36.事件
はいー、続きですー。
夜の街を歩く学生の男がいた。その学生は手に黄色の缶を持ち、その顔は少し赤くなっていた。
四条院豹呉はこっちを見下すような態度をした暁を思い出して、怒り狂っていた。みっともない姿を忘れようと、学生の身分でお酒を口にしていた。
「畜生、あいつめ、守の前で恥をかかせやがってぇぇぇぇぇ!!」
豹呉は今、コンビニで買ったお酒を飲みながらフラついた脚を動かしてデタラメに歩いていた。
人が少ない場所を歩いていると、フラついた脚にぶつかる感触があった。
「あぁん!! 邪魔だ!!」
豹呉にぶつかったのは、まだ小学生と言える少女だった。白いワンピースに大きくて白い帽子を被っていて、顔が見えていなかった。
顔が見えないのは豹呉にとっては、どうでもいいことで言葉を続けて捲し立てる。
「俺様は、フォース使いだぞ!! 何もないガキが俺様にぶつかるのは罪だぞ!! わかってんのか!?」
豹呉は確実に酔っていて、八つ当たり気味にぶつかった少女に怒鳴る。周りには人がいなくなっていて、怒鳴り声が高くても聞いている者は少女しかいない。
その少女は怒鳴ってきても、震えて泣いたりはしていなかった。それどころか、豹呉が言っていた言葉に気になる物が含まれていた。
「……お兄さんはフォース使いなの?」
「あぁん、それがどうした!? そうだよ、お前よりも遥かな力を持った存在だ。謝るなら泣き叫びながら地に伏せやがれ!!」
「そう、フォース使いなら…………」
酔っていた豹呉だったが、目の前の少女から妙な雰囲気を感じ取り、一歩だけ下がっていた。
だが、一歩だけ下がっても意味はない。豹呉は恥も捨てて、人が沢山いる所まで走って逃げるべきだった。
「罪には罰を与えなくちゃ」
夜に豹呉の悲鳴が上がったが、人気が少なかったのもあり、気付いた者はいなかった…………
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朝の朝礼で、生徒達は体育館に集まっていた。壇上に立つ校長から二つのお知らせがあるからだ。
一つ目は、フォース使いである四条院豹呉が誰かにやられた件だ。
「四条院君は、意識不明の重傷で半年はここに通えなくなりました。皆さんも不用意に夜の街を歩かないように」
「ほぇー、怖い街になったもんだね」
「いやいや、怖い街で済むには甘くないか。フォース使いがやられたんだぞ?」
「それもそうかー。でも、犯人は誰なのか絞れるよね」
答えは暁にどうぞというように、マイクを持った振りをする絵里。
「ふわぁぁぁっ……、フォース使いをやれるのは、フォース使いしかいない……だろうな」
「正解だよー、フォース使いは時には銃相手にも勝てるから、普通の人がやったと言い張るのは厳しいかな」
新聞部である絵里はネタ集めをしており、友達から情報提供を求めていた。暁は朝っぱらからの長い話が始まったことにダウナーな気分になっていた。
次に二つ目のお知らせがあり、暁はそのお知らせには驚愕していた。
「今回の事件は犯人がフォース使いの線もあるのでこの方に実習教師として来ていただきました」
「はーい、私は黒牙隊の狭間と申します。この学校には上級種のフォース使いがいるから私が必要かわからないけど、学校にいる間は私が防衛に当たることになったわ。もちろん、教師の資格も持っているし、国語の授業を受け持つから宜しくね」
「「狭間!?」」
「そこ、知り合いといえ、ここでは狭間先生と呼びなさい」
「あっ、狭間先生。すいません」
「はぃ、すいません」
守と杏里も驚愕して一緒に声を発していた。ただ、防衛に来ているといえ、教師でもあるので、呼び捨てはまずい。だから、すぐに言い直して謝った。
「よろしい。ここの生徒がやられたから私が配属されたけど、私が来たからには生徒達には手を出させないと誓うわ」
(やはり、狭間は何処か変わったな?)
挨拶も終わり、校長先生は思い出したと言うように、もう一つのお知らせがあった。
「悲しい事件があったのは残念ですが、三日後にはテストがあることを忘れないように」
うえー!! と叫ぶ生徒達だった。暁も勉強はあまり得意じゃなくて、いつも成績は中の下と少しだけ悪い。
テスト期間は防衛の仕事を他の隊に変わってもらえるのはいいが、勉強はやる気が出なかった。
はぁーと長い溜息が出るのを止められない暁であった…………




