38.テスト期間②
はい、続きをどうぞ!
放課後になり、暁は守、杏里と一緒に帰らずに公園でベンチに座り込んでいた。
暁は後悔していた。
ムキになって、勝てない賭けに乗ったことに。
暁の成績では、守どころか杏里にも勝てないのはわかっていたが、理性を捨てて賭けに乗ってしまった。
「俺は馬鹿か? なんで、あそこでムキになった?」
はぁ~~~~~~と長い溜息が出て、帰って勉強をする気はなくなっていた。守と杏里はご褒美のために、前回よりはいい点を取ってくるだろう。
そんな二人に勝つ?
無理だ。
「暁さん? 何か落ち込んでいるみたいですが……」
「うぉっ!? あ、ティア……だったか」
「はい、ティアです」
横に現れたのは、この間にお好み焼きを食べさせた少女であるティアだった。
「もしかして、この公園によく来るの?」
「いえ、最近にここへ来たばかりなのでよく来るとは違うと思うのです。でも、ここは静かで好きです」
「なるほど。静かなのは同意する」
公園には少数の子供や親が来る程度で、周りは緑があって車の音などはあまり聞こえない。
「そういえば、どうして落ち込んでいたのですか?」
「あぁ、それな。テストはわかるか? 学校でのテストが近くて、俺はあまり勉強が出来ないんだ」
「そうなんですか。でしたら、ここに来てないで勉強をするのが一番だと思いますが……」
「だよな。自分より歳下に言われるのは心に来るなぁ」
「でも、別に嫌なことはしなくてもいいのでは?」
「えっ?」
急にさっきと反対のことを言われて、疑問が浮かぶ。
「こんな世界ですし、いつ死ぬかわからないのに、嫌なことばかりして過ごすのは嫌ですよね。私もそんなの嫌だと思います」
「歳の割に結構、シビアな考えをするよな」
ティアはこんな世界と言っていた。つまり、竜がいる世界では、いつ死ぬかはわからない。もしかしたら、今日明日に死ぬかもしれない。
だから、嫌なことをするより自分がやりたいことをやればいいと。
この少女は別に犯罪を勧めているわけでもなく、純粋に正直に生きていた方がいいと言っているのだ。
そう考えれば、別に守と杏里に勝てなくてもいいかと思うようになった。別に訓練が三倍になろうが、守と杏里にご褒美をあげる羽目になっても問題はない。
「よし! 勉強はしないで遊ぶか!!」
「ふふっ、さっきよりはいいと思います。元気になってくれたので」
「ありがとうな。……ふむ、ティアはこれから暇か?」
「はい? まぁ、一人で寂しく散歩をしていたぐらいですから、暇ですね」
ティアは冗談を言ってクスクスと笑うが、暁は本当に友達がいないのかと心配になってきた。
ティアは間違いなく、いい子の分類に入るから友達が全くいないのはないと思いたい。だが、こっちから聞くことではないので、口を紡ぐ。
やはり、その言葉遣いから大人っぽいなと思った。
「そうか、暇なら一緒にカフェとか行くか? 励ましてくれたお礼もしたいし」
「え、そんなつもりで励ましたわけじゃ……」
「遠慮はするなよ。こっちがお礼をしたいだけだからな」
「…………そこまでいうなら」
ティアから了承を貰い、暁の行きつけであるカフェへ向かう。ティアも警戒をすることなく、暁に着いていくのだったーーーー
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暁の行きつけであるカフェとは、様々な種類のケーキが置いてあり、コーヒーも他のカフェよりも美味しいと判断している。
そこに暁とティアが入っていく。
「遠慮はせずに、好きなのを頼んでもいいぞ」
「えぇと、ここはメニューが多いですね。迷います」
他のカフェと違って、ケーキだけでも20種類はあり、パスタ系やサラダ系もあるからメニューが多い。暁はそこが気に入っている。
様々な味を一つの店だけで楽しめるからだ。
「だったら、好きなのを幾つか頼んでもいいぞ。お金のことは気にするな」
「え、貴方はまだ学生ですよね? このメニューはどれも高いのですが……」
「そうだな……」
どういう説明をすればいいか。暁は別にフォース使いとして、仕事も受け持っていると説明してもいいが、まだ小学生の少女に物騒な仕事をしていると言っていいか迷う。
「うーん、俺はアルバイトをしているんだ。高校生ならアルバイトも出来るからな」
「アルバイトですか。どんな仕事を?」
嘘は言いたくはないから、言葉を言い換えて説明をする。
「簡単に言えば、ゴミ掃除だな。しつこいゴミ(竜)を片付ける仕事が多いな」
「なるほど。ゴミ掃除って、儲かるんですか?」
「そりゃ、ゴミ(竜)は何処にも現れるからな」
「確かに、そうですね。では……、この三つを注文してもいいですか?」
食べたいと思ったメニューを三つ、指を指して教えてくれた。しかし、どれもボリュームが凄くて、小学生の少女が全部食べきれるとは思えなかった。しかも、学生には払えるかは微妙な金額になる程に高かった。
「全部、食べれるなら構わない」
「えっ、自分から言ってのことですが、金額が5000円を超えていますよ?」
「だから、お金は気にすんなよ。あ、一杯食べるならジュースも頼んでおきな」
「あ、ありがとうです」
高い金額でも眉を動かずに、自分の分も2000円超える物を頼んでいたことから、ティアは眼を丸くしていた。でも、これから来るデザートにワクワクしていた。
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「まさか、アレらを全部食べるとはな。どんな胃袋をしているんだ?」
「女性に、その言葉は失礼です。女性には別腹という便利な機能があります」
「…………まぁ、いいや。美味しかったか?」
「はい!! また来たいぐらいです」
「そうか、気に入ってくれてなによりだ」
暁は苦笑しながら、ティアの頭を撫でていた。ハッと気付いた時はもう遅く、丁度良い場所に頭があったから、つい撫でてしまった。だが、ティアは嫌がっていなかった。
「ふわぁ」
「すまない。つい、頭を撫でてしまって」
「い、いえ。いいのです。なんか、暖かくて気持ち良いのです」
暁もほっこりとしたような気分になり、撫で続けるのだった。
「…………不思議な人。でも、優しくて暖かい」
「ん、なんか言った?」
「うぅん、なんでもないよ。今日はありがとう。またね!!」
恥ずかしさを隠すように、お礼を言ってから、落ちていく陽に向かって走っていった。
「やっぱり、何処か不思議な奴だな」
暁はさっきと違って、心が明るくなっているような気がした。これなら、勉強を…………と思ったが、やっぱり自己鍛錬をしてからやろうと先延ばしにするのだった…………
どうでしたか!?




