56.幻蓮祭④
はい、お待たせました!
『ーーーーさぁ、祭の日だ。年に一度の祭がっ、今日から1週間続きます!! 私は、解説者の江口と言います。解説を送り届けて行きたいので、宜しくねーー!!』
『江口さん、テンションが高いですね。流石、祭の魔力と言うべきかしら? あ、私は斬鮫隊の隊長を受け持っている花蓮と申します。解説者に選ばれましたが、上手く解説が出来るかわかりません。でも、頑張って行きたいと思いますので、宜しくお願い致しますわ』
コロシアムみたいなステージが全体を見回せる場所にて、2人の解説者がいる。その1人が斬鮫隊の隊長だったことに驚愕する人が多かった。花蓮隊長のことをよく知る人は、あまり目立つ様な事をするイメージを持っていなかった。いつも、裏で治療をいそいそとしていてばかりだったから、想像出来なかったのは仕方がないだろう。
『今回も元日本としては、東ノ国だけの参加で寂しく感じますね』
『仕方がないかと。大ノ国と沖ノ国はまだ竜からの防衛が安定してないと聞いています。沖ノ国はフォース使いがいませんし、別の方法で防衛をしているようですが、詳しくはわかってないみたいです』
『ふむふむ。あ、今は大会でそんな話をしている場合ではないですね! 他の国も来ていますのでっ!』
『ふふっ、そうね。これからは幻蓮祭の話にしましょう』
『今回の幻蓮祭では、なんと! 上級フォース使いが2人も参加しています!!』
その情報を知らなかった観客もいて、驚きの声を上げていた。上級フォース使いと言えば、最近に1人が生まれたのを含めれば、世界で4人しかいない存在なのだ。
『さぁ、時間になりましたので、国の代表達に出てきて貰いたいと思います。まず、前回の祭で優勝したロシアチーム、どうぞ!!』
江口が合図を出すと、5つある門の1つから登場する予定だったが、そこから氷が伸びて、コロシアムの中心に氷が大きくなっていきーーーー
ピキッ、バキィィィィィーー!!
突然に大きくなった氷が割れたかと思えば、中からロシアチームのメンバーが現れた。周りはダイヤモンドダストで綺麗に漂う。
一番前には、リーダーのミリアが冷たい瞳を宿しながら宣言する。
「ロシアチーム、ここにあり」
『うおぉぉぉぉぉーー! 綺麗な登場でしたね!! もしかして、他の国も登場の仕方を考えて……』
『その可能性はありそうですね。コロシアムの中心に立たない方がよろしいかと』
登場を決めたロシアチームは花蓮の言うことに従い、中心から退いてくれる。
『次は、何を見せてくれるのか!? アメリカチームの登場をどうぞッーーーーキャァっ!?』
雲の1つもないのに、突然に雷が落ちて騒音に耳を塞いでしまう江口に観客達。花蓮はニコニコしながら見ていたため、どうやって中心にアメリカチームのメンバーが登場したかわかっていた。
「ガハハハッ、俺達が優勝を貰うッ!!」
一番前には、上級フォース使いの1人、ダニエルが立っていた。剛毅な性格に上級フォース使いと言う貫禄が観客達を黙らせていた。
『うおぉぉぉぉぉ、流石の上級フォース使いと言うべき!? その貫禄は簡単に出ませんよね?』
『えぇ。長く生きてきて、その経験を活かしているのでしょう。東ノ国の上級フォース使いと違った空気を持っていますね』
『あぁ、確かに。こっちのは『静』でダニエル様は『動』って感じですね』
2つのチームは派手な登場によって、コロシアムの中心にある石畳が祭の前にボロボロになっていた。
『あと3つのチームが今みたいに派手な登場をしたら、完全に壊されそうだね……。まぁ、いいや! 壊れたら壊れたで、直せばいいだけだからねっ! 次はイギリスチーム、どうぞ!!』
次はどんな登場を見せてくれるのか、皆がワクワクしながら待っていたがーーーー
『……え、普通に出てきましたね?』
「すいませんね、考えてなかったのもありますが、完全に壊してしまったら、修理する方が大変かと思いまして」
アーノルドが前に出て、礼儀正しく挨拶をしていた。
『え、あ。わざわざ心配して頂いて……』
イギリスチームのメンバーは普通に門から歩いて出てきたので、皆は呆気に取られていた。
