計画
戦闘まだです
暇だった。
最初こそ、楽で給料の良い仕事に喜んだが、この田舎具合である。
日中は都心部か、自身の持つ畑や小さな店方に人が行ってしまうし、田舎でもど真ん中な位置にあるので、ある程度の人の行き来を覚悟していたが、予想を裏切り、出会った歩行者の数は未だ零である。
人が来たら低い塀に一人が隠れ、一人が玄関の内側に戻り待機。最後の一人でやって来た相手を上手い事穏便に追い返し、屋敷に人を近付けない手はずだったのだが。
「……暇だなぁ……」
青い空が憎らしい。地上は風も無いのに駆け足で流れていく白い雲を眺めると、長閑で穏やかな雰囲気に、凶悪な眠気が襲いかかる。
振り払うように敢えて紡いだ言葉は、同じくうつらうつらと舟を漕いでいる男たちからの同意を、見事に得ることができた。
「……つーか、こんなとこに三人で並んでる時点で、人は近寄らねーんじゃねーか?」
「俺たち、見るからに怪しいもんな」
「俺たちが怪しいんじゃなくて、こんな田舎に、見ず知らずの男が三人、家の前で屯してんのが怪しいんだろ」
一応訂正を加える。自身がカッコイイなどとは思っていなかったが、一目見て怪しいと断言されるほど、男の容姿は悪い物ではない筈だからだ。
そう信じたいだけかもしれないが、自分を信じてやるのは、やはり大切なことである。
「つーかこれ、いつまでやってりゃいーんだっけ?」
疑問を呈したのは、塀の内側から腰かけて、眠そうに体を傾げている奴だった。もう眠くて無理、と大きな欠伸をしつつ、それでも寝ない様にと、ぶんぶんと頭を振った。
塀に凭れて座り込んでいる奴が、同じように首を振る。こちらは否定だった。
「俺が知るかよ」
「俺もシラネー」
「……金払いが良いうえに、頼まれたのは見張り。どうにも撃退でき無さそうな奴でも、武器持ってりゃ、この田舎ならそれだけで怯えて逃げてくっつーから、とりあえずこれ見よがしに武器も備えてんのにな」
「……武器っつーか、お前のそれ、ただの棒じゃねーか」
「バッカだなー。これは棍っつってな?由緒正しい棒術の一種なんだとよ」
「扱えれば、だろ」
「長い棒はそれだけで武器になるだろ」
「武器なんて扱ったことねー癖に」
「俺たちにはスコップか鍬がお似合いだな」
「ほんとにな。間違って俺たちまで巻き込むんで殴るなよ」
はははと笑う声にも、元気は無い。次第に「は」が「あ」に替わり、大きな欠伸となって世に放たれる。
金払いが良いから飛び付いた仕事。
人通りは無く、眠くて仕方ないが、これでは割に合わない、とも思う。
(家の前で見張り――人が来たら追い返す。どうしても帰らないようなら『あいつら』を呼んで脅してお帰りいただく。たったそれだけの仕事で、しかもこの人気の無さで、あんだけ金がもらえる、か)
どうにもキナ臭い。今になって、男はそのあたりを真剣に考えた。
首都でなら、仕事にあぶれる事は無いと思っていた。
都市から遠いという点では、この田舎よりももっと田舎から出てきた男は、都会の空気と言うか、人の多さにと言うか、とにかく、何かがどうにも馴染めなかった。
違和感が付きまとい、ここが自身の居場所では無いと言う錯覚は日に日に膨れ上がる。取り残されて行くような感覚に苛まれながら、似たような境遇の二人と出会い、少々金が要り様になり必死になって職を探して、やっと見つけられたのが、このキナ臭いが金払いだけは無駄に良い、一日限りの謎の見張り仕事だけ、である。
「…………」
後頭部をばりばりと大雑把に掻きながら、男は思う。
(次からは、金払いはアレでも、もっと真っ当で三人で働ける職場を探そう)
