所在
「――ユノ!」
「……あ、ミオ……お帰り……よくぞご無事で」
弱々しい……と言うよりは、力の籠らない声で、由乃はミレオミールの無事の帰還を讃えた。
既に魔獣は掃討されていて、由乃は思わぬ心労に、地面に座り込んでいた。脚の傷が痛むというのも一つの理由だが、それ以上に、虫型魔獣という悪夢が、事の他由乃を苛んでいる。由乃は動物は好きだが、虫だけは、本気でこの世から存在を一片残らず消してほしいと願う程、大の苦手だった。虫と言う概念が存在するだけでも許せない。存在そのものが邪悪。ある意味魔王よりも確実な由乃の敵だ。
あいつらとだけは、何があろうとも和解することはないのだろう。
「魔獣もかわいい……なんて思っていた時期が、私にもありました……」
「……何の話?」
座り込んでいるし疲れ切った様子だが、冗談を言う元気がある事を確認すると、彼は微弱ながら不安を表した表情に、安堵の色を浮かべて苦笑した。
由乃の言葉に関して深くは聞かず、ミレオミールは先ず「怪我は?」と聞いた。戦闘中から徐々に酷くなった頭痛が由乃を苛んではいたが、これは怪我ではないので報告の必要はない。屁理屈を捏ねながら素直に「左脹脛がヤバイ」と伝えると、ミレオミールは少々瞳を険しくして、由乃の方へと駆け寄った。有無を言わさず由乃を横抱きにすると、教会の入り口まで連れて行く。微かな段差へ由乃を腰かけらせると、ミレオミールは抉れて赤く染まった白いブーツをじっくりと確認した。
「脱がしていい?」
「うえ、やだ自分で脱ぐ」
「靴下も」
「はいはい……ううぅ、やだなぁ見たくない」
うだうだと嫌がりつつも、由乃は慎重に言われた二つを脱ぎ、素肌を晒した。ミレオミールはその脚を持って傷の様子を確認すると、どこから取り出したかも解らない消毒とガーゼと包帯で完璧に手当てを終わらせる。最後に由乃の額に手を置いて、一秒もせずにその手を離す。一気に頭痛が引いて、漫ろな思考が精密に稼働する。由乃が礼を言う間もなく「帰ったら老医師のとこに顔出すぞ」と言うが、最早それも必要無さそうな手際である。
「……で、ユノ。本来なら一番最初に聞かなきゃいけなかったんだろうけど……」
そう前置きし、ミレオミールは頭を掻いた。
由乃は魔法で直してもらった靴下――膝上まであるオーバーニーソックスなのだが、ミレオミールは長さに伴う名称の変化を知らないし、面倒なので由乃も教えるつもりが無い――とブーツを、怪我に障らないように履きながら、彼の言葉を待つ。まぁ、予測も付くのだが、それでも。
「それ、何」
それ、と指さされたのは――由乃の隣で横たわる、白銀の大きな鎌の事だ。
由乃の身の丈よりも一回り大きい。由乃の知る所の『死神の鎌』と呼称されそうな、人に余る凶器である。
当然、由乃はそんな物持っては来なかった。教会で見つけた『罪人の鎌』も既に元通り埋められていたし、持ち出したりもしていない。それに、色も違う。だが、その大きさも、形状も、確かによく似ていた。違うと言えば、装飾くらいだろうか。白い十字に荊。
それは、勇者の剣と同じ。
「……うー……」
由乃は唸る。これについては、由乃も中々説明がし難いのだ。如何伝えれば良いのか解らない。
「えぇと……気付いたらこうなってたと言いますか……気付いたらこれ持ってたと言いますか……ね、ねぇ、これ、私怒られるかな……エト様はともかく、ナイル様にお説教とか…………!?」
「待って、待て待て。要領を得てない。なんなんだ。これ、勇者の剣なわけ?」