こんな登場で良かったのか? と思ったが、修理班のことを考えてのことだから、文句を言う人はいなかった。
『えっと、気を取り直して、次は中国チームの登場になります!! ーーーーーーうわっ! これは完全に壊れるわ!! イギリスチームの優しさを無視してるぅぅぅ! いいんだけどぉ!?』
中国チームの登場は、コロシアムの中心から土が盛り上がって、小さな山が出来たかと思えばーーーー
「ハーイ、中国チームの登場になるヨ」
山が爆散すると、想像した通りに中国チームのメンバーが揃っていた。それで終わらなかった。
「ついでに直してあげますねー」
リーダーであるリンが手を振ると、土と石が動き出して、石畳が元の綺麗な姿になっていた。
『うえっ!? あんな小さい子がリーダー……あっという間に直した!? 凄い子が現れたぞぉぉぉぉぉ!?』
『あらま、可愛い子だね』
「ありがとー。優勝するのは中国なのネ」
登場のついでに、リンが石畳を綺麗に直してくれた。門の奥から見ていた暁はその操作力に眼を張る物はあった。だが、挨拶程度でその力を見せても良かったのかと呆れもあった。
普通なら、誰がやったかわからないように力を使うのだ。だが、リンはその力を誇示するように見せつけた。
最後は東ノ国の登場になる。登場の仕方はさっきまで考えてなかったが、メンバーには面白い人物もいる。
「皆、聞いてくれ。登場仕方に案があるのだがーーーー」
『最後は東ノ国の登場になります! せめて、直してくれた石畳を壊さないような登場が良いですね!』
『こら、無茶なことを言っては駄目よ?』
『そうですね、急にこんなことを言われたら、困るよね。では、東ノ国の登場をどうーーーー霧!?』
中心からコロシアムの全体を霧で包み込まれ、大きな影が現れる。霧のせいで、何なのかわからなかったが、少しずつ晴れていく。観客席や解説席は霧が無くなっているが、中心はまだ完全に晴れていない。だが、少しずつ晴れていっている。
『なんだったのでしょうか……、まさか、霧に紛れて登場とか……地味なことをして来ませんよね?』
『江口さん』
『あ、無茶なことは言っては駄目でしたね。すいませんでしーーーキャァァァ!?』
『こ、これは竜!?』
霧が発生している場所が小さくなっていき、中心にいる影の正体が竜の影だったことに皆は慌て始める。他の国も警戒し始めた。何故、ここに竜がいるのかと思っていたがーーーー
観客達がまだ硬直していて、大事なことになる前に声が響く。
「驚かせましたか?」
『この声は……リーダーの石神様?』
「このパーフォマンスは俺達がやっていますので、心配はしなくても結構ですよ」
『えっ……あ、霧が晴れます! ーーーー水で出来た竜?』
「当たりです」
中心にいたのは、梨華が作った水竜であった。その水竜にメンバー全員が乗って現れたように見せかけたのだ。全員が竜から降りた同時に、指を鳴らした。
「俺達は優勝だけを目指す。他の順位はいらない」
指を鳴らした後、水竜は空へ飛ぶように見せかけて、梨華が操作して身体をバラしかける。そして、1本の大きな虹が出来る。
暁は自分のチームをアピールする意味も含まれており、竜と虹を作り出すようにお願いしたのだ。皆は其処まで気付いておらず、同じチームである守と杏里だけは気付いて、苦笑していた。
『もうー、驚かさないで下さいよー』
「ん、石畳を壊さないで派手に出て来て欲しいと言ったのは誰かな?」
『うっ』
「その要望を聞いて、考えたのに次は驚かさないでと言うのはどの口かな?」
『すいませんでした!!』
弄るのはもう辞めて、周りを見渡す。沢山の観客がいて、上級フォース使いである自分に注目する。今の暁は『虹竜隊』の服装を着ており、暁は隊長なので、守や杏里のと違う作りになっている。
守と杏里のはスカートに可愛らしいフリルも付いており、薄い青と白のバランスを考えられた衣装になっている。
だが、暁だけは黒いコートに少しだけだが、白の色で紋章みたいな模様が胸から背中までに綴られている。何故、黒なのかは虹色の7色を全て混ぜると黒になるからと意味があったからだ。
