34.他の国
はい、どうぞ!
第3章に入りました!
ーー覚えているだろうか?
日本には、三つの国が出来ていることを。
東京辺りを拠点にする『東ノ国』。
大阪辺りを拠点にする『大ノ国』。
沖縄辺りを拠点にする『沖ノ国』。
他の領地は、竜の瘴気によって深い森へ変化を遂げて、人間以外の生き物は侵食されて竜もどきへ成っていった。
さらに、北海道だった場所には一本の塔が立ち、そこには七体しかいない竜王の一体が眠っている。
それが今の日本である。
元沖縄である『沖ノ国』は本国よりも小さきの島であり、防衛拠点は一つしかない。
だが、竜がたまに攻めることがあっても完璧ではなくとも、防衛に成功している。その秘密は、他の国とは違う戦い方で『沖ノ国』を守りきっていた。つまり、『沖ノ国』はフォース使いがいないということ。
その一片が、東ノ国へ向かう。
「……ここが東ノ国。こちら、依頼を進める」
携帯電話を持ち、空中に浮いている者がいた。全身は白い物を纏まっており、夜の世界では目立つ姿であった。だが、身につけている機能の一つにより、目立たなくなっているので誰にも東ノ国へ侵入されたことに気付かれない。
「……竜に滅びを、その力に縋っている者も罰を」
不穏な言葉を残し、目立たないように人気がない地上へ降り立っていく。
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東の防衛拠点で活躍した暁は、教室にいた。編成も終わり、東の防衛拠点での防衛の仕事から解放された。
普通に学校へ通って、教室でゆっくり惰眠を取ろうと考えて、学校へ向かっていた。なのにーーーー
(ゆっくりできねーよ!?)
今は学校であり、いつも休み時間や昼休みは殆ど睡眠に充てていたのだが、東の防衛拠点での活躍が伝わったせいで、学校全体の生徒がわらわらと集まってくる。
ゆっくりも出来ず、イライラしてきた暁は生徒達がウザ過ぎると感じていた。
機嫌が悪いとすぐにわかった守達が対応してくれていたが、数が多すぎて対応しきれてなかった。
(はぁ、なんでこんなことに……)
”キマイラはお前がほぼ一人で倒したようなモノだからな”
(こんな賞賛はいらないから、黙ってくれねぇかな)
”悪っぷりを見せてやれば良いんじゃないか? すぐに離れてくれるぞ?”
(それも考えたが、それが俺だけに留まらずに『虹竜隊』の奴らも避けられてしまっては可哀想じゃないか。俺が隊長であることに、その案は使えない)
隊長はチームを率いる存在であり、柱のようなものだ。その隊長が粗相をすれば、率いている隊員も同じように粗相をしているかもしれないと思われる。クラスメイトならそんなことにならないが、他のクラスから見に来ている者もいるので、守や杏里のことをあまり知らないことが悪いイメージを付けやすい。
二人の性格は優しくて性格が良いからクラスメイトでは人気がある。ちょっと変な所があるが、悪い子ではないといえ、情報が少なければ善ではなく悪にも判断される可能性もある。
どうしようかと考えていたら、人混みに割れ目が出来た。そこから一人の男性が偉そうに歩いてきた。
「やぁ、石神君。なかなか活躍しているじゃないか?」
その男は暁より一つ上の先輩。その証拠に学ランの襟にある三本の線が入っている。暁は面倒そうながらも眼を向けてみるが…………
「……………………誰?」
「おい!?」
顔はわかる。いつも不敵そうな顔をしていて、フォース使いであることに誇りを持っている。
だが、名前までは知らなかった。綺麗な顔をしていて、貴族っぽい金髪のセットをしていた。これで日本人だと言うらしい…………
「この俺様を知らないとは言わせないぞ。 同じフォース使いとして、名前ぐらいは知っておくのが務めだろう!?」
「知らない物は知らないし、相手が知らないと言っているんだから、自己紹介ぐらいはしたら?」
「強いフォースを手に入れたからって、その態度は頂けないな? 俺はフォースを手に入れて、三年以上。歳もフォース使いとしての年月、どちらも俺の方が上だ。理解したなら、敬うぐらいはしたらどうだ?」
