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3.襲撃

 


 訓練所を目指すために、樹海の中へ進んでいく。前は菊地隊長が歩き、それに着いて行く生徒達に、一番後ろを歩くのが担任である賀野がの先生と狭間副隊長の並びになっている。

 クラスメイトの一人である遠野杏里とおの あんりが思いついたように声を上げていた。遠野杏里は、他の生徒よりも背が低くて中学生と間違われることが多い少女である。ツインテールにしていることによって、幼さを際立てている。


「あれ、樹海は魔障が漂っているよね?」

「そうだが?」


 近くにいた武藤が答えていた。質問はそれだけではなく…………


「魔障の所為で、生き物が変異しているよね。なら、人間の私達は……?」


 遠野が疑問を口にした瞬間に、クラスメイトの皆に動揺が浮かんだ。先生がその空気を感じ取り、疑問と不安を解消させようと口を動かそうとしたが、先に答えた者がいた。


「あれ、知らないのか? 人間は魔障が効かないんだよ。人間が変異するなら、訓練所にいる人間がとっくに変異しているんだろうな」


 答えていたのは、珍しいことに暁だった。納得出来るような根拠を織り交ぜて、説明することで知らなかった人達に理解を与えられる。


「あ、成る程……」

「魔障が効かない理由は、人間に含まれている遺伝子が魔障を無効化する性質を持っていたことだったな。人間が何故、そんな遺伝子を持っていたのか謎だが、変異する心配はないってわけだ」

「ありがとうございます!!」


 暁の説明によって、不安の空気も消えて安心していた。説明を聞いていた先生とフォース使いの二人が感心するように暁を見ていた。


「まだ勉強してなかった部分だったのに、よく知っていたな?」

「もしかして、貴方もフォース使いだった?」

「いや、幼馴染みがフォース使いで一緒に勉強していた時期があっただけだ」


 実際は自分で調べて勉強をしていたが、なんとなく本当のことを話すのが恥ずかしくなって、幼馴染みがフォース使いであることを利用した。


「そうだったな、橘は石神の幼馴染みだったわけか」

「橘と言うその子は?」

「別の班で、研究所の方へ行っていますよ」

「あら、残念だわ。どんなフォースを持っているか見たかーーーーっ!?」

「止まれ!」


 菊地と狭間が動きを止め、同じ方向を向いていた。正面ではなく、正面の上へ向いており、木の上に二体の生き物が見えた。

 その姿は猿のように見えたが、腕が四本もあることから竜もどきだとすぐにわかった。


「まさか、出会うことになるとはな。二体なら問題はないが、皆は周りを警戒しておいてくれ。『重突斧』!」

「あの猿は私達に任せて下がりなさい! 『伸縮蛇鞭』!」


 自分のフォース名を呼び、無から自分の武器を具現化していく。菊地は普通より大きな斧を、狭間は蛇の皮で出来た鞭が手に現れていた。


(あれが、二人の『フォース』!)


 暁は今まで、フォースは守のしか見たことがなく、街に敵が現れない限りは見る機会が少ないのだ。フォースを手に入れても、守みたいに対竜部隊へ入らずに普通の学校へ通う人もいるが、殆どは対竜部隊へ入ることが多い。

 暁がフォースをジッと注視している内に、四本腕の猿が木から飛び降り、襲い掛かってきた。魔障に侵された生き物は、生きるために殺すのではなく、殺したいから殺すと言う衝動に染まってしまう。実際に、中級種以上の竜は知能を持っても、破壊こそが至高とする生き方をする竜ばかりである。


 飛び降りた先には、下がった生徒達がいた。流石と言うべきか、生徒達は訓練所を見学するには、危険が全くないというのを理解していた。学校でも敵が襲ってきた時に対処する方法を教えている。それにより、慌てている者は少数であった。その少数の中には遠野も含まれており、ひっ! と声を上げて隣にいた暁の制服である学ランの裾を掴んでいた。

 暁は遠野をチラッと見て、背の後ろへ下がらせてから腰に掛けてある剣に手を添えていた。他の生徒も剣に手を添えていたが、それらは抜くことがなかったーーーー




 四本腕の猿は横から何かに殴られたように吹き飛んだからだ。


「もっと下がれ。俺の能力に巻き込まれてしまうぞ」


 四本腕の猿達を吹き飛ばしたのは、菊地の仕業であった。菊地の『重突斧』は重力を操る事が出来て、先程も見えない重力の壁を斧に合わせて振り回していたのだ。

 四本腕の猿もこの一撃で死ぬことはなく、鳴き声を上げながら菊地に突っ込んでいた。


「一体は私が引き受けるわ」

「頼んだぞ!!」


 この程度なら、菊地だけでもやれるが早めに潰すなら狭間も一緒にやった方がいいと判断する。


「捕まえなさい、”伸束縛”」


『伸縮蛇鞭』が伸びて、一体の猿を絡みつくように身体へ巻き付いていた。あまり手を動かしていないのに、鞭が動いていたことから自由に操作出来る機能があるとわかる。もう一体は、既に待ち構えていた菊地によって脚を切り落とされていた。


「この程度なら能力を使うまでもないな」


 次に頭を切り落としたことで、生徒達から声援が沸き上がる。狭間の方も身体中の骨を砕いて、首を絞めることで終わらせていた。




(ふーん、あっさりと終わらせるとはな。流石、対竜部隊の隊長と副隊長と言うべきか)


 暁は対竜部隊の隊長と副隊長の実力を見て、余裕があることからまだ本気を出してないのがわかる。

 暁が二人を観察している時、菊地は倒した猿を見て、疑問が浮かんでいた。


「狭間、この猿はおかしくないか?」

「はい、そうですね。ここみたいに街から近い場所は魔障が薄いので、生き物が変異することは少ない。なのに、この猿は変異したばかりで二体同時に現れた」

「そうだ、魔障が薄い場所は個別の差が現れるはずなのに、二体が同じ時期で同じ変異するのは普通ではあり得ない」


 二体とも四本腕を持った猿になって、二体同時が一緒に自分達の前へ現れたから疑問が出たのだ。ここのように、『プロティクト』がある街の近くは魔障が薄くなっており、生き物は変異することが少なくなる。だが、最近は変異する生物が増えて、今も襲われた。なら、考えられる理由はーーーー


「ヤバい状況になっているかもしれん。見学は中止にして、街へ戻った方が良ーーーー」


 菊地の言葉が止まった。何故なら、皆がいる場所を大きな影が通ったからだ。菊地は雲が太陽を遮っているだけだと祈りながら、上空へ眼を向けると…………


「マジかよ……」


 祈りが通じて、雲が太陽を遮っていたということはなく、一つの物体が飛んでいるのが見えていた。菊地と狭間はその飛んでいる物体のことをよく知っている。暁も険しい眼で上空を睨んでいた。




 上空にいたのは、竜もどきと言うチャチな存在ではなく、下級種で上位に位置する存在。




「下級種の『ワイバーン』……」




 暁はその存在を知っている。仙台市で襲っていた竜の一体でもあった。中級種以上のドラゴン達が率いていた兵士と言う存在で、下級種でありながらも強靭な身体を持っており、竜もどきとは違う威圧を纏う。


 それが、『ワイバーン』と言う存在だーーーー





まだ続きます!

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