由乃はミレオミールの首元に掴みかかり、その身体を前後に揺らした。力は微弱なので、ミレオミールの身体ではなく、由乃の身体の方が小さく揺れる始末だったが。
ミレオミールは由乃の動転具合から、上手く彼女の言わんとすることを理解する。
つまり、今由乃の隣にある白銀の美しい大鎌は、勇者の剣、と言う事だ。
由乃は首を振り、「わからない」と言った。
「いや、もうホント、虫キモくて、無理で、無理やだ死ぬって思ってたら……いや、思ってて、そんで黒くて紫だったから『あ、これ魔獣か!?』って脳の冷静な部分が考えてて、それなら剣でどうにかならぁって思ってテキトーにブンブン振りまわしてたら、見事虫は消えたでしょ? 序に背後から迫る大型さんも危険だったことを思い出して、まぁ振って、リーチ足りなくね? って思いもしたんだけどどうにかなって、ちょっと放心してたら――手に持ってた筈の剣がコレよ!? もう意味分かんない! やだ、ナイル様に怒られるうぅ」
「解った解った。落ちつけ。落ちついて、ユノ」
ミレオミールの胸元に弱い頭突きをかまし、由乃が項垂れる。ミレオミールはそんな由乃の肩を叩き、宥める様にゆっくりと背中を撫でた。
ナイルの説教ごとき、由乃も慣れた物ではある。喧嘩も上等。だが、覚悟の上の罪と、言われなき罪では心構えに違いがあった。常に確信犯的な由乃は、自覚のない説教には滅法弱いのだ。
嫌だな、と由乃は思う。けれど、再度虫型魔獣と戦えと言われるよりはマシだ。否、それこそ、いつか必ず再び、三度と顔を合わせなくてはならないのだろうが、今は考えたくない事態だった。恐怖は一日一度でも過剰摂取なくらいなのだから。
「ところでユノ」
項垂れた由乃を、ミレオミールが呼ぶ。
精神的にかなり持ち直してきた由乃は、「あいよ」と返事をし、顔を上げた。ミレオミールの上着の白いシャツが、ぐしゃりと皺になっている。申し訳ないと思いつつ、まぁ、ミレオミールならば自分で何とかするか、と由乃はあまり気にせずその手を放した。
「なんでしょうか」
「うん。その変わり身の早さ。もう平気そうだ」
言いながら、ミレオミールは由乃の頭に手を置いた。撫でるでもなく、頭を掴んで緩く揺する。ミレオミール自身が解消させたからと言って、先程まで頭痛を患っていた人間に何をするのか。脳が揺れる感覚がする。実際揺れていたら、もっと大事なのだろうが。
「やめて。で、なんなの」
「うん、ちょっと」
そこで言葉を切り、ミレオミールは由乃の腰へと手を伸ばした。そこに携えられた、剣の鞘。勿論空の状態で保たれている鞘は、戦闘中に扱われもするが、その都度確りと腰に戻される。理由は、使わない時は邪魔だからだ。
ミレオミールは鞘を取り外し、暫し観察をした。由乃が首を傾げていれば、それを由乃に突き付け、へらりといつもの隙のない笑顔を浮かべた。
それを受け取りつつも、由乃は首を傾げるばかりだ。ミレオミールは隣の剣を指さし、「それ」と言った。
「仕舞ってみれば?」
「…………は?」
由乃は、たっぷりとした間を持って、彼の言葉に応える。
この男は今何を言った? 鎌を、剣の鞘へ?
由乃は首を振り、序に溢れんばかりの気持ちをさらに両手を振ることで表した。
「いやいやいや、どう仕舞うっての。これ鎌だし、大きさも合わないというか……流石にアレでしょうよ」
如何見ても無理だろう。由乃はそれを語る。
先ず鞘に収まる形をしていないし、何処から鞘へ納めれば良いかも解らない。刃の先から? それとも、剣を仕舞う時のように、真っ直ぐ収めて行けばいいのか?