見た目通りに面倒そうな相手だと理解し、眠気が襲ってくる。欠伸をすながらも返事を返す。
「ふわぁぁぁっ、知らない人に敬うぐらいなら寝ていた方がマシだな。それに、お前はフォース使いだとしても何もしてないじゃん」
学校にいるということは、どの防衛拠点に所属してないということ。暁達は総隊長に条件を付けたから、ここに通っているが、普通なら学校に通わないで防衛拠点で仕事をしているのだ。
「なんだと!? この俺様に戦場へ出ろと? もし、俺様が死んだら四条院だけに留まらず、世界の損害となると心得よ!!」
「…………」
こいつは頭が可笑しいんじゃね? と守に眼を向けていたら、守は苦笑していた。
「とりあえず、この先輩は四条院豹呉だよ。うーん、暁君の前で一度も自己紹介はしたことがなかったから、知らないのも仕方がないと思うよ?」
「むっ! そうだったのか、守君がそう言うなら、そうだろうな! 許せよ」
守の言葉に、すぐ謝ったが態度が上からでイラッとしたが、表情には出さない。
イラッとさせるのが上手いなと思いつつ、守が言ったからとすぐに非を認めることに違和感を感じていた。こういうタイプは自分の間違いをすぐに認めたがらないように見えたが、よくわからなかった。
だが、側にいた杏里だけはすぐにわかった。へぇーと、嫌な笑みを浮かべて守のところまで静かに忍び寄って、耳に口を当てていた。
ごにょごにょ、ごにょ?
周りにはそう聞こえなかったが、守だけは内容を聞いており、きょとんとしていた。そして、あははっと軽く笑って、ないよーと否定っぽい返事をしていた。
「いえ、アレは本気に見えましたわ。貴女にその気があれば、私は応援しますよ?」
「むっ?」
ここまで言われたら、暁と同じ鈍い守にもわかる。杏里は豹呉の反応から守に好意を持っているのがわかった。それがわかれば、杏里がすることは決まっている。
「わかるよね? 貴女はどうかしら?」
「あははっ、杏里ったら何を言っているんだか」
二人は火花を散らしているようで、周りの人は巻き込まれたらたまらないと引いていた。
暁は二人が何の話をしているかわからないが、生徒達が引いたのを見て机に覆い被って寝ようとする。
だが、またとしても豹呉が邪魔をする。
「なっ、待て! 話はまだ終わってないぞ!!」
「…………なんだよ」
また睡眠を邪魔をされて、更にイライラが募る。豹呉はそれに気付かないまま、言葉を続ける。
その言葉が命取りになることを知らずに。
「隊長の座を譲れ。俺様がお前達を率いてやる。俺様の四条院家に率いられることは一生の喜びになろう。さぁ、譲ーー「ハァッ?」ヒッ!?」
豹呉は暁の眼を見た瞬間に、恐怖が背筋を撫でた。その気配を今まで感じたことがなく、殺気と言う気配を初めて知ったのだった。
「馬鹿なことを本気で言っているわけじゃないよな。もし、本気で言っているならお前の力を見せて貰おうか? ついでに、お前の身体に教えてやったほうがいいか?」
「ちょっ! 暁、落ち着け…………はい、黙っています」
止める健だったが、視線を向けられただけで逆らっては駄目だと理解させられた。
一瞬で引き下がった健を見て、すぐ視線を豹呉へ戻した。当の豹呉は怯えていて、脚を震わせていた。
「何もないなら、すぐ消えろ」
「っ!」
暁は豹呉への興味を無くした。もう格付けが終わったというように、殺気が霧散していて、視線を逸らしていた。
豹呉はその態度に悔しくと思っても、先程の恐怖が口を開かせてくれなかった。くそッと舌打ちしながら教室から去っていった。
他の人は暁の殺気に触れていなかったから、あっさりと引いた豹呉に唖然として、教室が静かになった。
暁はチャンスだと思い、睡眠に移行しようとしたが…………チャイムがなってしまった。
「…………ゆっくり出来なかった」
次の授業は美術だから、机にずっと寝るのは難しい。畜生と歯軋りしながら、教科書を準備するのだった…………




