行くぞダンジョン拠点論!
4年ぶりに復活しました。GW万歳。
「決めた!」
長い逡巡の末、私は大きな声を出した。
「木を切ろう!必要になった時、木はまた植えればいい。計画的な森林伐採は必要だよ」
おお、と牛川が笑みをこぼす。
「では、ゴブリン奴隷制も?」
「いや、奴隷制は効率が悪い」
私は少し、もったいぶって言う。
「ゴブリン資本主義を持ち込むぞ!」
妖精さんが、複雑な表情を浮かべる。
○
私は高台から、森林がじゃんじゃん燃えていく様子を眺めていた。隣のセイタカはちょっと寂しそうな表情をしていた。大量のポイントを消費して、ダンジョンの上に塔を立てた。周辺にゴブリン農民たちをポイントで召還し、田畑を耕せている。ポイントで苗や種子を買うことができ、急速に開拓は進んでいる。
ゴブリンたちは、簡単に言うと、小さな人間である。成長が早く、動きがきょろきょろしており、絶えず動いていないといけないが、言語習得に問題はない。全体的に言って栄養の偏りがあり、身長が低い傾向にある。また、権威に弱く、上位者の命令にはよくしたがう。一方で、自己肯定感のお低さが見受けられ、メンタルケアの必要性が感じられるが、その余裕はないから無視しよう。
スタームさんの村は、ここから西に行った川の、下流にあることがわかった。すでにドワーフ技術顧問団の指揮のもと、山道が整備され、広げられていく。はじめの50本に対して、大量の食料を手に入れることができた。その間に行き違いとか、口約束に動いてしまったことで誤解とか、すったもんだがいろいろ会ったのだが、炭水化物を中心とした備蓄が倉庫5個分くらいできた。
その食糧備蓄のおかげで、100名のゴブリンを召還する余裕ができた。その余裕で、森林を焼き、労働力を確保する。
「国力増強ですな!」
うれしそうに、牛川が笑う。
「まだまだです!ダンジョンを深めずに、外部にこれだけでてしまっているのですから、守りは弱いですよ!拡大は維持費の増大を意味し、収入増加のためにはさらなる投資が必要です。借金を返すために借金し、永劫の返済地獄に足を踏み入れてしまったのです。ああ、これだから資本主義社会は未開なのです。早く高次の専門化計画経済へと移行しましょう。そのための自然な進化の行程だからこそ、私としても我慢しますが、はやくプライマリーバランスを回復しましょう。重税です。重税を課しましょう」
今日も妖精さんは頭がおかしい。まくし立てるナビィを無視して、森林が焼かれ、これもまたポイントで購入した作物の種を植えていく。
「しかし、維持費がかかるから困ったものですね」
ナビィが話題を変える。
「維持費?」
「はい。エルフにドワーフ、ゴブリンと、ずいぶん召還してしまいましたから、ダンジョンにも労力がかかります。その分は、時間経過とともにポンとの消費となってしまいます」
そんなの聞いてないよ!
「でしたら、解放しては?」
ボリスが胡散臭い笑みを浮かべて言う。
「はい?」
「ダンジョンからの支配をとくのです」
「それじゃあ、どこかにいってしまうじゃないか」
「いえ、安定した食料が与えられるこの地を、間単に離れようというものはいないでしょう。加えて、彼らを支配するものを、支配しておけばよいのです」
自信満々のボリス。
「ゴブリンリーダーを置くのですね!100ポイントで召還ができます!」
妖精さんが話しにつっこんでくる。
「1万ポイントくらいつぎ込んで、強力なゴブリンにしようぜ!」
○
ナビィに要請し、ポイントを使うが、そうだ、陸軍大臣にしよう。セイタカが狩猟をやってくれるが、彼女は遊撃隊であり、森の管理がある。陸軍大臣といったら、勲章たくさんつけた貴族的なイメージがある。
「ゴブリン貴族の陸軍大臣だな!」
合点がいった。
○
こうして、我々は森林を焼き、田畑を広げ、道をしき、家を建て、文明を築いていった。エルフを拡充して狩猟人員を増し、セイタカには養蜂や果樹栽培など、ゴブリンたちに任せたカロリーベースの穀物栽培とは、別方向の農業を行わせている。ボリスには人間の官僚団をあてがい、収穫物や取引を書類管理し、物流を把握し、増えつつある人員のコントロールを頼んでいる。
「しかしこれ、もう、ダンジョンではないのでは?」
そんな素朴な疑問が首をもたげる。もともと、洞穴だったダンジョンは、ドワーフ建築技師団の監督の元、余剰のゴブリン労働力で拡張し、上に塔を建てて見晴らしをよくしてある。てっぺんで広がった大地を見晴らしながら、思う。
「それは、考え方の違いだな」
スーツを着こなした眼光鋭い、背が低い青年が物憂げに大地を眺める。2年の歳月がたち、穀物生産が軌道に乗ったおかげで、さらに人員を増やすことが可能になった。この流れは、もう、とめられそうにない。などと考えながらとなりの青年の言葉を、はあ、などと言って聞き流していると、勝手に続けた。
「ダンジョン要塞論は、ダンジョンそのものを強く強化していくことで、難攻不落とする考え方だ。しかし、それは通常の要塞と同じく、無視をして通り過ぎるという方法や、地形そのものを崩壊させることで対処可能だ」
どこからともなく妖精さんが躍り出た。
「そう!私が担当したダンジョンも、川の流れを変えられて水攻めにあい、世界列強クラスの火山ダンジョンだったのにも関わらず、壊滅しました!世界樹ダンジョンは周辺の森林ともども火攻めにあったあとに波状鎚を打ち込まれて伐採されるし、この世界の人間は頭がおかしいのです!」
大丈夫、妖精さんもちゃんと同じくらい頭がおかしいから、ちょうどいいくらいだよ、などと思っていた。
「対して、近年の考え方はダンジョン拠点論だな。ダンジョンを強力な本拠地、あるいは都市や城塞と言った戦略上の拠点と考える。そういった考えのもと、生存権を広げ、人類と覇権を争うものたち。彼らを」
そういって、青年は言葉をためる。
「魔王というのだ。おめでとう主君。あなたは立派な駆け出し魔王だ」
インテリ軍務大臣ゴブ一郎は、安直な名前を名前をつけた腹いせか、皮肉屋になってしまった。お父さんの育て方が悪かったのかなあ・・・。
しばらく予約投稿が続きます。勢いで書いていきます。