22.東の防衛拠点
本日二話目ー。
はい、続きをどうぞ!
バスに乗り込んでから三時間以上が経った頃、ようやく東の防衛拠点へ着いた。
「うわっ」
誰かの口から発された、最初の言葉がそれだった。
街の外へ向かう門が開いた瞬間、ボロボロになった防衛拠点があったからだ。東の防衛拠点は出雲総隊長が纏める南のと違って、門の側に出来ている。
その防衛拠点が半壊しており、攻めてきた敵の強さがチラッと見えてくる。
「へぇ、今回の敵は強いみたいだな。怖い怖い」
「笑顔を浮かべて言う言葉じゃないでしょう……」
起きたばかりで眠気が残っていた暁だったが、半壊した防衛拠点を見て、意識が完全に覚醒して笑顔を浮かべていた。
何故、笑顔を浮かべていたのか?
(今回の敵は期待出来そうだ)
”ふむ。我の勘では中級種…………イゾルデと同等かそれ以上と見ている。二本目の刀が生まれるの早そうだな”
ステラが言うように、イゾルデ以上の竜が来ている可能性がある。暁とステラの目的である竜の魂が集められそうだからだ。
狭間がペチッと暁の頭を叩いて、笑顔を引っ込ませる。
「何するんだ」
「ここで笑顔を浮かべるのは変人しかいないからね?」
呆れた顔のまま、暁の襟を取って引っ張っていく。いつもの狭間らしくない行動だったが、暁はそのことを気にする様子もなく、削り跡を残しながら引きずられていく。
その様子を見た二人が、意外そうな表情を浮かべていた。
「え、嘘……、まさか?」
「むむっ、ライバルが増えそうな気配が……」
引っ張っていく狭間、引きずられる暁、疑わしく睨む守、思案する杏里。このメンバーを見れば、ここへ何をしに来たんだと思うだろう。
ここは門を超えた所から、戦場とも言える場所なのだ。なのに、緊張感もなくハーレムっぷりを見せていては、そう思われても仕方がないだろう。
「あー、明日は学校があるんだけど、その所はどうなるの?」
引きずられながら質問する暁。狭間は聞かれるのを予測していたようで、すぐに教えてくれた。
「シフトを組むことになるかもね。暁のチームは午前が学校、午後は警戒に決まると思う」
「ふーん、目処は何日と考えている? ずっとここにいることはないだろう?」
「あぁ、編成を組み直して、簡易な防衛拠点を作るには一週間は掛かる。それが終わるまで、臨時に編入するといった感じだね」
ここにいるのは一週間だけ。ここを攻めてきた竜がまた現れるのを警戒のため、暁達を導入するのだろう。
それに、他の敵が現れたら追い払うのも仕事。
「そういえば、門は綺麗なままだったね?」
「え、少し汚くない?」
見た目は暁が綺麗なままとは言えないが、暁が言いたいことはそういう意味ではない。
「なんで、街まで攻めてこなかったか……?」
「うん。ここの防衛拠点をあれだけ破壊したんだ。なのに、門は傷のような傷はない。アルゼニウムが含まれている『プロティクス』が竜を遠ざけているといえ……」
「そうね、私もそこが気になったわ。防衛拠点を潰した後は門に近付くことも去っていったみたいなの」
防衛拠点を潰せる程の竜が、街に何もせずに防衛拠点だけを……とそこまで考えていたが、一つの可能性を思い付いた。
「まさか、ここを潰すのが目的だったとか?」
「うーん、それだけでは竜に旨味が薄いような気がするよねぇ」
確かに、防衛拠点だけを狙う理由もない。戦力を減らすためとか、竜がそこまで考えているとは思えない。
”それは同感だな。しかし、一部には魔術の実験をするために限定的な領地を襲うこと竜もいる。だが、魔術は余り使ってないように見えるな”
ステラの意見が出たが、魔術を使ったには被害が少なすぎるぐらいだという。よく見ると、殆どは爪や牙を使った肉弾戦があったような跡が残っていた。
「ふーむ、やっぱり情報が少ないな。あ、生き残った人はいるー?」