まだ出会って日は浅いが、共通点の多さから、最早他人と言う気はこれっぽっちもしない。友人という域を超え、親友である。
「……おじさんおじさん、何してらっしゃるんです?」
「あ?」
降ってわいたような、突然の少女の来訪に、塀に腰かけていた男は、反応が遅れてしまった。
咄嗟に確認すれば、内側から腰かけていた男は消えていて、外側から凭れて眠そうにしていた奴は、塀の陰に隠れていた。
男だけが気付くのが遅れ、取り残されていたらしい。
気を取り直し、気前よく笑いながら、塀から立ち上がる。
「よ、お嬢ちゃんは、この辺の子かい?」
「お嬢ちゃん……私、女の子に見えます?」
「?あぁ、見えるが……」
ワントーン上がって嬉しそうに問う人懐っこい少女に、男は少したじろいだ。何が嬉しいかは不明だ。が、よくよく見てみれば、確かに少女は、女性と称するには些か違和感を禁じえない恰好をしていた。どう見ても、その服装は男性――少年のそれである。
声色、四肢や体の細さ、三つ編みにされた長い髪、少年と呼ぶには可愛さの勝る顔つきから、男は少女を『お嬢ちゃん』と認識したのだが。
「えへへへ、おじさん良い人ですね」
合っているらしいし、善良な人間として認識されたようだった。
「で、おじさんは、何をしてらっしゃるんですか?」
質問が戻ってきた。
何をしているのかと問われれば、仕事であり、見張りだ。
だがそうと馬鹿正直に告げて良い物でも無い。男の仕事は、あくまで『穏便に』来訪者を追い払うことなのだから。
それともう一つ、男には別に、少女に言わなくてはならないことがあった。
「『お・に・い・さ・ん』ね!今ちょっとね、このお家に用事があって来たんだけど、家主さんがお留守らしくてさぁー、お帰りを待ってるとこなんだよ」
「なるほどです」
少女は納得したようにうんうんと頷く。
これは楽勝そうだ。男はそう思い、塀に隠れた一人に目配せをした。
と言うか、塀は低いし、男が隠すようにしているとはいえ、少女は全く気付かない。
そういうものなのだろうか。こんな田舎では、顔を知らない人物と言うだけで不審だし、人の家の前に屯している見知らぬ男など、不審以外の何物でもない。
それは先ほど友人たちとした会話の中でも解るものであり、田舎暮らしとはそう言う物なのである。
それを男も理解したうえでの見張り。
けれども、田舎の子供の人懐っこさと、一度話して悪い印象を覚えなかった相手への打ち解け方も、馬鹿にできないものなのである。
男が見た限り、少女は十三から十六あたりの年齢であろうと予測された。
身長は低めなことと、邪気の無さ。けれども発育の方も視野に入れてやるとするならば、最高でも十六が限界だろう。
「お嬢ちゃんは、この辺の子?」
「はい、一応」
一応?男は首を傾げたが、少女は只管笑顔で、男の次の台詞を待っているようだった。
沈黙と笑顔に押されつつ、男も表情に笑みを引っ張ってくる。
「どの辺に、住んでるんだ?」
「えっと、人がいっぱいいるとこです」
「この辺、人少ないでしょ」
「都市の方と比べますと、ですね。それは、仕方ないですよ」
苦笑する少女は、田舎という場の不人気さを良く理解した物だった。
特に、この田舎は都市に近い。そこに自然しか無ければ、人々はそこに住むしかない。けれど、便利が近く、そちらに移住することを、充分に視野に入れられるのが、この町だ。
見せつけられる利便は、劣等感という、粘性のある泥のようにへばりつく毒だ。
(……やだな……)
男自身、自分の故郷が好きでは無かった。
医者はおらず、男の母は、田舎故に早くに亡くなった。父はどうとも言ってはいなかったが、それが男に苛立ちを齎した。