けれど、ミレオミールの思いつきを、頭から否定することは出来ない。彼は由乃よりも数段に頭がキレるし、何より魔法に詳しい。由乃の持つ勇者の剣は、魔法のかかった所謂『魔剣』である。勇者の剣なのに、『魔剣』である。その事実が、大魔術師にして大魔導師であるミレオミールの言葉を無視できない物にしていた。何故、ととりあえず問いかけてみれば、ミレオミールは苦笑した。
「何故って……ユノ、元々この剣、鞘に収まる長さなんてしてないだろ」
「…………う……うん」
「でも、ユノは毎回鞘にちゃんと収めてる。剣が鞘に収まらない事態なんて、過去体験した事がない。それに、元々この剣は、形を変えるモノだ。ユノの場合、それが剣という形にすら収まってない。それだけなんじゃないの?」
「そ、それだけ……」
けろり、とミレオミールは言い放つ。責めるどころか、愉しげな様子で。
恐らく、彼の内側ではこうして剣が形を変えるメカニズム――構築式の組まれ方が気になって仕方がないのだろう。
彼の好奇心は、主に魔法関連の事柄だ。関係さえあれば幅広く知識を蓄えるが、根本はやはり魔法。優に三桁の時を生きていると言うのに、まだまだ蓄えられていない知識があると言う事実。そちらの方が、由乃からしたら果ての見えない底なし沼のような話ではあるのだが。
溜息を吐き、由乃は鞘を左手に、鎌を右手に持つ。鎌は勇者の剣同様、それほど重さを感じる事はなかった。手に馴染んだ感覚が、大鎌が勇者の剣であることを主張する。まるで由乃のために誂えたのではないかと錯覚するほどの武器だ。由乃もこれが勇者の剣であるという事実を疑うつもりは一切なかった。
「て言うか」
ミレオミールが、こてんと首を傾げた。
「それが勇者の剣で鎌に変形したっていうなら、由乃に因って元に戻す事も可能何じゃない?」
「……」
ごもっとも。そして盲点。
その二つが脳に瞬時に浮かぶが、由乃には些か自信が欠けていた。
だって、ずっと持っていたのだ。虫型の魔獣を薙ぎ払い、大型魔獣も光に変え、残った魔獣も、剣よりも長くなったリーチで自身を守りながら戦う余裕が出来、一人でどうにかなった。それから間もなくミレオミールが帰還し、怪我の手当てを受け、今。
由乃は履物を着脱する時以外、鎌を手放してはいない。鎌が剣に戻る事はなく、ずっと鎌のままだった。
ミレオミールの言葉には信を置く事が出来るのだが、奈何せん、由乃には自信が足りていない。
ミレオミールは、由乃の肩に手を置いた。
「此処でユノがそれを証明すれば、可能性が広がる」
戦いの幅。勇者の剣そのものの価値。そして応用。
その通りではある。だが、如何してこうなったのか、由乃にも解らない。最早自棄糞気味に由乃は鎌を両手に持ち、「戻れ戻れ剣に戻れ……」と目を瞑って念じ始めた。
手の内に在る質量。直径三センチ程度の真円が――静かに、角の緩い長方形へと変わった。
変化を肌で感じ、由乃は目を瞠った。いや、待て、今何が起こった、と驚愕する暇も無く、ミレオミールが由乃を呼び、肩を抱いて顳顬当たりに頬ずりをした。
「やったなユノ! 如何やったかは知らないが、剣はお前の心に反応して姿を変える! 今まで抜いた瞬間形を変える記述はあったけど、自由自在に変化が可能ってのは初めて聞いた! これは面白いぞ、ユノ! 流石! 俺が選んだ勇者だけのことはある!」
「にゃーっはいはいどうも有難う離れろ!」
只管にテンションが上がっているらしいミレオミールを引き剥がし、剣を鞘へと仕舞った。例え人物を傷つけることがなくとも、剣が魔法を断ちきるのなら、ミレオミールが自身に掛けた、命を永らえさせている魔法や、老いを遠ざけている魔法等も破壊しかねない。魔法、というか、そのために勝手に働いている魔力を散らしてしまうかもしれない。そう思っての配慮だったが、気付いたミレオミールは、満面の笑みのまま「馬鹿だな」と言った。
