55.幻蓮祭③
はい、続きです!
幻蓮祭が始まり、会場になっている巨大なスタジアムに大量の人が詰め込まれている。東ノ国にいる全ての人口がいるのかと勘違いしてしまう程にだ。
会場のVIP部屋では、天堂議会の者が2人と出雲総隊長が座っていた。だが、座っているだけで何も話す様子は無かった。まるで、誰かを待っているような…………
そんな空気が流れている時に、扉からノックが響いた。
「入れ」
「はーい」
扉から現れたのは、1人の少女だった。
「遅くなってごめんなさいー。あー君は防衛の編成で行けないと言っていました」
「そうか、出来ればあと2人も来てもらいたかったが、仕方があるまい」
現れた少女は、見た目通りの人物ではない。この少女も出雲総隊長と同格の地位を持つ、朝霧総隊長である。聖馬隊を有する、北の防衛拠点の総隊長もこの場に来ていた。
あー君のこと、西の防衛拠点で総隊長は防衛の編成がまだ終わっておらず、この場に来られないと。残った東の防衛拠点で活躍していた総隊長はこの前のキマイラ事件で重傷を負っていて、病院で療養中。臨時で総隊長になった波剛と言う者は臨時であり、この場には呼ばれていない。
「今は4人だけか。時間もないし、そのまま進めるぞ」
天堂議会側は出雲総隊長が会った老人ともう1人の若者がいる。老人は天堂議会を纏める者であり、蔵王議長。若者の方は天堂議会に選ばれたばかりの新人であり、フォース使いとして蔵王議長の護衛も受け持つ。名は呉羽。
「今回のことは総隊長達も知っておいた方が良いと判断し、この場に集まって貰った。詳しい話は出雲総隊長から話して貰おう」
「あー、今日の午前2時頃に電話で聞いたんだが、うちの上級フォース使いがアメリカの上級フォース使いと会ったらしい」
「え、アメリカの上級フォース使いと言えば、ダニエルさんですよね?」
「あぁ、そのダニエルさんが暁の家に来ていたと。来たのは昨日の昼頃だったが、あいつはそのことをこっちに連絡するの忘れていたらしく、今日の午前2時頃に思い出したと言い、電話して来やがったんだよ」
そのせいで、出雲総隊長は寝不足だった。話はこれだけではなく…………
「それに、アイツは独断でダニエルさんと賭けをしていやがった。これが、勝ったらの条件になる……」
「えっ、賭け!?」
朝霧総隊長は目を丸くしていた。賭けと言えば、今回の祭しか思い当たらない。その祭を使って、何を賭けたのか、どちらも上級フォース使いであることからとんでもない条件を設定されていそうで、冷や汗を欠いていた。
「賭けの内容はまだ聞いてないが、この紙に書かれておるな?」
「あぁ、電話で聞きながら書いたからな」
お互いの条件が書かれた紙を取り出した出雲総隊長。それを蔵王議長が受け取り、折りたたまれた紙を開いて読んでいく。
何が書かれているか知らない朝霧総隊長と呉羽は目を丸くする蔵王議長にゴクリと唾を飲み込む。やはり、とんでもない条件が書かれているのかと心配になるのだった。
「…………意外だな。お互いが平和条約を入れ、後は個人的なことしか書いておらん。アイツが平和条約をなぁ……」
「え?」
内容を知らない2人が紙へ目を向け、読んでいくが、平和条約が書かれた部分に蔵王議長が何処に驚いたのかわからなかった。
「あぁ、この条件なら問題はないだろうな。しかも、どちらが勝ってもお互いに損はない」
「でも、負けたらアメリカに行くと書いてあるんですが……?」
「竜を全滅させたらな」
蔵王議長と出雲総隊長は2人が出した個人的な条件は、生きている内に達成出来るとは思えなかった。もし、全ての竜王を倒せたとしても下にいる竜が他の星へ逃げてくれるか、竜もどきが元の姿に戻るのも不明だ。
竜王ではなく、竜だけと指定したことになんの意図があるかわからないが、明確にしてない限りは全ての竜が対象になると言える。
「ダニエルさんはもう50代でそんな歳だろう?」
「そういえば、そんな歳ですね。10~20年そこらで全滅させるなんて、不可能じゃないですか?」
「普通ならな。しかし、アメリカで何か竜を全滅させるような秘密兵器や案があるなら別だが」
「そんなのがあったら、既に使っているんだろう」
蔵王議長の考えでは、ダニエルが生きている内に竜を全滅させるのは不可能だ。もし、万一に竜王を倒せたとしても、全ての竜を全滅させるのは、難しい。竜は全てで何体いるかさえもわかっていない。更に、竜もどきもいるのだ。
「……まぁいい。どちらに転んでも、東ノ国に損はない。それに、アイツが勝ち目を度外視にして、賭けをするとは考えられん」
「つまり、石神さんが勝つと~?」
「そうだな、蔵王議長は暁が勝つと考えているようだ。俺もな」
蔵王議長だけではなく、出雲総隊長も暁が勝つと考えていた。同じ上級フォース使いだとしても、経験は数年の差がある。それでも、2人は暁が勝つと信じていた。それだけではなく、何かしてくれそうだと期待と考えもあるが。
暁に会ったことがない朝霧総隊長と呉羽はどうして経験が違う相手に勝てるのかと疑問を浮かべていた。
フォース使いの中では、強い者は全てが経験から来ているのが普通だと考える人が多い。実際に、実戦を沢山こなしている下級が中級になったばかりの新人を圧倒することなんて、珍しくはない。
上級、中級、下級の違いは地力、能力の強さの違いがあり、竜も例から外れない。同じ条件で違う級で戦えば、ほぼ高い地位にある者が勝つ。
だが、経験の違いによって覆ることもあり得る。
なのに、蔵王議長と出雲総隊長は暁が勝つと信じているようだった。
「話が逸れたな。暁とダニエルの賭け話があったが、今は深刻に考えなくても良いだろう」
「そうだな。今は、祭を成功させることを考えた方がいい」
「ん~、今のところは竜が暴れている様子はないね~」
朝霧総隊長が何処かを見ながら、そう言ってくる。
「はっ、竜共も何処かで観戦でもしてんじゃねぇの?」
「竜の魔術がある限りはあり得ないとは言えないな。魔術を防ぐ技術があれば、言うことはないがなぁ」
魔術。この力は人間には使えず、竜だけが使える。このアドバンテージが大きい。こちらは科学があるといえ、戦争で使う兵器はほぼ効かないのは証明されている。
「ふん、見たければ見ればいいさ。そして、怯えてくれればいいがな」
「……もし、暁とダニエルが戦う事になれば、どうなるか。まだ不明だが、予想外の事が起きても大丈夫のように準備を終わらせよう」
「わかってるさ」
「は~い」
黙って頷く呉羽以外は自分の待ち位置へ向かっていく。蔵王議長も自分がやることをするために、呉羽へ指示を出しておく。
「……御意に」
「任せたぞ」
ついに、祭が始まるーーーー