父が、母を連れて都会に移住していれば。医者が町にいれば。貴族や魔族のように魔法が使えれば。自身の頭が良ければ。魔獣など出なければ。魔王などいなければ。
色々な事が自身の頭を駆け巡り、男は田舎から出て行った。
男と父親、そして弟や妹たちが慎ましく暮らして行くにも、父の稼ぎでは追いつかない。食いぶちを減らし、尚且つ自身は嫌いな田舎から出て行くことができる。
それは酷く魅惑的な提案で、弟と妹の悲しげな視線にのみ後ろ髪を引かれたが、どちらかと言えば期待と興奮に満ちて、男は首都へとやってきた。
だが、このザマである。
仕事は得られず、犯罪を匂わせることに手を出し、空を睨んでは故郷を思い出し、母の面影に囚われる。
――育った場所とは、きっと、人は一生、呪いのように繋がり続けるのだろう。
どんなに遠く離れても、男はいつか、彼の地の土を、再度踏む事になるのだ。
それは、予想でも予感でも無い、確信だった。
思いもよらない望郷の念にかられていると、少女が「おじ……おにいさん?」と、鏡のように顔の映り込みそうな真っ黒な瞳を丸くして、男を覗きこむ。
「いや、済まない……何でも無いんだ」
「そう、ですか。まぁ、聞きません。それが大人というものですから」
「大人かぁ……」
男はいつ大人になっただろう。今ではもう思い出せなかった。
ただ、目の前で胸を張る少女が、未だ大人に幻滅せず、憧れを抱いてる姿を見て、胸に渦巻いた暗い感情が、幾許かの光に照らされたような気がした。
暖かい。この娘は。
弟や妹のような、守るべき対象。
守られるべき弱者であり、未来を担う、新しい時代の人間、だ。
「それで」
少女は背に両腕を回し、自身の肘を抱いた。覗きこむような上目遣いが愛らしく、顔立ちは平凡なのに、人をどきりとさせる見透かしたような瞳を持っているなと、男は思った。
「私も、このお家に用事があるのですが……」
「あぁ、そうなのか。でも、家主はいないよ?俺、午前中からずっと待ってるけど、帰ってくる気配が全く無いんだ」
「えっそんな……」
そう言うと、少女は不安そうに眉を顰め、顎に手を添えて、何事かを考えるような素振りを見せた。
そう長くもない時間、彼女はそうしていた。
そしてゆっくりと顔を上げ、相変わらぬ表情で、口を開いた。
「もしかして……このお家の人、亡くなられていらっしゃるのでは?」
「……――は?」
虚を突かれ、男は茫然としてしまった。
それでも少女は、男の脇をすり抜けて扉に走ることは無く、男に「だって」と言葉を募った。
「だって、おじさ――おにいさん、ずっとここに居らっしゃるんでしょ?午前から。帰ってこないなんて、おかしいです。旅行に行ったって話も聞いて無いし、昨日はまだここに居たって聞いたし、旅行に出る話も、都市に出たって話も聞いてません」
情報通らしい少女の捲し立てに、男は半歩後ずさる。が、後ろは背の低い塀だ。転ばなかったのは良かったとして、うっかりすれば、奥に隠れる男の上に転がり乗ってしまう可能性もある。
かっこ悪いし無様だし、何よりもう一人の男の存在がバレる。
そんなことがあれば、少女と喋っていた男も、少女に不審な物として映ってしまうことだろう。
それは避けたかった。
少女に嫌われたくないとか、そんな子供じみた理由でなく、彼女が男たちを訝しみ、憲兵に話をされることを、男は恐れていたのだ。
少女の声は大きく、恐らく、この外のやりとりは内部にまで聞こえていることだろう。依頼主はともかく、玄関に待機している男は、恐らく。
どうにかしなければまずい。ケチを付けられて金額を減らされたら、堪らない。
男は少女を宥めるように苦笑し、どうにか頭をフル回転させた。
