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ダンジョン経営で都市づくり  作者: pawn7
試行錯誤は基本です
1/16

人は皆、途中参加でやってくる

 やれやれ。私は肩を落として息をついた。目の前には、あたりを埋め尽くす人、人、人。そのすべてが剣や弓や槍で武装している。銃とかなくてよかったね。山から風が吹き降り、向こう側の矢がそれていく。私は、カタパルトに乗せた液体に火を入れ、相対する陣の中に火を投げ入れさせた。


 ようこそいらっしゃいました!


 私は目を覚ます。意識ははっきりしている。私はただ、呆然としている。目の前には白く輝く不思議な球体があり、そこから声がしている。


「あなたはこの迷宮の管理者ダンジョンマスターとして選ばれました!この世界に跋扈する知的生命体の数々の発展を阻害し、この星の文明を遅滞させ、動植物の多様性と環境を適切に保つことこそあなたの任務です。未来文明や地球意思の承認がなされ、発展途上にある諸生物の知識不足による蛮行を食い止めるのがあなたの任務です」


 私はいぶかしげな顔をして問いかける。

「つまりは、どういうこと?」

「周囲の自然をあなたの領地にして侵入者を撃退・捕縛・排除やっつけるのがあなたの仕事です!そのためのフリーハンドが多分に与えられています。ささ、こちらをどうぞ」


〇迷宮作成 ・洞窟型・森林型・迷宮型…etc


これ、今選ばなければいけないのか?なんか、昔の記憶とかよくわからないけど、魔法使いに憧れたなあ。星の環境を守る正義の魔法使いかあ。手段は問わない。よし、決めた!魔法使いのロールプレイをしよう。丘の上に高い塔を建てよう。入口は洞窟にして、実験施設なんかを上に建てる。本拠はまた、深く深く成長させていこう。大迷宮を創り、生態系を循環させ、周辺地域を保護してみるか。


 いきなり理不尽な環境に放り込まれた反発や、戸惑いはわかなかった。あるいは私は、何がしかによって操られた存在となっているのかもしれない。だから、まず最初のもくひょうは、自分の身の安全を守ることと、なぜ今この場所にいるのかを知ることだな。

      


 今は、うっそうと茂った森の中、少し開けた場所にいる。草がぼうぼう。ここに呆然と突っ立っても、何も始まらない。文明人としてはもうちょっと、落ち着ける屋内にいたいな。記憶はないけど、そういう意識は多少残っているみたいだ。


「ダンジョンって言っても、何もないところでどうすればいいんだろうなあ」

ぼそっと独り言。

「各管理者には、迷宮魔力ダンジョンポイントと言われる力が授けられています。これは星外文明が私、迷宮核ダンジョンコアに封じました。この力を使って、まず部屋を創りましょう!現在1000ポイントございます」

 と球体はどこからか声を発すると、光り始めた。青白赤ととめどなく変わる。こういうことに使うエネルギーが無駄なのに、もったいないな、などと思う。見せ掛けだけの行動はいらない。

「ダンジョンの最低単位である一部屋・・・、あなたの母国での一般的な部屋の単位である六畳一間を作るのに100ポイントほどかかりますね」

 それだと、なくなってしまいやしないか?一部屋だけじゃ部屋とすらいえないし。

「掘ろう」

 それがいい。

「は?」

「掘ってしまった方が安上がりだ。迷宮の主というくらいなんだから、配下を呼び出せないのか?」

「できますが、お高いですよ。迷宮を掘れるとなると・・・ずんぐりむっくりの鍛冶妖精などはいかがでしょうか」

 なんだか失礼な形容だな。

「私の世界でドワーフと呼ばれていたものだな。使役できるのか。何ポイントかかる?」

「1人200ポイントですね」

「部屋の値段の二倍で生物が支配できてしまうなんて、このポイントはどうなっているんだ?」

「この世界では生命の価値はいまだ低いのです。すぐ失われてしまいますからね」

 知的生命体はきちんと遇したいものだけど。立場に飲み込まれちゃだめだね。


 ドワーフ結構いいんじゃないか?器用だし、技術持っているイメージあるし。

「ドワーフは武器を作ったり、加工したりできる?」

「技術を追加購入すれば可能です。持てる技能は、最初は2つまでです」

 いよいよゲームじみてみたな。まあ、俺をこの世界に送り込んだやつらからすれば、ゲームみたいなものだろう。

「召喚した者たちは指示を聞くのか?」

「支配者には絶対服従です。人格はその種族の知性によります」

 それはありがたい。

「道具も買うことができるのか?」

「可能です」

と言って、カタログが出てきた。基本的な道具はなんでもあるな。ツルハシ、ロープ、ベットから何から何までござれ。ツルハシは一本20ポイント。高いのか安いのかわからないな。

「よし、ドワーフ3体とツルハシ3本を召喚だ」

200×3+20×3で660ポイント。もう3分の2使ってしまった。

 おしゃべりな球体コアの前が光り輝いて、エネルギーが放出される。そこから出てきたのは、まっぱだかの小柄でフケ顔のオヤジ三人だった。

 下着と服も買いました。



 召喚すると俺と同じようにまっさらな状態になるらしい。ドワーフにはそれぞれ名前を付けた。ドワーフは大体穴掘りが得意だろうというのは俺の偏見かもしれないけれど、ま、そんなものでしょう。みんな採掘が得意。髭もじゃで目が細いドムは鍛冶が得意だ。少し背が高くて鼻が長いピーリは木材加工に優れているらしい。ガタイのいいバンゴゥは大工の技術を持っている。

