6.八体目の竜王
一話書き上げたので、もう一話も載せます!
目の前にいる少女はなんと言った? 自己紹介したのは理解しているが、その内容に理解出来ない単語があった。
『竜王』
この名は、竜達の頂上であり、人類の最大敵でもある。その竜王が死んでおり、少女として暁の前へ現れている。
もちろん、竜王は進入不可能の塔に篭っており、死んだという情報は全くない。
”ふふっ、混乱しておるな? 我はあの七体とは違う竜王だ。人類にしたら、我は八体目の竜王となるだろうな”
「は、八体目だとーーーーっあ!!」
怪我をしているのを忘れて、大きな声を出してしまったため、左腕が痛みを訴える。体力ももう少なくなっているので、立つこともならずに倒れてしまう。
「っ、ハァハァ……」
”これこれ、今の時点でくたばってくれるなよ? ……といっても、限界が近いな。さっさとやるぞ”
「や、やるって……何をだ……」
嘘か本当かわからない話に、警戒度が上がる。もし本物の竜王だとしたら、死にそうな人間を助けるとは思えなかった。
”力が欲しくないか?”
「な、何……」
”力を欲しくないかと聞いているんだ。我が竜王だと知ったとしても、力を得て生き永えるのを望むか? この提案は、お前が力を得る代わりに苦難な道を進ませることでもある。悪魔からの誘いでもあることを理解した上で答えよ!!”
暁はステラの提案を鈍い頭で何回何回も反復する。暁の家族は竜王が率いていた竜によって殺された。守のお陰で復讐の炎は弱まったといえ、まだ憎いと思う心は残っている。
しかし、竜王は七体しかいないと世間で知られているが八体目がいるなんて聞いたことがない。つまり、目の前にいるステラが本物の八体目の竜王だとしたら、『竜の襲来』に関わってない可能性がある。
暁は『竜の襲来』に参加してない竜まで憎しみを持つつもりはないがーーーー
「…………受けよう。だが、人間の敵になるつもりはない! もし、お前が俺を人間の敵に仕上げようとするなら、その前に自分で自分を殺す!! 俺が力を欲するのは、戦闘狂のように竜と戦うためだけじゃない。俺には復讐以外で戦う理由があり、其れが出来るなら…………お前が言う苦難の道を進むのも喜んで受けてやる!!」
暁が力を得たい理由は、復讐だけではない。復讐の道を断たれたことに落ち込んでいた自分を守ると言ってくれた守の助けになること、それが暁の生き残りたい理由でもある。
また大声で痛みに意識が霞み、朦朧するが、言いたいことは言った。暁が宣言したことに鬼の仮面で目元を隠されているが、驚いているように感じられた。だが、すぐに腹を抱えて笑い声を上げていた。暁はその反応を予測していなかったようで、阿保面になっていた。
”ふ、ふはははっーーーー!! 面白い、面白いな!!”
「は、はぁ? 笑う所あったか? まさか、馬鹿にしてるのか……」
”ふ、ふふっ……、すまないな。決して、馬鹿にしているわけでもないわ。まさか、戦うだけではなく、他の理由で力を望むとは考えてなかった。そこが、人間と竜の違いかもしれんな”
「戦う……、竜はそんな考えしかないのか?」
”ふむ、考えしかないというより、殆どの竜は戦闘本能に従って戦っているが正しいな。話はここまでだ、お前の顔が結構悪くなっているから先に盟約を終わらせるぞ”
元から危険な状況だったのに、無理をしたせいで更に悪くなっていた。身体も死体みたいに少し冷たくなっていくのが自分でも理解出来た。
”我の身体と魂をお前の心臓へ移す。そして、我が武器の名を呼べ!!”
「武器の……名を……」
ステラはすぐに準備を始めた。まず、自分が竜の身体へ戻ると、その身体が分解されて光の粒へなっていく。その光の粒が、暁の心臓がある場所へ吸い込まれていったーーーー
その現象に、身体が激しい痛みによって声にならない悲鳴が上がる。
(が、がアァァァアぁぁぁぁぁぁぁ!?)
この痛みは我慢できる限界を超えて、身体から様々な場所から水分が出て行く。この状態はステラの力が普通の人間に耐えきれていないからだ。さらに、身体が耐え切れるように中から創り変えられていく。
だが、その痛みはまだまだ続くので、今の暁では創り変えられる前に死んでしまうだろう。だから、ステラが言っていた武器の名を呼ぶことだ。
”しっかりしろ! 頭の中に浮かぶ我の魂である武器を呼べ!!”
呼べと言われても、声を全く出せない。だから、心の中で唱える。頭の中へ流れ込んだ暁の武器になるその名をーーーー
(そ、『創刀七星』、来やがれーーーー!!)