「そんなことは無いよ。実はお兄さん、一度会ってるんだ」
「へ?」
少女の勢いが削がれ、急停止。きょとんと首を傾げる様子は子供そのもので、けれども相手の言葉を待ち、自身で考える姿勢を持つところは、きちんと分別がついていると言えた。
「来た時にね、入れ違いになったんだ。お兄さんの用事は長くなっちゃうから、帰ってきたら話そうってだけ言い合って、でも遅くなるからって、家主さんが、ね」
「……そうですか」
あからさまにホッと息を吐く少女。
嘘を吐いた罪悪感と、任務を遂行できた安心感に満たされ、男も、少女に気付かれない程度に息を吐いた。
「うん、でも、まだかかるみたいだからさ、お嬢ちゃんは、今日はお家にお帰り。お使いとかでも、ご両親に話せば、きっと解ってくれるよ」
「……おじにいさん、私のこと馬鹿にしてますね。私、そんなに小さな子供じゃないですよ」
度々直されてはいたが、ついに『おじさん』と『お兄さん』が合体してしまった。
半目で睨む少女には、そんなに迫力は無い。少し機嫌を損ねた程度、だろう。
「いくつか聞きたいことがあります。よろしいですか?」
ぱっと表情を変え、少女は無邪気を装った、大人の様な顔で男に訊ねた。
疑問符が最後についてはいたが、それはほぼ強制的な言葉である。ここで否と唱えようものなら、男は一体どうなるのだろう。
少し気になったが、悪魔の誘惑に抗い、身震いする体が示す最善を選んだ男は一つ頷いた。
少女の笑顔は無邪気だが、やはりどこか、恐ろしい。
「では、先ず一つ目。出がけの家主にお会いになったとおっしゃいましたね。帰りは遅くなると言われた。それがあなたの意見ですね」
「そう、だな。……そうだが、なんで?」
「事実の確認です。必要なことなので」
人差し指を天に向け、とても楽しそうに彼女は微笑んでいた。気になったからそれを問えば、「今私、不謹慎ながらすっごく楽しいのですよ」と素直に答えた。
「では、それに関して、いくつか。えっと、お会いになって、帰りは遅くなると言われ、あなたはここで待った」
「そうだ」
「お会いになった時、質問はなさいましたか?」
「いや……えっと、『今から出るのか?』とかは、聞いた、な」
「是非正確に、会話の流れをお教えいただけますか」
「…………」
少女は一体何がしたいのだろう。男には、全くそれがわからなかった。
少女は、このやりとりが楽しいと言う。不謹慎ながら。
今更ながら、男は背中にうっすらと汗をかいた。
何か、とんでもないものを掘り当ててしまったような。呪われた魔法具をウッカリ装備してしまったかのような。
「…………」
顎に手を当てて、少し汚れてしまった髭を撫でつける。会話を思い出しているのだと、勘違いしていてくれればいい。正確には、今男の脳内で、会話文を作り上げているところだ。
「――まとめると、こうだな。
『よぉ旦那!久しぶりだな。どっかにお出かけかい?』
『あぁ、家族みんなでね。少々都市部まで足を運ぼうかと』
『そっか、それは……』
『何か用だったのか?』
『あぁ、ちょっとばかし、な』
『直ぐ済む話か?』
『いや、悪い。結構時間を食う話でさ』
『じゃあ、帰ってから聞こう。午後を――下手したら夜になってしまうかもしれないが、それでも良いだろうか』
『あぁ、構わない!恩に着るよ!』
『何、昔馴染じゃないか。……じゃあ、悪いな。また後で』
『おう、後で』
――って別れて、他にこの町に知り合いもいないし、土地勘も無いし、ここで待つ事にした。それだけだよ」
脳内で作成した内容を会話形式で話し聞かせれば、少女はぱちぱちと楽しそうに拍手をした。
「わぁ、声真似良いですね。おじいさん面白いです」
