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5.受難の先には

崖に落ちてしまった暁はどうなったのか……?

 



「っ!? 何が……?」


 ここは研究所で、訓練所とは別の見学場所である。守も研究所の人から説明を聞いていたが、嫌な予感が強まったことに疑念が湧いた…………と、そこに軍服を着た女性が現れた。

 その女性も部隊を預かる一人だが、今日は研究所に用があってここにいたのだ。部下から連絡があり、その内容を研究所の人に通達しに来たのだ。


「訓練所から連絡があり、見学者がまだ来てないらしい!!」

「なにぃ、まだ着いてないということは、何かが起こったのか!?」


 訓練所で見学してくる学生を待っていたが、まだ来ないことで研究所へ連絡が行ったのだ。その事態に守は黙っていられなかった。


「な、何があったのですか!?」

「連絡では、訓練所に来るはずの学生達がまだ来てないんだ。確か、黒牙隊の隊長と副隊長が護衛についているから、敵が現れたとしても心配はないが……」

「念のために、私が向こうへ行って確認してくる」

「向こうへ行くなら、私を連れて行って下さい!!」


 いきなりの要請に、軍服を着た女性は驚く。驚く女性に話させる間を与えずに、守は頼み込む。


「嫌な予感がするんです! 私は『フォース』を持っていますので、連れていっても無駄ではないはずです!!」


 周りにいるクラスメイトが止めようとするが、守は折れない。その言葉に女性は溜息を吐いて、頭をガリガリと掻いている。


「あー、わかったよ。説得する時間も勿体無いし、アンタもフォース使いなら問題ないな。すぐに付いて来い」

「あ、ありがとうございます!」

「何かわかったら、連絡するからな」


 そう言って、女性は研究所を出て行った。守は勝手な行動をすることに、先生やクラスメイトに謝ってから女性へ付いて行く。残された皆は困惑していたが、守がフォース使いなのは知っていたし、竜もどきや竜が現れたら、自分で現場判断して出動する権利があるのもわかるから、強く止めることは出来なかった。そんな人を蚊帳の外に、女性はバイクに乗り込んでヘルメットを守に投げ渡す。


「私は梶谷かじやだ。それを着けて、後ろに乗れ」

「あ、はい! 私は橘守と申します。宜しくお願いします!」


 軽く自己紹介をして、バイクを走らせる。研究所から樹海の外へ行く門まではバイクで10分ぐらいはかかる。後ろに乗った守は皆がご無事であるように祈るのだった…………




 ーーーーーーーーーーーーーーーー




「そんな……」

「いや、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 石神君がぁぁぁぁぁ!!」


 崖の下は暗くて底が見えない。そんな所へ落ちてしまったら助からないのは明確だ。クラスメイトから死者が出てしまった、さらに目の前で落ちていく所を見てしまったことに『死』を実感してしまう。


「くそ!! 助けられなかった!!」


 一番悔しがっていたのは、鞭を伸ばしていた狭間だ。もっと鞭を伸ばすことが出来ていれば、助けられたはずなのだから。狭間は部隊の中で、部下が竜と戦って死ぬ所を見たことがあるといえ、今回はただの学生を助けられず、死なさせてしまったことに自分の無力を悔やんでしまう。暗くなる空気の中、菊地が声を張り上げる。


「まだ終わっていない!! 狭間! 悔やむのは全てが終わってからにしろ!!」

「っ!!」

「お前らもだ!! ここから安全な場所へ帰るまでは気を持ちやがれ! 死ぬぞ!!」


 まだワイバーンも現存しており、まだここは安全な場所とは言えない。もしかしたら、新手の竜もどきが現れるかもしれないのだ。だから、ワイバーンをさっさと葬ってから街へ戻らなければならない。

 菊地は重力を乗せた斧でワイバーンへ叩きつけようとしたが避けられた。そして、翼に赤い光が伴っていることに気付いたのだ。


「はぁ!? 下級種が魔術を!?」


 魔術は今まで中級種以上にしか使えない認識だったため、下級種のワイバーンが魔術を使ったことに驚愕する。

 ワイバーンが使った魔術は、”飛翔”で普通よりも強靭な翼を得られて、飛ぶスピードが上がるのだ。片方の翼がボロボロだったとしても、魔術の力のおかげで安定した飛行が出来るようになっていた。

