48.虚閃刀
はい、続きをどうぞ!
背中から長い首が8本も現れ、先端には竜の頭。ステラが言っていたように、ヤマタオロチのと合致した。
白竜は元の姿がヤマタオロチだったのかと気になる所だが…………
「う、うぁぁぁ……」
「なんか、さっきより苦しそうじゃない!?」
狭間がそう叫び、観察していた出雲総隊長が自分の見解を話す。
「おそらく、順調に侵食されていっているだろうな。早めにあの光の粒子から引き剥がさないと、意識を持っていかれるぞ?」
もし、意識を持っていかれることになれば、ティアと言う人格は塗りつぶされて消えてしまうだろう。そしたら、表に出てくるのはーーーー
『グゲェ、シ、シツコイナ』
「む? 喋れるのか。お前は白桜と言う奴にぶち込まれた竜の魂…………いや、意識が正しいか?」
『オレハフッカツスルンダ、タマシイダケ二ナッテモ、カラダヲテニスレバ!!』
「成る程。……ステラの例があるから、そんなことが起きても不思議じゃないがな」
最後のは小さく呟いていたため、周りに聞こえてない。
「暁?」
「いや、なんでもない。こりゃぁ、半分以上は白竜に持って行かれてるな。なら、竜を相手にしていると考えた方がいいか」
そう呟いて、虚閃刀で斬る対象をイメージした。このイメージは竜を対象にした効果的な攻撃となる。
プレートを踏み、まずはヤマタオロチの竜頭を排除しようと動く。
「やはり、簡単に近付かせてくれないか」
『キエロ、キエロォォォォォ!!』
8本ある竜頭は暁を囲むように位置取りし、先程みたいなレーザーが発射された。暁は斬ることに拘らず、射線がない道へ避けていく。
『コレナラァァァ!!』
今度はレーザーではなく、散弾銃のように大量の光弾が撃ち出された。その攻撃に舌打ちをし、出来るだけ避けようとしても、何発か身体に触れてしまい、抉られてしまう。
高い自己治癒で回復するが、痛いものは痛いのだ。
『トマラナイダト!?』
「さっさと消え去れよ」
暁は光弾に抉られながらも、急所だけは守りながら白竜の側まで近付くことに成功していた。そのまま、本体へ虚閃刀を突き出すが、間に一つの竜頭が入ってーーーー
パンッ!
『ナニガオコッタ!?』
「チッ」
突き刺された竜頭はどういう原理なのか、形を保てなくなり爆散した。白竜はさっきみたいのが、一回でも本体に当たったらヤバイと本能で理解し、残った竜頭で撹乱して暁から距離を取ろうとする。
暁はそれを許さず、プレートを上手く使って竜頭を躱していき、本体へ斬りつける。白竜が必死に身体を捻るように動かして、身体へ直撃を避けていた。それでも、左の翼が斬り落とされた。さっきと同じように、光の粒子が爆散して、形を保てなくなっていた。
本体に近い場所で喰らったため、白竜はどんな攻撃をされたのか、理解出来た。
『マサカ、マリョクヲダド!?』
「ようやくわかったか。これが竜に対する必殺の攻撃だ」
今度は光の粒子の能力に対してではなく、竜の原点となる『魔力』を対象にしていた。
竜は『魔術』を使う生き物で、身体の中で血液のように他の成分が巡っていた。それが、『魔力』と呼ばれ、それを斬っていたわけだ。
魔力を斬られた竜頭と翼は本体と繋がっていた魔力の道が遮断されたため、分離した魔力は暴走して爆散した。竜はいつでも息をするように魔力を制御しており、生きるのに不可欠な成分であるので、虚閃刀に対しては弱点にもなり得るのだ。
『グギィ、ソ、ソンナノトヤッテラレルカ!!』
「逃がすかよ!!」
白竜は戦略撤回でもない、逃げの手を選んだ。勝てないと理解した白竜は再び、斬られた翼を再生させて上へ飛び逃げていった。
暁は逃がすつもりはなく、全力で追い掛けるが、僅かに白竜の方が早かった。このままでは逃してしまう所だが、暁にはまだーーーー仲間がある。
ピカッーーーー!!
「キャッ!」
『ギャァァ!?』
雷が白竜に落ちた。それをやってのけた者は…………
「あ、中に人間がいたんだったな。大丈夫か? すまんすまん」
出雲総隊長だった。ティアとの戦いだったら、手を出さないつもりだったが、相手が竜なら話は変わる。
雷を呼び出して、動きを止めたのは良かったが、中身のティアまでもダメージを与えてしまったことに謝罪していた。身体が痺れるような威力だったが、死なないように細かな調整をして撃ち出したから、大丈夫だろう。
動きを止め、そこへ向かう者はーーーー
「終わりだ。せめて、俺の糧となれ」
『マ、マテーーーー』
ついに、虚閃刀が本体の身体へめり込む。中身まで通過しているが、スルッとスムーズに刀が動く。斬る対象である魔力は実体がないので、水を斬ったような感触を味わいながら、最後まで振り抜いた。
『グギィ、ギァガァァァァァーー!!』
白桜は元から白竜の魂で動いていた物であり、更に白竜は魔術を持って、やられた時に意識を魂へ隠していた。それが、白桜の暴走とティアの精神が混濁してしまったことにより、眠っていた白竜の意識が表へ出てこれるようになっていた。その意識は暁によって、生命線であった魔力を断ち切られた。
生命線を断ち切られ、意識ごと少々の魂を『創刀七星』に喰われたことによって、ティアへ乗り移ろうとしていた白竜は消え去ったのだった。
光の粒子が消え、空中で落ちてこようとしていたティアを暁はお姫様抱っこで受け止めていた。
「今の気分はどうだ。 俺は竜の力を使って、お前を助けてやった。それでも、竜の力を使うフォース使いが気味悪い存在だと思うか?」
「…………」
薄れていく意識の中、暁の声は良く聞こえていた。さっきまで死にたいと思っていたが、今はそうでもない。疲労で意識は薄れていくが、心は軽かった。竜を憎んで、その魂を使って戦う者を疎ましく思っていたティアだったが、今はフォース使いのことはそれ程に嫌だと感じていなかった。
「ふむ、その顔はさっきよりはいいじゃんか。俺はその笑顔が好きだぞ」
やっぱり、暁は不思議な男ーーーーと思いながら、ティアは微笑みを浮かべて意識を手放したのだった。