「じゃ、よろしくな、ドム、ピーリ、バンゴゥ。さっそく穴を掘ってくれ」

「あいよ親方」

 とドム。

「これからよろしく頼みまっせ」

 ウィンクするピーリ。

「仕事の後には上手い飯があるといいな」

 バンゴゥはにやっと笑う。

 3人威勢よく掛け声を上げながら掘り始めた。そうか、飯か。食事はどうしよう。



 ある時、幾多の惑星を生命溢れる環境にしようと考えたものがいた。宇宙の星々のほとんどは荒れ果て、生物が住める状態ではなかったが、空気があっても温度が高すぎる惑星に高熱でも生存できる植物の種子を惑星に叩き込んで発芽するよう仕組んだり、ツンドラで覆われた惑星に世界中で排出され続けた温室効果ガスを徹底的に圧縮し送り付けるなど、雑で無理やりな惑星改変が行われた時代があった。その、ついでとばかりに、冷凍睡眠させた人類や、長い時代を経て多様化しやすいよう設計された、あまたの動植物の種や生物が、ばら撒かれた。


 それから幾星霜。何千万年、何億年、と時は経った。人類は宇宙に広がり、巨大な勢力へと成長している。そこで、ふと気づいた。それまで荒野だった星に、文明の明かりがあることに。

 だが、星々の距離は遠い。遠き文明へ伸ばす手は、友好の握手か、支配のための掌握か。



「…と、マスターは’地球人類’という人たちの中から希望者によって選ばれた、人格転写体なのです。テクノロジーが進化しすぎて超分業社会が出現する前の、割とバランスとれてる普通の人の記録を引っ張り出してきたのです」


コアの球体から、ぐっと手を握る動作が見えるような気がする。


はあ、とため息をつく。とすると、故郷には戻れそうにない。この荒唐無稽な話が嘘でないとすると、埼玉の圧倒的に普通な人生は唐突に終わりを告げたようだ。連休が終わって仕事したくないとは思ったけど、目が覚めたら全然違う星にいるとは。


「とりあえず我々としては、現地の人々にあまり発展してほしくありません!採集民程度をうろうろとしてもらって、程々に豊かで環境を破壊しない生活を続けてほしいのです。あわよくば長期間の停滞化を試み、その後は思想洗脳によって植民化を進めたいところではありますが、こちらもおいそれと人件費をかけられる立場ではありません。知ってますか?高いんですよ人件費。人件費と資源がコストの基本ですからね。そういうことで目標としては人口爆発の抑止と資源の占有。ダンジョンを拠点として危険な大魔術を行い、日照りや洪水、地震を起こして農耕民族の土台を奪って文明崩壊を引き起こすのです!厳しかったら資源を確保するくらいにしておきましょう」


 このコアは邪悪なコアだ。というか、自分の目的にそぐわないものは、なんでもかんでも利用して、使い潰してしまう性質のものだ。憐みとか、同情とか、人を傷つけるのは心が痛むとか、そういう感情がどうも見えない。やっぱ、機械だとこうなのかな?あと話が長い。


「ところでコアよ」

 問いかけてみた。

「はい?」

 コアがやや傾いた。首をかしげているつもりか?

「やけに人間らしく話すね」

 コアは実は、と言って話し始める。

「実体化させていただけたらありがたいのですが、それには100ポイントほど必要なのです。あらゆる点を考えて節約するマスターを見て、ちょっと言い出せずにいたのですが、もし、よろしかったら、私を実体化させていただけませんでしょうか?」


 うーん。少しは静かになるかな?ならないかな?


「いいよ。100ポイント使用実体化」


「イヤッタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 コアが光り輝いて、50cm位の人影になる。白いワンピースを着た妖精さんだ。髪がたはショートだね。虫っぽい羽が生えている。


 「コアを実体化させました!ボーナスとして10000ポイント入りましたあッ!」

 満面の笑みで妖精さんが叫ぶ。うるさい。

 「高っ」

 つい声に出してしまった。わざわざドワーフに掘らせた苦労はどうなったんだろう。なんだかこのコアが喋ってるの聞いてたら、疲れてきたし。そしてまた、この妖精さんがきらきらと青色の目を光らせて、目の前に来た。近いよ近いよ。


「ね、ね、名前つけてください、名前。その方が呼びやすいでしょう?」


 うーん、さっきから要求にこたえてばかりであまりよろしくないぞ。こちらの主導権がないというか、流されてばかりと言うか。同じことだけど。でもね、僕はだいたいこういう流れには逆らわずに世を渡ってきたんだ。


「じゃあ、ナビをしてくれるからナビィね」


 妖精さんはぽうっとした表情をすると、破顔一笑して嬉しそうに声を上げた。


「特徴を表してて呼びやすくてかわいくていいですね!気に入りました!ボーナスで20000ポイント!」


 現在、30240ポイント。ポイント入り方がおかしい。




「実はですね、ダンジョンマスターをお願いしても、非情になりきれずに躊躇したり、現地社会に同化したり、あろうことが文明発展を促進しようと利敵行為に走るダンジョンマスターが後を絶たなかったわけです」


 寂しかったんだろうね。新しい土地に行って、せめて新しい友達が欲しいじゃん。


「よって私が初期ポイントを預かっており、マスターの人格を確認してからお渡ししているのです。ですから実は」


 と言って息を吸い胸を張る。


「さっきのはただの初期ポイントです!」


 そうですか。


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