 再び、上空へ舞い上がったワイバーンを見て、菊地はギリッと歯を噛み締めていた。


「どういうことだよ……」


 強靭な翼を得たワイバーンは、一鳴きしてから飛び去った。このまま、空から攻めてくると考えていた菊地はこの展開は呆気に取られるのだった。


「た、隊長? 何が起こっているんでしょうか……?」

「俺に聞いてもわかんねぇよ。立ち去ったのはラッキーだったと思うべきか?」


 他の魔術を使えるとしたら、あのワイバーンの実力は中級種と同等だと考えるべきだ。逃げ去ったことから、”飛翔”の他は使えないかもしれない。だが、『竜の襲来』の日から下級種が魔術を使ってきたのは今回が初めてだ。今回のことを他の国へも通達しなければならないと思い、菊地は気が滅入る。


「面倒なことになりそうだな。いや、先に生徒達を街まで送らないとな」

「はい……」


 狭間は助けられなかったことを気にしていた。菊地もその様子に気付いたが、何も言わない。その問題は狭間が乗り越えなければならない試練でもあるので、菊地は慰めないで乗り越えて欲しいと信じるだけだ。








 ワイバーンが立ち去ってから十分ぐらいは経った。訓練所の見学は中止にして、向こう側は街がある門までは着いた。皆の表情は暗く、遠野はまだ泣き続けていた。同じ女子である高嶺が慰めていたが、遠野が負った傷は深い。遠野は暁のことに好意を持ち始めただけに、この衝撃は凄かったようだ。


「皆、すまなかった。俺が弱かったせいでクラスメイトの一人を助けられなかった。更に皆の心に傷を残してしまったことに……」

「い、いえ! 隊長だけの責任ではありませんよ!! 私が助けることが出来れば……」


 二人は皆に深く頭を下げていた。生徒達はこの状況が異常だったことを理解しているため、責める気分にはなれなかった。何も言葉に出来ず、皆は黙るしかなかった。

 そして、この状況のままで大きな扉が開き、扉の向こうから二人の影が現れたら。


「皆!! 無事だったのね!?」

「あ、守……」


 向こうから現れたのは、研究所からバイクで来た守と梶谷だった。守は皆がいたことに喜んだが、すぐに気付いた。一人足りないことに…………




「え、暁君は? 何処に…………」




 遠野の泣いている表情が見え、「まさか……」と困惑する顔から青ざめたような表情になり、武藤と高嶺に詰め寄っていた。


「暁君は!!」

「っ、すまない…………」

「…………」


 武藤は顔を逸らして謝り、高嶺は何も言えなかった。そこから、ここに暁がいないことを感じ取って、膝を地に付いていた。


「ま、守!?」

「う、嘘よ、嘘だと言ってよ!! 暁君がぁぁぁーーーー」






 ーーーーーーーーーーーーーーーー







 門前で叫び声が響き渡る中、ある場所では折れて血塗れになった左腕を抑える男が立っていた。その正体は、崖に落ちて死んだと思われた暁であった。

 周りを見るには、崖の上よりも樹海が密集して、歩くにも苦労する場所だと思えた。


(こ、ここは上よりも深く侵されているな……)


 侵されているというのは、魔障にである。魔障は自然にも影響を与えて、強く成長したり変な植物が生まれたりもする。後ろにある崖を除いて、木々ばかりで怪我をしている暁は樹海の中へ進むには躊躇しそうだった。

 だが、暁はすぐに進まなければ大量出血で死んでしまうだろう。崖は熊を下にして、さらに木々の枝によって衝撃を減らしてから受け身を取ったため、左腕一本を怪我しただけで済んだ。といえ、枝で深く切った傷から血が流れ込むのを止められず、今も少しずつ血が消費しいっているのだ。


(落ちて行く時、アイツの顔を思い出すとはな……)


 鞭を掴めなかったことで一度は諦めていた。だが、落ちて行く途中に守の顔を思い出して、暁が死んだら泣くんだろうなと考えると咄嗟に身体が動いていた。一緒に落ちてきた熊の死体を引っ張って、生きるために足掻いたのだ。


「簡単に死んでやるにはいかねぇ……」


 怪我をしていて、痛みも酷いものなのに暁は笑っていた。空を見上げるが、木々が密集していて空も見えない。少し太陽の光で周りが見えているが、夜になったら危険だとわかる。動物は大体夜行性で、魔障に侵されてもそこは変わらない。

 だが、昼間は全く出ないということにならない。崖の上で猿や熊に出会ったのだから。


(すぐに熊から離れた方がいいな……)


 大量の血が竜のもどきを呼び寄せるかもしれないのだから、動かしたくない脚を無理矢理に動かして、先へ進む。上へ行く道があるとは思えないが、何もしないよりはマシだと気を強く持って、樹海の中へ進む。







(く、ハァハァ……、少し寒くなりやがった)


 歩いて十分も経っていないが、やはり出血が凄いため、背筋が寒くなって足も覚束おぼつかない。

 そこに、突き出た根っこに引っ掛かってしまい、倒れてしまう。


「ぐがぁぁぁぁぁ!!」


 怪我している左腕を打ち込んでしまい、痛みに気絶しそうだった。だが、気絶したら起きられなくなりそうだったので、絶対に気絶しないように気を強く持っていた。

 だが、身体は言うことを聞かなくて、なかなか起きられなかった。


「く、ぁ、ここまでなのか……。知らない、場所で…………」


 目蓋まぶたが重くなり、目の前が真っ暗に閉ざされようとしていた…………






 だが、目蓋が完全に閉じる前、人の脚が現れて、ついに幻覚を見るようになってしまったかと考えていた。だが、幻覚にしては鮮明すぎると気付いた。


(……ん? 人の脚だと?)


