9.招待
はい、続きをどうぞ!!
ワイバーンが現れたあの日から三日が経った。
何もない平和な日々では、新たに手に入れた能力を誰にも見られない場所、遅い時間で試していた。そのお陰で、学校に行く時は欠伸ばかりで眠そうな表情だった。
昼休みは杏里が暁のお弁当を持ってくるようになり、一緒に食べることが増えた。その時は必ず、守も割って入ってきた。そのせいで修羅場るが、何回か言っても無駄なので無視している。修羅場ったせいで、二人は昼飯を取り損なうことがあり、午後は腹が鳴りっぱなしだった日もあった。自業自得だが……
ーーーーそんな平和な日々を過ごしていたが、それは今日から終わりだ。
「え、招待……?」
「そうだ、今日は土曜日。授業は午前だけだから、行くなら午後から行くといい」
朝、ホームルーム中に先生から連絡があり、訓練所から招待の電話があり、招待を受けるか? という話であった。
それに反論したのは、隣の席にいた守である。
「反対です! あんなことがあった先に、招待なんて何を考えているのですか!?」
「なんで、暁君だけなんですか!?」
杏里も立ち上がって叫んでいた。暁を二度と危険な場所へ行かせたくはないとの考えで二人は訓練所へ行かせたくないようだ。クラスメイトもまだ時間もそんなに経っていないのに行かせるのも……と反対が多数であった。だが、招待された本人はーーーー
「構わんぞ?」
「「暁君!?」」
承諾したことに驚く二人。あんな危険な目に遭ったのに、また行こうとするのか?
”ようやく試す日が来たか?”
(半分当たり、半分外れかな? 訓練所を見学出来なかったから見てみたいのもある)
今まではシミュレーションでしか、フォースの力を使う機会がなかった。だが、樹海へ行くことになれば、戦う機会も出るだろう。
暁はそれだけではなく、見学出来なかった訓練所へ行ってみたいとも思っていた。
「訓練所を見学することが出来なかったから行ってみたいだけだ」
「暁、あんなことがあったのに怖くないのか……?」
「俺からにしたら、『竜の襲来』の日が怖かった。家族全員を無くしたことがあるし、あれと比べれば自分が落ちたぐらいでは怖いとは思わなかったな」
「暁、お前は……」
武藤は暁の心情を知ってしまい、絶句していた。暁にしたら、自分が死んでしまうよりよく知った人を亡くしてしまう方が怖い。前までなら自分が死んだら皆が悲しむのも嫌だったが、今は前と違って、力を持っている。
簡単に死んでやらない自信があるから、行くのだ。暁は絶対に折れないと理解したのか、守がそんなことを言ってきた。
「な、なら! 私も着いて行く! これだけは絶対だからね!?」
「は? 賀野先生、こういうときはどうなるんだ?」
招待されているのは暁だけで守は本来なら着いていけないが…………
「そうだな、守はフォース使いで暁の護衛として着いて行くなら問題はないかもな」
「成る程。駄目と言っても着いてきそうだな……。わかった、勝手にしな」
「やった!!」
護衛と言う名目で着いて行けると決まったようだ。そのことは先生から連絡を入れるので、暁は気にしなくていいようだ。
一緒に行けない杏里は悔しがっていた。この前は怖い思いをしたが、知らない時に暁がいなくなってしまうことは嫌だった。だから、危険な場所でも暁へ着いて行きたかったのだ。
しかし、杏里は守みたいにフォース使いではないので、行きたいと言っても認められないだろう。今、杏里が出来ることといえば…………
杏里はチラッと鞄の中を見る。お弁当が入っており、これを渡してあげることだ。そして……
ーーーー私だって、やる時はやるんだから!
