クロダリュウイチ

アドバイザー:ナビィ

宰相:牛河ボリス

陸軍大臣:ゴブ一郎

自警団長:スターム

森林大臣:セイタカ

科学技術大臣:ピーリ

外務大臣:ハインリヒ・バーナード

国土交通大臣:山田三四郎

農業大臣:ゴブリオス


以上の10名をもって、第一次国家戦略会議を開催します!議題は第一次総力戦についてです!」

 全員、名前を呼ばれると礼儀正しく返事をした。


 ハインリヒさんは2年ほど前に滅んだブルテン王国の亡命貴族で、国際情勢をよく知っているのでボリスがヘッドハンティングしてきた。山田さんは元々村落でまとめ役をしていて、その現場の手腕を見込んでボリスが採用してきた。ゴブリオスは2人目のゴブリン官僚で、物静かだが指示が的確だと評判だ。


「我々は、大陸北部の大森林を開発して勃興しつつある勢力です!周辺は慢性的な戦争状態で、周辺諸国は我々のことを知らず、また気にかける余力もありませんでした!」

 ナビィは「ですが!」と叫ぶと、壁に周辺地図を写しだす。

「周辺諸国の圧迫に耐えかねて、もともと4都市を有していたブルテン王国が崩壊!後ろ盾となっていたペルーシ帝国も見切りをつけ、戦乱がある程度落ち着いてしまいました!」

 ナビィはまた、「ですが!」と叫ぶと、勢力図をカラフルに塗り替えて図示する。

「ハウスマイナー同盟とアリア王国、イリア共和国連合軍が占領地を巡って対立!首都ブルテリアを巡って激しい対立を繰り広げています。そのあおりで、アリア王国軍の占領地ブルファストに戦力が常駐しています」

 ナビィはそこで息をはき、少し落ち着いた後で、「そして!」と叫んだ。 

「我々の開拓した北部の土地は、ブルファストとかなり近づいてしまいました!村落ももともとはブルテン王国の影響下にありました。アリア王国は我々の開拓地に対して、服属の要求をしております!これに対して、いかがするかが我々の喫緊の課題です!」

「私に策があります」

 ボリスが手を挙げた。ナビィは眉をあげた。ダンジョンコアであるナビィは、最近ボリスを警戒している。自分で召還したくせに。多くの一般国民はダンジョンの支配をはずれたが、はじめに召還したものたちはつながりを解かれていない。だが、ボリスの思考は複雑すぎるのか、ナビィにはよく理解できず、雑音のように聞こえるらしい。それに、ボリスの息のかかった閣僚も3人おり、それを隠そうしないボリスに、ナビィは苛立ってすらいた。

「なんですか」

「なに、地の利を生かして挑発し、罠にはめるだけですよ。乗ってこなければ戦わずして追い払い、勝ちです。乗ってくれば有利な地で叩きのめせばよい。私が軍師、ゴブ一郎どの、セイタカどの、スタームどのにマスターの助けを借れば、容易なこと」

 我々の宰相は、いつものほほえみをやや醜悪にし、

「ダンジョンに引きずり込んでくれましょう」


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