 ここはおそらく未踏地になっているだろうの場所。人がいるわけがないのに、何故か目の前には、人の脚が見えている。


 ”ここで死を受け入れるのを是とするか?”


 声とは違う、言葉が頭の中へ流れ込んでいるような気分だった。目の前にいる脚の持ち主がやっていることだろう。意識を繋ぎ止めて顔をあげようとする。


 ”生きたくはないか?”

「そんなの、決まっているじゃないか……」


 相手の顔が見える前に、暁は答えていた。




「生きたいに決まっているだろ!!」




 声に力が入り、ようやく頭に流れ込む声の全身像が見えるようになった。




 ”ふふっ、生きたいと願う強さ。確かに聞き届けた!! 我に着いてくるがよい!!”




 暁の眼に映ったのは、鬼の仮面を被った少女。鬼の仮面は顔の半分しか隠れておらず、口元は肌が見えている。綺麗な黒髪で鬼の仮面以外に目立った物が、髪に挿してある七色の紙を添えたかんざしだった。


 ”さっさと起きるがいい。向こうに光が見えているのだろう?”


 鬼の仮面を被った少女はそう言って、光がチラッと見える方向へ向かって歩いていった。今に気付いたことだが、少女の服装は探索には向かない和服。裾は膝辺りで長いよりはマシだが、草鞋を履いていた。それで魔障が濃い場所を歩くには頼りはないのに、少女はなんでもないように光がある場所まで行けていた。


(光の先が天国や地獄だろうが、行くしかないな)


 暁は覚悟を決め、重い身体に鞭を打って少女が向かった光がある場所へ向かう。重い足取りで、鈍いスピードだが確実に進んでいた。そして、光がある先へーーーー









「こ、これは……」


 光があった場所は、先程にいた暗くてジメジメしていた樹海と違って幻想的な場所であった。心地良さそうな芝生に爽やかな風が吹いている。こんな場所があったのかと、怪我を忘れて見惚れていた。そして、見回していたら、暁の顔が強張った。

 その空間の真ん中には、倒れ伏せている一体の竜がいることに気付いたからだ。


「竜が…………あれ?」


 よく見ると、その竜は全く動いておらず、身体に芽が付いて回っているのが見えた。寝ているように見えるが、胸に穴があることからもう死んでいるのが明確であった。何処に隠れていたのか、鬼の仮面を被った少女が暁の後ろから現れた。




 ”驚いたか? しかし、穴が空いているといえ、女の胸をジッと見るのは失礼ではないか?”

「は? アレは雌だったのかよ…………って、まるで自分のことを言っているように聞こえるな?」

 ”無論だ、アレは我の身体だ”


 耳を疑うような言葉が出て、こいつは何を言っているんだ? と眼を細めてしまう。


 ”む、信じてないな? 考えてみろ、我は人の身体をしているが、こんな所に一人でいることにおかしいと思わぬか?”

「…………」


 確かに、少女の言う通りである。こんなに密度が高い魔障がある場所にたまたま村があるとか、街から崖の下にあるこの場所まで来れるとは思えない。

 幽霊と言われた方がそっちを信じてしまいそうだ。それに、少女は死んでいる竜を我の身体だと言っていた。


(こいつはマジで竜の幽霊なのか?)


 他に判断材料がなく、情報が少ないから少女のことを聞くことにする。


「なら、あんたが竜だとしても、何者か教えて貰えるか? なんで、俺をここに連れてきた?」

 ”ふふっ、ここに連れてきたのはお前が生きたいと強く願ったからだ。お前のことを我が気に入ったのもある。それに…………いや、これは言わないで置こう”


 その言い方だと、他にも理由がありそうだったが、全てを話すことはなかった。次に少女が何者なのか、だったがーーーー




 ”我は、竜王スティアラ。ステラと呼ぶが良い”




 暁は理解のキャパシティを超えてしまい、固まってしまうのだった…………







ここまではどうでしょうか?

感想があれば、聞きたいと思っています。では、お待ちしております。

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