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異能者の非常識な日常  作者: とりもち
第一章・おまけ
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3月8日 病室にて


 ~side レイ~ 2027年 3月8日



 叶未さんから連絡を受け、三竜会の壊滅が確実になった……そのちょっと後の話。




「――つまり、三竜会はもう脅威じゃないってこと?」


「そうなるな。残党も多少は居るだろうから完全に無害ってわけじゃないけど」


「そ、それでも十分ですよ……総力戦になるとか脅かすなんて、酷いです」


「だから信用ならない手だったんだって。成否はともかく、動くかどうかが分からなかったんだし」




 不用意に漏らして、過度な期待を抱かせるのは罪だと俺は思う。上げて落とすじゃないけど、出来ないことを吹聴するのは無能よりも性質が悪い。プライドとか、権威とか、見栄とか、そういうものは結果で勝ち取ればいいのだ。




「ふぅ~……手段は聞かないけど、さすが御門。黒いことやらせたら敵わないね」


「さりげなくディスってんじゃねぇよ」


「ね、ねぇ……つまり、どうなったの?」


「……今まで何を聞いていたんだ?」


「うぐっ……と、突然だったし、ポンポン進んだから……」


「まぁまぁ。白奈は素人なんだから、もう1回くらい説明してあげなよ」




 ……相川の言うことも尤もか。この濃いメンツに馴染んでいるところを見ていると白奈が素人だということを忘れそうになるんだよなぁ……。




「あー……つまりだな、俺の従姉いとこが、お前を狙っていたヤクザを組織ごと壊滅まで追い込んだんだ。だからそこまでピリピリする必要も無くなった」




 こんなことを言ってしまったから、この3日後にショッピングモールに行く羽目になったんだが……それはまた別の話だ。


 ここでは鹿野崎のことは言わない。白奈に余計な心配を掛けさせるのはよろしくないだろうし、今だけでも3人を休ませておきたかったからだ。身体はともかく精神は疲弊しているだろうからな。


 後から考えれば、相川が居るところで鹿野崎の話をしなくて正解だった。まぁ、叶未さんとの通話でバレていたようだけど。




「そっか」


「反応が薄いな。気になることでもあるのか?」


「そうじゃなくて、実感が湧かないというか……その、三竜会? の人達にも殆ど会ったこと無いし」


「……そんなもんか」




 自分の知らないところで、自分の知らない組織が潰されましたなんて言われても困るだけということだろう。どうやら襲われたことに関しては自業自得だと割り切っているようだし、三竜会に対する恨みとか恐怖は薄いようだ。




「ところでシロちゃん。お医者さんがさ、シロちゃんの胃の中に何も残っていないって言ってたんだけど……どうして?」


「え……?」


「そうそう、アタシも聞いたんだけどさ、白奈ってばちょっと動いただけで栄養失調になるほどだったんだよ?」


「あー……えっと、その、それは……」


「「それは?」」


「……だ」


「「だ?」」


「ダイエット……です」




 最後は消え入るような声で白状する白奈。

 というか胃の中身が無かった原因はそれかよ。なんでか知らんが看護師の連中に「ちゃんと食べさせろ」だの「もっと労わってあげなきゃ」だのと怒られたんだぞ。後であいつらに説明しておけよな。


 つーか、なんで俺が他人の体調管理までしないといけねぇんだよ。高校生なら自分の食事くらい準備出来るだろ。




「し、シロちゃんが、ダイエット……?」


「遠回しなアタシ達への嫌味かな? うん?」


「え、いや、違っ――」


「お前ら運動しないとすぐに太るもんな」


「「御門ぉおお!!!!」」


「うるせぇよバカ。患者がいる部屋で騒ぐんじゃねぇ」




 今のはデリカシーに欠ける発言だったのは認める……が、謝る気は無い。この騒いでいる2人と俺の後ろでおどおどしている1人がしっかりしていれば白奈が栄養失調に陥ることもなかったのだ。少しは反省してほしい。




「謝れ! 世界の女性に謝れ!」


「別にお前らが太ってるとは言ってないだろうが」


「それでもっ、女の子に体重の話は厳禁っ! これ即ち世界の理なりっ!!」


「病室で騒ぐのも厳禁だっつーの。……それで? 白奈はなんでダイエットを? 見たところ必要なさそうだが」


「水着とかになると、脇腹とかが、ちょっと……」


「お前のスタイルでそれを言ったらこいつらが憐れだな」




 白奈は出るとこは出てるし、引っ込むとこは引っ込んでいるという、実に男好きのしそうな体型だ。腰だってちゃんとくびれている。俺みたいな特殊なヤツや、同性愛者でもない限り思わず見てしまうようなプロポーションなのだ。それなのにダイエットとか。やっぱり女の考えることは分からないな。




「うぅ……2人とも酷いよ……」


「アタシも心が折れそう……」


「一之瀬、そっちの2人は頼んだ」


「あ、はい」




 自分達よりもスタイルの良い白奈が人知れず努力していたことを聞いて、普段は特に何もしていない2人は多大な精神的ダメージを負ったらしい。口から半透明の何かが出ている気がした。




「さて、あっちはどうでもいいとして……白奈」


「は、はい」


「ダイエットはしてもいいが無理はしないように。それと、あまり痩せ過ぎるのもいいとは言えない」


「でも、太ったら仕事がなくなっちゃうし……」


「そもそもお前は細過ぎるんだよ。ガリガリってのは意外と好かれないぞ」




 好みの問題だろうけどな。




「れ、令だって、痩せている子の方がいいでしょ?」


「俺から見たらお前は痩せ過ぎだ」




 見るからにショックを受けた顔で白奈は固まった。


 白奈の細さは、健康的な細さではないような気がするのだ。細ければ細いほど良いという人も居るだろうけど、俺は少なくとも健康的な状態じゃないと興味すら持てない。




「ま、お前がそれでいいなら俺は何も言わないけど」


「……令はぽっちゃり系が好きなの?」


「俺の好みなんてどうでもいいだろ」


「いいから教えてよ」


「……過度に痩せたり太ってたりしないなら、俺はそれでいい」


「むぅ、ハッキリしないなぁ」




 本音を言えば、彼女マキナの体型がベストではあるのだが……こいつらはマキナのことを知らないしなぁ……。

 あ、一応言っておくけどロリ・ペド系は無理だ。どうあっても女として見れない。だから一之瀬なんかは、俺の中では妹とかペットみたいな立ち位置に居る。




「ま、あれだな。自然なお前が一番なんじゃねーの?」


「えぇっ!?」


「あ? なんでそんなに驚くんだよ」


「な、何でもないっ」



「(また白奈が勘違いしてるよ……)」


「(あれは御門の好みとかじゃないからねー)」


「(全部客観的な意見ですよね……)」




 そこの3人、うるさい。


 早くこの仕事終わらねぇかな。こんな姦しい奴らじゃなくてもっと静かなメンバーを頼めばよかった……。




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