名を呼んだことで、暁とステラの魂はカチッ! と歯車が嵌ったように、身体に安定が戻ってきた。
「っ、はっ! ハァハァ……」
痛みが無くなり、まだ命を繋いでいることを実感させる。疲れすぎて、身体を動かすにはまだ時間が必要だった。だが、顔だけは動かせるようで、怪我をしていた左腕を見ると……
「治った……?」
”上手く適合したようだな。これで、お前は我と一体同心だ”
少女の姿がなくとも、頭の中へ声が流れ込んでいるのがわかる。
「適合しただけで何故、怪我を治せるのか謎だが……それよりもこの盟約は『フォース』を創り出す時に似ているな……」
”どうやってか知らんが、人間がこの盟約を真似ることが出来るみたいだな”
元は竜が使えていた盟約を人間が真似たから似ているということらしい。大雑把な説明だったが、竜の魂を武器に変える所が似ていたので、納得は出来た。ただ、今の盟約とフォースを創り出す時の違いは、竜の魂だけではなく、身体も人間の核とも言える心臓へ移していたことだ。この違いがわからなくて、ステラへ聞いてみたらあっさりと教えてくれた。
”身体をお前の心臓へ移したのは、治癒能力を上げるためだ。竜王の治癒能力は他の竜と違って回復が早いからもう人間とは呼べんかもな!”
「はぁっ!?」
いきなり人間をやめさせられたことに文句を言いたくなったが、人間から外れた治癒能力がなければ、左腕を治せずに力を得ても死んだ可能性があると言われては、黙るしかできない。
”そろそろ身体が動くはずだ。まず、そこに浮いている新たな武器へ名を与えよ”
「む?」
言われて気付いたが、既に身体から疲れが抜けていた。さらに、光の球体が浮いており、ステラから新たな武器へ名を付けろと言われたことから、暁の武器ということになるが…………
「おかしくないか? お前の武器には『創刀七星』と言う名があったんじゃないのか?」
”確かに、我の魂である武器は『創刀七星』と言う。だが、人間と竜王の同調をするために、無理をし過ぎたせいで弱体化してしまっている”
「な、俺のためにそんなことが……」
”構わん。死んでいる身では弱体化どころか使えない状態だったからな。それに、元に戻す方法はあるから安心しろ”
「そうか……」
フォースにしろ、竜の魂から生み出された武器は竜の魂そのものでもある。それが死にかけの暁を助ける為に、ステラは自分の魂を削っていたのと同義なのだ。元に戻す方法があるといえ、感謝しきれない程の恩である。
「…………ありがとうな」
”む、いきなりなんだ?”
「いや、助かったのはステラのお陰だから、御礼を言うんだ。ありがとう……」
”ふむ、初めて感謝されたな。御礼を言われるのは良いものだな……”
姿が見えなくとも、ステラが笑みを浮かべたように感じられて、自然に暁も笑みが零れるのだった。
”なに、なんでお前まで笑うんだ”
「良いじゃないか。あと、俺は石神暁だ。お前じゃなくて、暁と呼んでくれよ」
”暁だな。暁は面白い奴だが、変な奴でもあるんだな”
「なんだよ、その評価は」
いわれもない評価を付けられて、眉を下げる暁。文句を言おうとしたが、ステラに遮られる。
”いいから、名を付けてやれ。あと、どういう能力にしたいかも想像しろ”
「……は? チートじゃねぇか!?」
ステラが言っていることを簡単に要約すれば、暁が考えた能力を付けられるということだ。これではチートと呼んでもおかしくはないと思っていたがーーーー
”チート? その言葉の意味はわからんが、暁の器を超える能力は使えないから気を付けろ”
「……どういう意味?」
”例えば、『絶対』を核にした能力は使えないな。他に、星を壊せる斬撃を使いたいとかも無理だな。今の暁なら、一日一発だけに限定すれば、山を吹き飛ばすぐらいなら出来るかもな”
「制限があるんだな……、そうだよな、弱体化したと言ってたしな」
一日に一発だけになるが、山を吹き飛ばせる威力がある能力を使えるだけでも、下級種の竜から作られたフォースよりは上だろう。だが、暁はそれを選ばない。しばらく黙って、どんな能力にするか考え込むとステラから話があった。
”先に言っておこう。弱体化した『創刀七星』の力を元に戻す方法を”
「それが出来るなら、元に戻してやりたいな」
助けられた恩を返すなら、まず『創刀七星』の力を戻してあげるのが筋だろう。その内容を聞いた暁の顔が強張った。
「成る程、苦難の道になる意味がわかったよ」
いつの間に、ステラが暁の前にいた。短い間なら、暁だけに見えるようにすることが出来るのだ。
ステラはこの説明だけは、面と面を合わせて説明したいということで、暁の前に現れたのだ。
”ふふっ、言ったろ? 悪魔からの誘いでもあると”
「確かに、言っていたな。だが、俺が言った人間の敵にならないことは約束してくれるみたいだから構わないさ」
”ほぅ、元に戻す方法を聞いても恐れないとは。やはり、暁を選んで良かったわ”
暁とステラは気が合ったように笑いあっている。球体になって光っている武器を掴む。
「よし、決めた。この武器の名前と能力を。まず、この武器の名はーーーー」