「ついにお爺さんになったかー」
最早直す気は無い。少女も、この男で遊んでいるだけなのだろう。
「ではでは次の質問です」
「……はい」
やっぱり続くのか、と男は肩を落とす。
見張りの仕事は暇が多く眠かったし、少女の相手をするのは嫌では無い。
けれど、隠し事をし、嘘をし続けるには、男は少々優しすぎた。
幼気な(?)少女を騙し、自身の仕事を遂行しなくてはならない状況。男にはやっと、これが金払いが良いだけの、簡単な仕事では無い事を悟った。いや、きっと依頼主も、こんな事態は想定していなかったと思うが。
少女の言葉はしっかりと続くし、男も少女に、さらなる嘘を重ねなければならない。
「会話の通りだとすると、こちらの旦那様とおじおにいさんは、どうやら旧知のようです」
「あぁ、まあな」
「『この町に知り合いはいない』」
「旦那以外はな」
少女は一旦言葉をとめ、顎に手を添えながら腕を組む。
男が首を傾げる間もなく少女は復活し、「では」と質問を変えた。
「旦那様は、ご家族で出られたんですか?誰もお家には、残らなかったと」
「あぁ。嫁さんと、息子さんに、娘さん、だったかな」
これは正しい。男はこの家の情報をほとんど知らされてはいなかったが、追い返す時に齟齬ができてはならないと、基本的な家族構成は聞かされていた。
情報から鑑みて、『昔馴染で訊ねてきたが留守だったから待ってる』というのを徹底する話は、昨夜三人で相談して、既に決まっていることだったのだ。
「ほうほう、なるほど」
「……なぁお嬢ちゃん、もしかして、俺のこと、不審人物だと思ってる?」
「あら、自ら名乗ってくださるんです?」
ばっちり思っているらしい。
男は被っていた帽子の位置を直し、これ見よがしに肩を落とす。
何故か少女は嬉々とした表情で両手を合わせているのだが、男からしてみたら、この少女の方がよっぽど不審に思えはじめた。
「……お嬢ちゃんに、お兄さんが危ないやつに見えるのは仕方が無い。他所者だしな」
「いやいや、それだけじゃないですよ。実はですね、今日ここに、おばさまがお邪魔しているらしいのです」
「……おばさま?」
「はい」
少女はにっこりと、本当ににっこりと笑顔を作り、首をこてんと横に倒した。
可愛らしい仕草に、可愛らしい表情。
しかし、それは、急に終わりを告げた。
「お兄さん、私大体わかりました。お兄さんはアレですね、雇われただけの人ですね」
「えっ……」
少女は腕を組み、足を肩幅に広げ、凛と立っていた。
ぐんっと、年齢が急に上がった気がした。
十三歳程度の、あどけなさの残る少女では無く、大人として生きていくための心構えを持った、成人の女性に。
小柄な体躯は見せかけで、こちらこそが、本当の少女の姿――
「正面玄関見張りのお三方――お兄さん、お兄さんの後ろの人、玄関の人は、雇われさん。なら、この場から離れることをオススメします。中で何が起こっているのか知らなくて、尚且つ、犯罪に関わりたいと思わないのなら」
少女は右手を高く天へと掲げた。
そっくり変貌を遂げてしまった少女の雰囲気に圧倒され、動けないまま、男たちはむざむざ赤色が走り去るのを視界の端に捕えることしかできなかった。
(待て待て待て、そっちは――)
町の中心地。憲兵達の拠点があるところ。
まずいと思い、けれども少女のことも気がかりで、外れた視線を少女に戻そうとした瞬間。
「緊急事態発生!至急、戦闘要員を!!」
当たり前だが、ハッタリである。
少し高めの、それでも男性に聞こえなくも無い声が見張りの男の耳、そして、家の中で何事かをしている依頼主の耳にまでも届き――
玄関の扉が開く前に、既に少女は地を蹴っていた。




