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35.食い気の少女

はい、続きです!

 


 学校が終わり、それぞれの生徒達は部活で汗を流したり、研究会と名乗って自分の趣味を謳歌したりする。

 その中で、暁達はどうなんだろうか。


 防衛拠点は毎日行かなければならないわなけでもない。何かがあれば、すぐに行かなければならないが、普通なら訓練や防衛のために週に二日ぐらいは行けばいいだけだ。

 他の日は自由に部活をしたり、街へ遊びに行ったりと学生生活を謳歌する。

 当の暁は煩い生徒達の軍団から逃れて、帰宅部らしく街へ向かっていた。


「放課後に一人で街に行くのは久しぶりだな」


 最近は、防衛拠点へ行ったり、たまに休みがあっても守や杏里と一緒に帰ったりしていた。

 ただ、今回は二人と一緒に行動していなくて、一人だけである。

 守は部活に入っていないが、学級委員のためまだ学校で残っている。

 杏里は週に三日は部活があり、弓道部に入っている。フォースを手に入れてから、弓の扱いを上達するために弓道部へ入ったらしい。

 杏里は暁様のお役に立てるように頑張りたいのです! ということ。


 ”ふふっ、残念ながら一人ではないがな”

(ステラはノーカウントだ。お前はいつも俺の中にいるからカウントしても仕方がないだろ?)


 ステラがたまに揶揄からかってくるが、生徒達の程に煩くはしないから、文句を漏らすことはない。


(さて、煩い場所から解放されたし、どの店でのんびりでもするかな?)


 商店街に着き、カフェでも入ろうかなと考えて、ガラスショーケースに飾られている見本を見ながら食べたい物を探してみる。

 いくつかのカフェを見回るが、ピンと来るメニューが無かった。


「うーん、他にカフェはあったかな…………む、この匂いは?」


 何処からか美味しそうな匂いがし、それを辿って歩いてみると、一つの屋台があった。


「お、お好み焼きを売っているのか」

「そこの学生さん、買っとくか? 焼きたてでボリュームもあるぜ!!」

「確かに、美味しそうな匂いにほかほかな暖かさがある間に食べるのが美味しいよな。よし、一つくれ」

「毎度ありっ!!」


 お好み焼きを焼いているおっさんに金を払って、当のお好み焼きを受け取る。受け取った瞬間にずっしりと重さを感じて、驚いた。

 様々な材料が入っており、焼きそば、海鮮、肉と三種類を一つの中に三つに分けてあって、一度に三つの味を楽しめるようになっていた。

 一つで千円と学生には割高だが、暁は竜の討伐で報酬金を受け取っているので、それぐらいなら余裕で払える。


(何処で食べるか……、家だと冷めてしまいそうだな。あ、近くに公園があったな)


 買ったお好み焼きは商店街の近くにある公園で食べることに決めた。ベンチもあるし、自動販売機もあった記憶もあるので、飲み物に困らない。


(そう決まれば、少し急ぐか)