「『ソレ』は、ユノが切りたい物以外切らない……と、思うよ。ユノに抜いてもらって剣を確かめた時、俺は刃にも触れている。傷一つないし、構築式が壊された様子もなかった。勿論、魔力を霧散させられたような感覚も、ね。エトワールも刃に触ってた事、あるだろう?」
「……そういやそうね」
「うん。本当に『ユノが切りたい物だけ』を選別しているかどうかは別として、例外があることは確かだ。だから、あんまり気にしすぎなくて良い」
言いながら、ミレオミールは由乃の頭を撫でる。彼はその動作が好きなのだろう。由乃をからかう時、説教する時、今の様に、諭す様に言葉を紡ぐ時。所作に差はあれど、彼は由乃の頭か肩か背中、時折頬を抓る等の動作で触れてくる。
父親を思い出して悪い気はしない由乃だが、これだけ異性に――決して異性として見られていないとしても――難なく触れてくるこの男を、少し恐ろしいなと感じてもいた。彼に恋人が出来た時、彼は恋人以外の人間に触れずに居られるのだろうか、と。
過去にも未来にも気配のない空想上の彼女Aとの関係を心配しながら、由乃は思考を元に戻す。
「……うーん、気持ち的には追いつかなそうだけど、了承しとく」
「英断だな」
最後にポン、と軽く頭を叩くと、ミレオミールは立ちあがった。
そして振り向き、由乃へと手を差し伸べる。
「帰ろう、ユノ。此処にはもう用はない」
由乃も手を取り、傷を刺激しないよう、傷のない足と腕の力、そしてミレオミールの力に頼り、ゆっくりと腰を上げた。じわりと鈍痛を訴え続ける傷は、動きによって時折鋭い痛みに変わり、帰路の辛さを伝えてくる。オマケに、周囲は森だ。溜息以外の選択肢はなく、由乃は項垂れた。
そして、思い出す。
「そういえば、ミオ、教会に結界張ったでしょ。魔獣たちも教会を狙ってたし……アレはいいの? 勇者なら、そういうのの原因も、潰しておきたい気持ちに一票」
挙手して主張すれば、やはりミレオミールは微笑んだ。
「それは良いよ。あいつらの目的は、『罪人の鎌』だから」
「……あの鎌? なら、それこそ持ち帰って城に封印した方が良くない? 今ここには、水霊『ネロ』の御加護がないわけだし……というか、『ネロ』持ち帰っちゃうわけだし」
奇しくも、それは由乃の鏡に収まって。
「心配はないだろう。俺が丹精込めて作った、三重の高性能結界の内に封印したんだ。あれを解かれたら、俺も本気で魔王に対する認識を改めざるを得ない。その辺の魔獣や魔人程度に解かれるような優しい魔法を扱う気はないし、魔法に関しては、俺は俺が頂点であると自覚してる。魔王ですら跪く程の、最高の大魔術師様である、とね」
胸を張ったり、自慢げな様子は彼にはない。
ただ不満げに、さも当然であるかのように告げた。事実、ミレオミールの中では当然なのだろう。
けれど、魔法は元々彼等の物だ。いくらミレオミールが魔法に対する理解が深く、魔力量が人に比べて破壊的に多く、普通よりも格段長く生きているとしても。魔王よりも強い、等という事が、本当にあり得るのだろうか。
「……信じてない」
由乃の表情を見て、ミレオミールが察したように溜息を吐く。嘆かわしい、と言わんばかりのわざとらしい態度に、若干腹が立つのを由乃は感じた。
由乃の様子を見て、彼はまた苦笑する。「心配ないよ」と言いながら、腰のポケットをまさぐった。
由乃に手を出す様に指示し、掌を空へ向けて待機する由乃のそこに、彼は自身の手を重ねた。
彼の手に隠れて何も見えないが、由乃の掌に、硬質の何かが置かれている。首を捻ると、ミレオミールは笑いながら手を退け、それは露になった。
