27.覚醒能力
はい、どうぞ!
訓練場には南と西のエースである暁と梨華が立ち、離れた場所には三チームの隊員達や狭間が観戦をしている。
波剛総隊長は審判のために、中央に立っている。
「お前が南のエースと呼ばれようが、私は負けることはない!」
「その言葉を返そう。それで、どんな能力を見せてくれるんだ?」
「慌てることもなく、直ぐに見せてやるよ!!」
梨華は胸辺りに両手を三角の形を作り、『フォース』を顕現する。そこに、水色と銀色が混ざったネックレスが現れ、梨華を囲むように水の渦が現れて、姿を隠す。
「これが、私のフォースだ! どうせなら、覚醒能力まで見せてやるよ。『水装蓮華』!!」
渦巻いていた水の渦が弾け、中にいる梨華の姿が見えるようになる。その姿は先程と打ち変わって、下半身が人魚のように尾びれがあった。
上半身は服に鎖が巻いていて変わらないが、手には珍しい形をした槍が現れていた。普通の槍ではなく、所々に穴が開いていて、奇妙な姿だった。
(覚醒能力だと?)
”真の力を発揮しているようだな。まるで中級種と変わらない力を手に入れているようだ”
(まさか、覚醒能力を使える奴が日本にいたとはな……)
暁は覚醒能力はあることを知っているが、持っている者は少ないとしか情報がなかった。誰が持っているのかは一般人には機密であったため、最近まで一般人であった暁に知る機会がなかった。
ちなみに、守は防衛に着いてなかったから情報を知る機会がなかったから知らない。
「へぇ、覚醒能力を持っているとはな。こっちも持っていると言えれば良かったが、残念ながら持ってないんだよな。『星空刀』!」
「綺麗な刀じゃない。では、始めようじゃないか!!」
覚醒能力とは、『フォース』の最高値まで扱いきれる実力があってこそ、新たな力を得ることが出来るのだ。
つまり、もう一つの能力を得られるということだ。
「”濁渦”!!」
一つ目の能力は、空気中にある水分を集めて操る。渦のような水流がこっちへ襲ってこようとしている。
「”三重・雷斬”!」
暁は避けもせずに、正面から切り裂いた。切り裂いた後に、すぐプレートを使って、梨華の方へ突っ込む。
「やるじゃないか」
暁は、武器を持っている方の肩を突きで突き刺そうとしたが、ふっと避けられてしまう。
新しく手に入れた二つ目の能力は、自在に何処でも泳げるのだ。その能力のお陰で、空中へ逃れることが出来たのだ。
重力の抵抗を感じさせずに、まるで水の中にいるようにすいすいと動き回っている。
「っ、早い!?」
「ほぅらよ!!」
梨華は素早く動き回り、暁の死角を取った。槍で串刺しにしようと、水流を操って貫通力を上げるために推進力を上げていた。槍に付いていた穴という穴から水が噴き出して、空気を切り裂く。
結果、暁は避けきれず、肩に擦り傷が出来ていた。擦り傷だけしか付けられなかったことに驚いたが、すぐに距離を取った。
「引きが早いな?」
「ん、ん!? 回復している……? まさか、覚醒能力なしで能力を二つも持っているのか!?」
覚醒能力なしで二つの能力というのは珍しいようだ。実際は、一つだけは暁本人の能力だが、こんなに回復が早すぎるので、『星空刀』の能力としているのだ。
「上級種のフォースとこか。面白ぇ!!」
「今度は、こっちの番だ」
プレートを使って、デタラメに動き回る。前みたいに正面から行くのではなく、隙を伺うような動きだった。真正面から行っても、素早い泳ぎを可能する尾びれがある限りは避けられてしまうのが見えている。
撹乱して、隙を見つけて崩脚を打ち込んで終わらせようとした。だがーーーー
「甘い!! 砂糖と同じぐらいに甘いよぉぉぉぉぉッ!!」
梨華は周りに水の竜巻をいくつか生み出して、敵を近付かせまいと動き回っている。これでは近付けないと、舌打ちして動き回るのを止める。
「やるじゃないか」
「お前も二つの能力を持っていたことに驚いたが、この程度か?」
「まさか。…………仕方がない、怪我は程々にしようと思ったが、こんな面白い戦いは本気でやらなきゃ、つまらないよな?」
「っ!?」
梨華は暁の纏う空気が変わったことに身構える。これから暁が動こうとーーーー
警報が鳴った。
「昨日と同じ竜が現れました!! それだけではなく…………」
恐ろしい物を見たような表情で、見た物を報告してきた。キマイラの竜が現れただけなら、そこまでは慌てなかっただろう。だがーーーー
「キマイラの背に…………人間の少女が乗っていましたぁッ!!」
考えうるだけの最悪な展開がやってきたようで、皆はゴクッと息を飲むのだった……………