その紋章みたいな模様は、黒いコートが完成した後に、ステラの教え通りに縫った代物であり、1つの魔法陣なのだ。皆には秘密だが。
皆にはどういう風に見られているか、暁は興味がなかったが、暁の眼はダニエルに向けられていた。
「ガハハハッ、面白い趣向を見せてくれるな!」
「そっちこそ、派手で煩い登場だったな」
「これがアメリカ流だ。今後も別のを見せてやる」
「面白い。優勝は掻っ攫って貰う」
上級フォース使い同士の会話に不愉快な表情を浮かべる人がいた。前回に優勝したロシアチームのリーダー、ミリアだった。
「貴方達、前回で優勝した私達を無視ですか?」
「あ? 何だよ、話に割り込むな。話しているのが見えねぇのか?」
「それが不愉快なのですよ、ダニエル殿?」
「やれやれ、マナーがなってねぇな。黙れ」
ダニエルが威圧するように手を広げている。その威圧にミリアは後ろに下がるどころか、睨んで前へ1歩進めた。その様子にダニエルはほぅと感心したように笑みを浮かべていた。ただ、ロシアチームではミリア以外は後ろへ下がってしまったが。
「ふん、お前だけは違うようだな。この度胸に免じて、今回は許してやろう。だが、次は許さん」
「貴様ーー」
「はいはい、今は祭の途中だから、喧嘩は駄目ですよ」
止めに入ったのは、イギリスチームのリーダー、アーノルドだった。
「そうですヨー。祭なんだから、楽しまないとッ!」
「2人の言う通りだ。特に、ダニエル。観客までに威圧を放つなよ」
「むっ? すまないすまない、制御を間違えたわい! アハハハッ!」
威圧を解くと、観客達はホッとしていた。離れていたといえ、その威圧は確実に感じ取っていた。
アメリカチームはダニエルのことを呼び捨てにしていたことに呆気に取られ、怒りを込めた眼で見ていた。
だが、本人のダニエルが何も言わないので、メンバー達は何も言えない。
「さてと、去年はロシアチームが優勝していましたね。お手柔らかに宜しく」
「え、あぁ……」
上級フォース使いだと言うことにミリアは警戒していたが、微笑を浮かべて友好的に手を出されたので、驚いてしまった。上級フォース使いは全員が独特な性格をしており、クズな人もいるのだから警戒しても仕方がないだろう。
ミリアと握手をし、隣にいたダニエルとも一応握手をして置いた。
「私はイギリスチームのリーダーであるアーノルドと申します。もし、戦う相手になったら、正々堂々と戦いましょうね」
「えぇ」
アーノルドとも握手を終わらせ、最後に中国チームのリーダーであるリンの側に行く。
「暁と言います。宜しくね」
「わ、私はリン・チェンと言います……」
先程は自信を持って登場したが、今のリンは大男の後ろに隠れ、人見知りをしているような態度に見えた。何故か、頬が赤く見えたような気がしたが、暁は見間違いだろうと、気にしないことにした。
大男はニヤニヤと笑っていたが、それも気にしない。
「すまないな。ウチの娘が恥ずかしがって」
「おや、親子なんですか?」
「あぁ、俺はハオラン・チェンだ。ほら、握手ぐらいはしとけよ」
「あぁ、嫌なら無理をしなくてもーーーー」
「す、するヨ! よ、宜しくお願いします!」
「お、おぅ。戦いの相手になったら本気で戦って楽しもうな」
突然に両手で掴まれて驚いたが、中国での握手はそんなものなのかと難しく考えることはなかった。
手が離れて、リンの頭が丁度良かったので、ついポンポンと頭を撫でてしまった。
「ふぇっ!?」
更に頬を赤くしていたが、俯いていたから暁は気付かないまま。全チームのリーダーと挨拶が終わったので、東ノ国チームへ戻っていった。
そして、守と杏里が何か言いたそうな表情をしていた。
「どうした?」
「ぷくー」
「いえ、なんでもありません」
「そうか?」
暁は鈍いので考えてもわからなかった。その様子を見た梨華は呆れていた。
「ったく、ウチのリーダーは鈍感すぎだろ……」
小さな声だったので、周りには聞こえてなかった。今までね様子を確認したのか、江口が話し始める。
『友好を暖めたのは良いですね! 此処で、宣言します。これから幻蓮祭を始めたいと思います!!』
コロシアムに拍手が響き渡る中、幻蓮祭が始まったのだったーーーー