「確か、三人ぐらいはいると聞いている。だけど、三人とも重傷で病院に搬送されている」
「あー、すぐに情報を手に入れることは出来ないか」
やれやれと首をフルフルとするが、襟を掴まれたままなので、カッコつかなかった。
「そろそろ自分の脚で歩いてくれないか? 周りの目が痛くなってきた」
「引きずったのはお前だろうが……」
暁はふざけるのを止めて、自分の脚で本拠へ向かうことに。本拠は建物ではなく、急遽に作られたテントであった。
そのテントから出てくる男がいた。その男は狭間を見るなり、急に駆け足で嬉しそうに近づいて来た。
「狭間さん! お久しぶりです!」
「あら、正義君じゃない」
嬉しそうにしていた男だったが、正義君と呼ばれてからガクッと肩を落としていた。
「その呼び方はまだ続いていたんですか!? 僕の名前は誠治だと言っているでしょ!?」
誠治と言う男は、金髪でサッパリとした雰囲気を持ち、表情がわかりやすくて明るい性格である。さらに……結構イケメンである。
「いいじゃない。貴方がここにいるということは……」
「はい。聖馬隊がここへ応援に来ています。そっちは、狭間さんがいるから黒牙隊が?」
「違うわ。私はただの付き添いというか、監督としてね」
「うん? 後ろにいる方の?」
狭間の後ろにいた暁達を見て、黒牙隊ではないと理解する。黒牙隊である紋章が付いている服を着いていないのだから。
今更だが、黒牙隊である菊池や狭間に隊員達は全員が黒い牙を肩に紋章を付けていて、戦うための正装があるのだ。
暁達はまだデザインも隊のシンポルを決めておらず、今は普通に動きやすい服を着ているのだ。
「丁度いいし、自己紹介をしておくわね。この子は南の防衛拠点で期待されているエースの暁よ。入ってからまだ二週間も経ってないけど、隊長をやっているわ。女性二人は隊員ね」
「え、二週間も経ってないのに隊長ですか!? …………あ、もしかして上級種のフォースを持った方の?」
「そうよ。入ったばかりだと舐めていたら、痛い目に合うわよ?」
自己紹介された暁は、いつの間にエースになったんだろとハテナを浮かべていた。誠治は珍しい物を見つけたような反応を見せていた。
「へぇー! どんな効果を持っているか知らないけど、いつか見せてね!! あ、僕は狭間さんと同期で誠治と言うんだ。宜しくね!」
誠治はキラキラとイケメン笑顔で握手の手を差し出していたがーーーー
「…………」
「え、あれ?」
「あら、どうしたの?」
暁は誠治に対して引いていた。誠治は混乱し、狭間は暁が引いている姿を見て、珍しいと思っていた。
人見知りをする性格ではないのを知っているし、握手の手を差し出しただけで引くとは何があったのかと気になった。
その理由を聞いた狭間は笑い声を耐えることになる。暁が引いた理由はーーーー
「えぇと、すいません。キラキラした人がちょっと苦手なんです」
「ええーー!?」
「プッ!」
笑い声は我慢出来たが、息が少し漏れてしまっていた。暁の言葉に続くように、後ろから見ていた守と杏里から話があった。
「確かに、暁君の言いたいことがわかるかも。なんか、笑顔がキツイような……、能天気で馬鹿っぽいかも」
「ぐぁっ!?」
心に矢が刺さったように胸を抑える誠治。それで終わらず、杏里から超キツイ言葉が飛んでくる。
「なんか、漫画みたいな笑顔。詳細に言えば……BLに出てくる主人公みたい。少しキモいかも」
「ぐべらぁっ!!」
狭間は笑い声を我慢していたが、耐えきれずに大声で笑っていた。
「あははははははははーーーー!! ふ、不評みたいね、貴方の笑顔は。三人の感性が変かもしれないけど、笑顔が通じなかったのは初めてじゃない?」
「う、うぅ……、胸が痛い。僕の笑顔はそんなに変なのか……?」
「あー、なんかすまん」
後から二人も謝ったが、誠治はしばらく膝に地を付けて落ち込んだままだった…………