杏里はこれからのことに気合を入れていた。何をするつもりかはまだ杏里にしかわからないのだったーーーー
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訓練所への道がある門前にて、そこには菊地隊長と狭間副隊長の他に男女三人の隊員がいた。全員は黒牙隊のメンバーで、隊員の三人の中でフォース使いは一人だけで、他は特注で作られた大太刀と銃を持っていた。
「隊長と副隊長を含めた五人で護衛なんて、聞いたことがないのだが……」
隊長、副隊長と別にもう一人のフォース使いが疑問を浮かべる。他の男女二人も同意するように頷く。
「確かに、このメンバーだと竜を討伐しに行くように見えるわね。それだけの布陣を敷くなんて、どれだけ偉い人が来るのよ?」
「学生二人だけらしい」
「はぁ!?」
学生二人だけのために、五人で護衛をするなんて初めてのことだ。
「本来、招待したのは一人の男子校生だけだったが、もう一人は護衛の名目で学生のフォース使いが着いてくるらしい」
「何者だよ……、その男子校生はよ」
「その男子校生のことは、隊長と副隊長が知っているから、聞いてみる?」
「確かに気になるな。どんな奴だ?」
三人は誰を護衛するかはまだ聞いていない。ただ、護衛仕事をするぞ! と菊地隊長に言われて、訓練所から門前まで来たばかりで詳しくは聞いてないのだ。
しばらくすると、少しだけ場を離れていた菊地隊長と狭間副隊長が帰ってきた。
「報告を終わらせてきたぞ…………何か聞きたげな表情だな?」
「えっと、これから護衛をする方のことを聞いておきたいのですが……」
「あー、詳しく話してなかったな。はははっー!」
ーーもう少しホウレンソウに気を付ければ、隊長は完璧なんだがな……。
ーー仕方がないわよ、隊長は実力で登り上がったから、少しの欠点ぐらいは眼を瞑りましょう。
ーーそうだな、隊長はここの訓練所で一番か二番を争うぐらいには強いからな。
三人は眼だけで言いたいことは通じていた。とにかく、五人で護衛をする男子校生のことが気になって仕方がない。
「招待したのは男子校生一人だけなのに、フォース使いの学生が護衛として着いてくるのは珍しいですよね?」
「それで、その男子校生が何者か知って置きたくて。もし、偉い人の孫とかだったら面倒事を避けたいので……」
隊長と副隊長を含めた五人の護衛がいるのに、更に学生からフォース使いを派遣する程だと、偉い人の子や孫の可能性も捨てきれない。失礼なことをしないように初めからどんな人が聞いておきたいのだ。
「ふふっ、そんな心配をしていたの?」
「あ、はい……」
狭間副隊長は部下の戸惑う姿を見て、少し笑ってしまった。不安を取り払ってあげるように説明を始めた。
「いえ、偉い人の子や孫じゃなくて、普通の学生をやっている男子校生よ。眠そうな表情をしていて…………いえ、アレは普通の学生と言うのかしら?」
「いや、言わねえだろ! 鋼鉄の剣で熊の竜もどきを倒した奴は!」
隊長はガハハッと笑っていたが、隊員には笑えない話であった。
「学生が!? しかも、鋼鉄の剣で!?」
「熊か、中型の竜もどきを……」
「ありえない……」
鋼鉄の剣は自衛のために置いてある剣である。それでは熊みたいな中型の竜もどきを斬るなんて、普通は無理だ。隊員が特注で作らせている武器、『プロティクト』に使われている材質を混ぜていて、竜もどきになった身体を簡単に斬れるようになっている。
だが、その男子校生は鋼鉄の剣で中型の竜もどきを斬ったというのだ。
「どんな奴なんですか……? あ、眠そうな表情をしていると言っていましたね」
「うん、戦う時は流石に真面目な表情だったけど、鍛えているから見た目に騙されては駄目よ?」
「奈落と呼ばれている崖に落ちて、無傷で帰ってきた奴だからな」
「えー、どんな化け物なんですか……、あの奈落の崖に落ちて無傷とか」
想像出来なかった。眠そうな表情をしているが、熊の竜もどきを鋼鉄の剣で倒す実力を持っていて、奈落みたいな崖に落ちても無傷で帰ってきたという男子校生のことを…………
「あと一時間すれば、こっちへ着くから、今の内に昼飯を食いに行くぞ!!」
菊地隊長がそういって、食堂がある場所へ向かっていった。隊員達も慌てて、菊地隊長に着いて行くのだったーーーー
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門前へ向かうバスの中で、二人はお弁当を食べていた。暁のは勿論、杏里から貰ったお弁当である。
暁はお弁当を作ってもらっているのは、助けてくれた御礼だと思っている。
だが、流石に毎日作ってもらっているのは悪いと思って、断ったこともある。だが、断ると杏里が悲しそうな表情になるし、「自分は暁君に食べて貰いたいから作っているの。ダメですか……?」と上目遣い言われたら、強く断れなかった。最後には暁が「勝手にしな……」と諦めたのだった。
「くっ、これは美味しいですね……」
隣に座っている守は杏里に対抗するようになり、杏里が作った肉団子を食べて悔しがっていた。自分が作るよりも美味しいらしい。
「しかし、向こうは何のために招待するんだろ?」
「え、再び見学させる機会を作ったのでは…………いえ、それだと暁君だけを呼ぶのはおかしいですね」
もし見学させるつもりで呼ぶなら、クラスメイト全員が呼ばなけれていなければおかしい。なら、熊の竜もどきを倒したことだと思うが、細かくは読めなかった。
”ふふっ、ピクニックのような気分でいるのはいいが、暁は苦難な道へ乗った。いつでも、危険に対応して出来るように心掛けよ”
(竜王本人から有難い言葉だな。まぁ、俺も危険が迫ろうとも簡単にやられるつもりはねぇよ)
”それでこそ、我が選んだパートナーだ”
(パートナー? そんな言葉を知っていたな?)
”ふむ、クラスメイトと言う奴が話していたから使ってみたさ。一体同心となった我等はその言葉がピッタリであろう?”
(成る程ね……)
ステラは身体と魂を暁の心臓へ移したので、背後霊みたいにいつでも暁のに着いて行く。そして、暁の生活を一体同心でいるステラは様々なことを学んでいるのだ。そして、パートナーの言葉をクラスメイトの会話から知ったのだ。
「ねぇ、ボーッとしてどうしたの?」
「……まぁ、向こうに着いたら聞けばいいやと考えていただけだ」
頭の中でステラと会話をするのと周りへ気を配るのは大変だが、いつか慣れるだろうとバスに揺られながら考えていたのだった。