「……宝石?」
由乃の手に在ったのは、赤色の宝石だ。解り易いルビーか、ガーネットか。それとも、この国特有の鉱石か。
由乃が陽に透かしてそれを確認すると、ミレオミールは「そう」と首肯した。
「奴らの目的は、それだ。それ、見覚えない?」
「…………んー」
先程、目的は鎌だと言った。けれど今、ミレオミールはこの宝石が目的だと告げている。そこで思い起こされるのは――『罪人の鎌』に装飾されていた、赤い宝石。
楕円のそれは、確かにそれと同等くらいの大きさだが。
「…………」
いつの間に盗ったのだろう。
ミレオミールが鎌を戻したのが最初、見つけた時。鏡にネロが入ってから、悪用されないようにと鎌に封印を掛けていたのが先程。戦闘が始まる前の、教会から出る直前。
その時床の隠し板は開けられておらず、その上からミレオミールは封印魔法をかけていたわけで。そして、最初に戻した時、確かに宝石は収まったままだったわけで。
「その宝石は、ユノが戦ってる間に抜いておいた」
この男、抜かしやがる。
人が必死に戦っている間に、何を悠長な事をしているのだ。由乃が無意識に鋭い瞳で睨みつけると、彼は眉をハの字に下げ、申し訳なさそうに笑って「ごめん」と言った。
「何の目的もなく、態々魔獣が送り込まれる筈もない。ここに人が居ないのなら、尚更な。態々大量に使いを寄こしたんだ。なら、ここには目的があるって事になる。そして、ネロの加護が、存在がそこになくなっても教会を狙った愚行……あいつらの目的が、ネロの殲滅でもない事は明白。なら何か、と考えた時、鎌にその宝石が付いている事を思い出してね」
由乃は沈黙を守って聞く。相槌は頷くだけに留め、自身の声を挟まない。
「宝石は、ユノが鏡に水霊を宿したのと同じように、魔力を含むその他神聖な力を宿し易い。本来なら水霊も鏡よりも宝石何かに宿らせる方が安定するんだ。ユノにも解ると思うんだけど、鏡に移ってから、ネロの力が激減しただろう? それは、ネロが埋められた鎌の装飾であるその宝石に蓄えられた、神聖な気によって力を増幅させていたからだ。それ失くしてネロはあれほどの力を持つ事は出来ず、同時に、それが敵を引きつけた」
理解できてる? とミレオミールは聞く。
由乃は「大方」と答え、ミレオミールは苦笑した。
「教会の地中に強い力を蓄えた宝石があった。それを利用し、祈りに来る人も消えた力弱い水霊が、身に合わない結界を張っていた。魔人か魔王か、誰かがそれに気付き、その力の源を欲して魔獣達を派遣した……そんな感じかな」
「……何と言うか、神聖な気を求める魔王の図に……違和感しか感じない」
魔族だけを拒否していた結界だ。それはつまり、宝石に蓄えられた気が、魔法に対抗し得るものだからではないのだろうか。
由乃の疑問に、ミレオミールはきょとんと瞳を丸くして、ついであははと笑った。
「ユノは……何と言うか、やっぱり……うん。面白いな」
何も面白い事を言った気はなかったのだが、ミレオミールは笑う。「そのへんの話は、また今度」と言い、宝石を取り上げ――どうやら、こちらにも厳重な封印を施してあるらしい――仕舞う。再び由乃の手を取り、
「帰ろっか」
とミレオミールは由乃の手を引いた。
「――そういえば、『ハナ』って誰?」
酷く遅い質問に、由乃は一瞬合点がいかず、答えあぐねた。
「……あぁ、兄貴」
合点が行って、さっぱりと告げる。それ以上に述べられる事もなく、酷く簡潔とした回答に、ミレオミールは思いの外あっさりと興味を失くした。
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