53.幻蓮祭①
はい、続きをどうぞ!
他の国から来た人達の話になります。
ーー幻蓮祭の三日前
東ノ国で一つしかない空港に、他の国から飛んできた航空機が幾つかが止まっている。
竜が苦手とするアルゼニウムが含まれた物がない空は、竜の縄張りと言っても良い。だが、航空機は傷一つもなく数は欠けていない。航空機に多少はアルゼニウムが含まれているが、全く襲われないことはない。
だが、無事に東の国まで飛来してきたのは、それぞれの国が強力なフォース使いがいることが証明となる。
特に、アメリカから来た航空機にはーーーー上級フォース使いが乗っている。
その航空機から降りてくる中、1人だけは異質な雰囲気を出していた。その者がーーーー
「いらっしゃいませ、ダニエル・ルーアニス様。この国へようこそ頂き、ありがとうございます」
ダニエル・ルーアニスと呼ばれた者は肌が褐色で髪色は金色だった。サングラスを着けて、指輪やネックレスなどの高級品を身につけてゆったりとしていた。もう50代なのだが、見た目はまだ30代にしか見えない容姿で、そろそろ老人だと思えないぐらいに若々しい。
「ん、あ? 話がわかるな?」
「はい。この翻訳機械のお陰で別の国の言葉でもわかるようになっております」
ダニエルの隣にいた使用人の女性が説明していた。
「ふっ、便利な世界になったものだな。これも竜が襲ってきたお陰と言えるのは皮肉な物だ」
「竜のお陰とは言いたくはありません! 竜が襲って来ようが、俺等の前では負けはあり得ません!!」
大きな身体をしていたダニエルの後ろから現れたのは、まだ学生といえる歳の白人だった。
「若造が吠えるな、俺から見ればまだまだだ」
「ダニエル様から見ればそうかもしれませんが……」
「ドーリーは充分、強者の域にいるかもしれませんが、まだ油断する場面が見受けられるわ」
「エージェ様まで……」
ドーリーと呼ばれた白人の学生は、使用人の女性であるエージェからの辛い評価に落ち込む。
アメリカから来たフォース使いはダニエル、ドーリー、エージェだけではなく、後ろから何人か着いて来ている。
それに続くように、他の国から来た者もいる。アメリカの次に並んでいたのはロシア。
ロシアも上級フォース使いがいる国の1つだが、今回は上級フォースが来ていない。それでも、ロシアの中でも上位に位置する人達が来ている。
特に有名なのが、今のロシア代表のリーダーになっている女性、ミリア・アンデート。上級フォースに劣らないと言える実力を持ち、『霧氷女帝』と呼ばれている。二十代ぐらいの歳にて、ロシア代表のリーダーに立つ実力を持つ女帝は、無表情で冷たい瞳を浮かべて、髪や服装までも真っ白な姿をしていた。
その女帝にダニエルは見知った感覚で気安く声を掛けていた。
「ロシアはお前が来るか。アイツは来ないのか?」
「あの人のことを存じておられるよね? 航空機嫌いなのは、前からわかっていたことでしょう」
その声にミリアは冷たい声で答える。あの人とは、ロシアが有する上級フォース使いのことで航空機嫌いで有名である。その航空機嫌いで、ロシアから出たことはない。
「おいおい、アイツは自分で飛べるだろうが。何故、来ない?」
「面倒でもあるのでしょう。それか、この大会に興味を持たなかったのかもよ?」
「ふん、今回の祭は面白くなりそうなんだが、アイツは勿体無いことをしたな。何せ、上級フォース使いが俺ともう1人が出るんだからな!!」
「貴方が出ることも驚きましたが、まさか日本……いえ、東ノ国に上級フォース使いが生まれたことも驚きましたわ」
ダニエルは今まで自分の国からを守護するために、他の国へ行くことはあまり無かったが、新しい上級フォース使いが生まれたから見にいくのも悪くないと考えていた。更に祭りが近いのを知って、その上級フォース使いが祭りに参加する可能性が高いと聞き、ダニエルも参加することに決めたのだ。
「意外わね。今までは参加しなかったのに」
「あぁ、去年はロシアが優勝したが…、今年は俺等が貰う!! アメリカが最強だと教えるのもいい機会だと思ってな!!」
「あら? 最強の座は譲らないわよ? 国としてもそうだけど、個人の最強もよ」
去年はロシアが優勝しており、優勝者が女帝のミリアだったこともあり、上級フォース使い相手でもそう優勝と最強の座を譲らないと謳っている。
「やれやれ、僕のことも忘れないで欲しいな」
「アーノルドか……」
「ふん、イギリスも上級フォース使いは来ないか」
「あの方がわざわざここまで来る必要はありません。何故なら、この僕がいますから」
ニコッと紳士的に礼を捧げる青年。この人はイギリス代表の1人、アーノルド・ロクサーヌでミリアと同様に中級フォース使いであるが、その実力は上級フォース使いのと差はあまり無い。
「ふん、今回は俺も出るからお前の勝ちは有り得んな」
「いえ、それはわかりませんよ?」
「ふふっ、今回も優勝を貰いますわね」
「えっと……、私達もいますが……」
控えめに手を上げて存在を訴える少女がいた。声をあげて、ようやく皆が少女のことを認識する。
ハッと皆が少女へ視線を向けると、小動物のようにおどおどと小さくなっていく。
「あら……、貴女は、中国の?」
「は、はい」
「今まで何処にいたのだ? というか、まだ若造よりも若いじゃないか」
少女はまだ10代前半にしか見えず、髪を団子に纏めていて幼い雰囲気を残していた。リーダーの殆どが20代以上でこの少女は場違いのように感じられた。
「あれ? 中国代表なんですか? リーダーが挨拶もないなんて、何を考えているのでしょうか?」
「え、えっと、わ、私が一応……リーダーとなっていますが……」
「えっ?」
嫌味を放つアーノルドだったが、目の前にいる少女が中国代表のリーダーだと知り、呆気に取られる。
「じ、自己紹介が遅くなり、す、すいません。私は今年から中国代表のリーダーになったリン・チェンと申します!!」
「あ、貴女が中国代表のリーダー……?」
「待ちなさい! 去年のリーダーだったハオランと言う者がいた筈だ。その人はーー」
「我だな」
何処から現れたのか、リンの後ろに厳つい顔をした軍人風の男が立っていた。その者こそが、去年の祭でリーダーをやっていたハオランだ。
ここにいるということは、代表の1人だとわかるが……
「どういう事だ? ドッキリをしたいだけだったら、大成功だぜ?」
「ドッキリではない。本当にリーダーは我ではなく、娘のリンだ」
「娘……?」
「気付かなかったのか? いや、忘れているだけなのか。我の名はハオラン・チェンだ」
「あ……」
確かに親子だとわかる。しかし、中国代表のリーダーが父の方ではなく、娘になっているのか?
