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勇者伝説  作者: 之木下
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「――へ?」

白銀の髪を持つ美しい青年は、その美しさに見合わない間抜けた表情で、只管脳内で言葉を反芻した。

腕を組み、足を組み、ふてぶてしく、不機嫌そうな表情で――目の前の少女は、何と、言った?


「……ちょっと、ナイル様、聞いてます?」

ナイル――それが青年の名前だ。

このカルロディウス国のトップである、十二神将の一人であった。

ちなみに、この『十二神将』という名。これはナイルの目の前で不機嫌真っ只中の少女が考えた物である。元々、正式な名前を所持してはいなかったが、少女に説明をする時「この国の一端を担う十二柱の内の一人――」と前置きしていたら、少女が呆れたように「それもう良いです。長い。枕詞長すぎですわ。いみわからんし。しかも柱って何ですか。神かよ。人柱かよ。縁起悪いし数的にあれだし――そうですね、私は十二神将とでも呼ばせていただきます」と言いだしたのが原因となる。


そんな話はともかく、ナイルは一応、少女の言葉に返事をした。

気の無いものにはなったが、それが今の彼の精一杯だったのだから、仕方が無い。

少女は不満げに小さくナイルを睨み、口を開く。

「……だから、今言った通りです」

言った通り、と言われても。

この衝撃を、誰にどう伝えればいいのだろう。誰にも解らない程度にうろたえて、彷徨わせた瞳に映ったのは、少女の後ろに、付き添うように立っていた青年だった。


どうして彼と、少女が一緒に居るのだろう。

ナイルは初め、それが不思議でならなかった。が、展開はこうだ。

そんな小さな疑問は吹き飛ばされ、ナイルの反応に、少女の後ろで青年が肩を震わせ、口元を押さえて必死に笑いをこらえている。

相変わらず、失礼で緊張感に欠けるやつである。


「……ちょっとナイル様、もー!聞いてますう!?」

「えっあ、あぁ、すまない」

「すまない、じゃないですよ。やめますよ?いーんですよ私、最初っからやりたくなかったしですし」

「いや、それは困る」

癇癪を起こし、敬語に無理が出始めた少女を、いつもの癖でやんわりと制したつもりが、相変わらずの口調は、簡潔が故の冷たさを伴って少女と青年に届いた。

遂に「あっはは」と声を上げて笑い始めた背後の青年を睨みつつも、顔はちゃんとナイルの方を向いたまま、少女は椅子の上で膝を抱えた。


少女の発言は、ナイルが今まで待ち望んでいたものだった。

けれど、それは少女がずっと逃げ続けてきたことでもあった。

後ろの男は何も言わないし、少女もこれ以上言葉を続けたくないようで、膝に顔をうずめてしまう。

笑い、震えながら、男が少女の頭を無遠慮に撫でる。少女は気にしていない様で、少し乱れた頭を直す動きも見せない。

男は滲んだ涙を指先で拭いつつ、ナイルの方へと近寄る。ナイルの肩にぽんと手を置いて、少しだけ顔を近づける。


「城下で、色々あったらしい」

人間と。

彼はそう言う。その報告は、ナイルの耳にも届いていた。

『色々あったんだ――お嬢ちゃんは、良く頑張ってたよ』

城下の町民と、ひと騒動。山中で子供達と遊んでいた時に、タイミング悪くやって来たゴロツキ。それを、少女がたった一人で対峙し――退治した。


「人と争ったことなんて無いガキが、子供守るために、必死になって剣を抜いた――『ユノ』だって、ちゃんと考えて、選んだんだ。お前も、甘えるだけじゃなくて、覚悟決めてやれよ」


肩に乗った手に、少しだけ力を込めて。

言葉が終わると、もう一度ぽんと、今度は優しく肩を叩き、そのまま装飾具を鳴らして、ナイルの後ろの扉から出て行ってしまった。

残されたのは、少女とナイルのみ。


(それはともかく、『ユノ』って……何だ?)

疑問を見つけると、放って置けなくなる性質なのは、ナイルの長所であり短所だった。

参謀としては、不確定要素を排除しようとする長所なのだが、この場においては、どうでもいいことこの上ない。

それを理解しているため、ナイルは意識的に好奇心を排除し、椅子に座る少女に対峙する。


目前に跪き、見えないけれど、お互いの視線を同じ高さに合わせ。

乱れた頭に手を置き、変に飛び出した髪の毛をそっと撫でつける。

「……本当に、良いんだな」

確認するようにナイルが問えば、小さく「うん」と肯定が響いた。

ゆっくりと顔を上げた少女の瞳は――良く見ると、ほんの少し、赤く、腫れていた。


「良い。やる、やりますよ。女に二言はありますけど、私はやると言ったら、多分きっとやり遂げてくれるかなと思います。だから――」



私、『勇者』やります。



酷くふんわりした、他人行儀の「やり遂げる」ではあったが、それでも。


「ヨシノ」


ナイルは少女の手に自身の手を重ね、

「ありがとう……よろしく頼む」

言葉以上に心をこめて、ただそれだけを吐き出した。



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