 ーーーーーーーーーーーーーーーー






 公園は人気が少なく、ここならゆっくり出来るだろうとベンチに腰を下ろす。さっき買ったオレンジジュースのプルタブを空けて、お好み焼きが入った箱を広げる。

 美味しそうな匂いが広がり、食欲を駆り立てる。


「ふーふーッ、パクッ…………うん、美味いな」


 焼きたてであることが、お好み焼きに使われていた材料を生かしたまま、美味しさが倍増されているように感じられた。

 自分に食通みたいに言葉を並べることは難しいので、黙って味を味わう。

 落ち着いた場所で美味しい物を食べるという幸せな空間が出来つつの所に、後ろから誰かの気配を感じた。


「む?」

「じーーーーー」


 後ろに立っていたのは小学生の歳なのか、守や杏里よりも身長が小さい少女だった。その少女は銀髪で、日本人ではないのはわかる。

 その少女が涎を垂らしながら、お好み焼きを見つめているのがわかった。

 お好み焼きを持つ手を動かしてみると、視線も一緒に動いていたからお好み焼きが食べたいのは確実のようだ。


「おい?」

「じーーーーーー」

「口で擬音を出すのはもういいから。もしかして、食べたいのか?」


 食べたいかと聞くと、少女は強くうんうんと頷いた。暁はお腹が空いているのかと思ったので、分けてやることにする。

 食べたそうにしている少女を無視して食べるのはちょっと罪悪感を感じそうだったから、食べさせた方がマシだ。


「あーん」

「…………は? まさか、食べさせろと言うのか?」

「あーーーーん」

「はいはいよ、食べさせればいいんだろ」


 諦めた表情で箸で摘まんで食べさせてやる。


「あ! あふ、あふっ!」

「あ、すまん。まだ熱かったか」


 熱かったが、中で少し冷ましたら飲み込む。美味しかったようで、再度に口を空けて待っていた。


「あーーーー」

「冷ましてやるよ。って、言葉は通じてんのか?」


 食べるかと聞いたら頷いたから、言葉は通じていると思うが、まだ擬音しか話さない少女に苦笑しながら、まだ熱いお好み焼きに息を吹いて食べさせてやる。

 この状況を守と杏里がいたら、羨ましがるだろうが、今は公園には子供とその母親しかいない。

 母親は、暁達を見て微笑ましいと思っていた。まるで妹に食べさせているようで。

 しばらく、お好み焼きを二人で分けて食べていた。ボリュームが凄かったお好み焼きも綺麗に箱の中から消えていた。


「まさか、三分の二を食べるとはな……」


 少女は食べるのが早く、量も与えている内に自分よりも多く食べていたことに気付いて驚いた。もちろん、少女が沢山食べたことには怒りはないが、夕方にこれだけ食べて大丈夫なのかと心配になるのだった。

 食べさせたのは自分なのだが、少女が帰った後に夜御飯を食べれるのかと考えていた。


「美味しかったです。分けてくれて、ありがとうです」

「おっ、日本語を話せたんだな」

「はい。私は親が欧米人ですが、仕事柄で日本語を話せるのです」

「そうか、そろそろ帰った方がいいぞ。暗くなりそうだからな」


 まだ日は上がっているが、少女はまだ小学生辺りだから明るい内に帰った方がいいと、促してみた。

 だが、少女はじーーーーとこっちを見つめるだけ。


「おーい?」

「貴方は不思議な人」

「む?」

「普通なら、お好み焼きを知らない人に分けてあげない。だけど、貴方は分けてくれたのです」

「あー、食べたそうにしていたじゃん? 放ってもずっと見ていそうだったからな」

「私はそこまで食いしん坊ではない」

「三分の二も食べておいて、説得力は皆無だと思うがな」


 少し恥ずかしかったようで、少女は頬を赤らめていた。今、気付いたが少女の姿はおとなし目の服を着ていて、新品のように見えた。腰には新作の携帯があり、靴も髪飾りも一新にしたように綺麗だった。

 暁はそれらを見て、いいとこのお嬢さんとかじゃないかと思い始めた。

 だが、会ったばかりでそこまで聞くのはおかしいので気にしないことにする。


「俺はそろそろ帰るからな」


 暁が帰れば、少女も帰るだろうと行動をしたが、裾を掴まれる。


「ねぇ、携帯番号かメールアドレスを交換出来る?」

「必要なことなのか……?」


 会ったばかりで、まだ仲良くなったとは言い難いのに、携帯の番号とメールアドレスの交換をしようと言ってきた。

 何のためにと聞いてみたらーーーー


「友達になりたいじゃ、駄目?」

「友達か……」


 少女はまだ小学生で、暁は高校生。そこには犯罪の匂いしかしないが、もしかしたら少女がボッチだとしたら断るのはちょっと勇気が必要になるとこだ。

 少し考えて、少女の半目になっている瞳を見たら、何かを望んでいるのが見て取れた。

 仕方がないなとため息を吐いて、携帯を出した。


「わかったよ。番号とアドレスだな? 赤外線はあるよな?」

「うん!」


 少女は嬉しそうに携帯を操作する。そして、データが送られる。そのデータには少女の名前も出ていた。




 ティア・ド・グリム




 この名前が、少女の名前らしい。


「暁さんと言うのですね。今日はありがとうでした!! また会いましょう」


 少女はそう言って、公園から去っていった。暁は不思議な人と言われたが、そっちこそ不思議な少女じゃないかと苦笑していた。

 一人になった公園で、送られたデータを登録しようと指を動かしていたが、最後の項目に眼が止まった。




 EGYK1RE4Q




「なんだそりゃ? 英語の単語でもないし、数字が入っているな?」


 少し考えてみたが、ヒントもないままではわからなかった。

 まぁ、わからなくても問題はないと思い、保存して放っておくのだった…………













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