「君達の言いたい事はわかる。だが、我より娘の方が強かった。それだけだ」
「何だと!?」
アーノルドはまだ信じられなかった。去年の祭に参加していたアーノルドは知っている。ハオランの強さを。
だが、そのハオランが自分より娘であるリンだと言う。
「……そうでしたか。すぐ信じられなくて、すいませんね。リンちゃん?」
「あ、いえ! す、すぐ信じられないのは仕方がないかと思います」
父親が後ろにいるからなのか、さっきまでの怯えが消えて、拳を握って気合を入れていた。
「祭で私の力を見せてやればいいだけなので。優勝は私達が貰います!!」
皆は口を紡ぐ。リンの眼はハッタリを言っている様子は無く、本気で言っているのがわかったからだ。
「……やれやれ、若造よりも気合があるな」
「ダニエル様!?」
「眼を見ればわかる。若造よりも若造らしいわぃ!!」
引き出しにされて比べられた若造のこと、ドーリーはショックを受けて肩を落としていた。
「思わぬ、隠れたジョーカーが現れたわね。…………東ノ国の代表はいませんね?」
此処には4つの勢力が集まっており、祭に参加する国は東ノ国もいれて、5つの国になる。だが、東ノ国の代表だけはいなかった。東ノ国が主催者であっても、代表の1人ぐらいは寄越すのが礼儀である。今までがそうであったように。
「む、確かに。代表だと思える奴がいないな。まさか、この案内人が代表の1人だと言わんよな?」
「いえ! 私はフォース使いではありません。代表は他にいますので」
「む、そうか。しかし、代表のリーダーぐらいは挨拶に寄越してもいいだろう? リーダーどころか、代表の1人もいないのはどうなんだ?」
「東ノ国の代表と言いましたが、この島国は沖ノ国と大ノ国もありましたよね? その国からも代表を集めていらっしゃいますの?」
「えっと、3つの国に分かれていますが、祭に参加するのは東ノ国だけです。他の国は自分の防衛で集まるのは厳しいと聞いています。なので、東ノ国にいるフォース使いが参加します。代表が来ない理由は、準備が忙しいのと防衛から抜けられないと」
「あら、大丈夫なのかしら? こんなギリギリで祭の主催者をやるなんて」
呆れるミリア。まさか、後3日なのに、代表の1人も迎えに来れないぐらいに忙しいとは思ってなかった。
「すいません。主催者がこの国に決まった後に、様々な事件が起きてしまい、その対応に追われたのが理由になります」
「はぁっ、それはちゃんと解決しておるな? まさか、我々に手伝いを頼もうとは思ってないよな?」
「それは勿論です! 全ての事件は上級フォース使いの働きにより、解決済みです。なので、皆に迷惑を掛けることはありません」
「ほう……? 全ての事件をここにいる上級フォース使いが解決したと?」
呆れた表情から驚きの笑みに変わった。どんな事件が起きたのかわからないが、それらの全てを上級フォース使いが関わっていて、解決したと聞けば、関心を持ちたくなるだろう。
「この東ノ国にも面白い奴がいるじゃないか。やはり、そいつも防衛で忙しいか? 祭の前に一度は会ってみたかったが」
「あー、すいません。その方はちょっと特殊で……、今日は他のフォース使いとは違って防衛に付いているわけではないのです」
「む? 祭の準備か?」
上級フォース使いは防衛に付いた方が適材適所で役立つと思って、防衛に付いていると考えていた。だが、違うと言われて、祭の準備に関わっている程に偉いのかと思っていたらーーーー
「言い難い事ですが…………学校に通っています」
「……………………は? が、学校に?」
理解が遅れ、いつものダニエルらしくない返事を返していた。皆もリンがリーダーだとわかった時と同じように呆気に取られていた。
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学校に通っていた暁はーーーー
「クシュン! ……風邪を引いたか?」
「誰か噂でもしているんじゃねぇの?」
「暁は有名だからねーー」
「熱はないし、そうだろうな」
有名人に噂されていることを知らず、いつも通りに学校で日常を過ごしていたのだった…………




